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【詩】成人儀式

母方の叔母が、喪服を着た私にバナナチップスばかりたらふく食べていないで、紫色のアイシャドウをもっと濃く目元に塗りなさいといきなり言った。それから、焼き場から呑み屋にいざなって、鯨のたけりが食べられないのかと嘲るように哂った。私が耐えられなくなって泣き出すと、やさしく頭をハグしてくれた。 

桜が満開だったあくる日、しくしくとまだ啜り泣いている私と叔母は花見に出掛けた。人の群れはどこも哀しく蠢いていた。ふと気づくと、叔母は小さくなって、わたしのさえずりにもうすべり込んでいた。あっと声をあげる間も無く、彼女の血液と私の血液は交換された。私はそれまでどこかでまだ怖れを抱えた頑な少年だったのだ。

 屋台では明石焼きを焼く音がじゅうじゅうしていた。私は残酷に小腹がすいたと懐の貧しい叔母に告げた。お勘定を待って小さくなって震えている私に、叔母はたまごと出汁とタコの味はどうだったかいと訊ねた。美味しかったと答えると彼女は満足そうに微笑んで、ふらりと沼の方角へ消えていった。明石焼きはほんのりと舌の上できいろく甘かった。






           詩集「スパイラル」
             モノクローム・プロジェクト刊
                 2017/4/10

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