生かされて

ガラス窓の内の観葉植物の葉が何層にも
花開いた喫茶店の
紫いものチーズケーキを舌先で転がしながら
ふと外を見やれば

その昔買った濃い藍色の皿を
売っている陶器屋や
証明写真を年老いた指で
撮ってくれた小父さんのいる写真館や

あわい想いを寄せた売れない絵を
額装してくれた画廊や
エレベーターでいつも挨拶をする白髪の老婦人の
ぎこちない足取りが見えて

私はここに偶然
生かされている不可思議と
小さな四角の中の
そのまたささやかな白い四角い部屋で
寝たり起きたりしている自分の小ささに

きっかりと向き合うことも
うまく出来ないままに

世界が私を受け入れていることに漸く気づき
生まれて初めて
携帯からあなたの着信を受けた

この小さな私の箱庭のような街から
春は出航する

　　　　　　　　　　　　詩と思想2018年9月号初出

　　　　　　　　　　　　　　　2021/11/24　改稿