『ある日、爆弾が落ちてきて』

 屋上で一服している予備校生の頭上に突然、昔好きだった同級生に似た新型爆弾が落っこちてきてデートに付き合わされる表題作「ある日、爆弾が落ちてきて」のほか、「時間の流れ」をテーマにした7つのボーイ・ミーツ・ガール短編集である。

 読み始める前から分かっていたが、ザ・セカイ系といった内容だった。どの作品もボクとキミの間に起こるちょっと不思議で切ない物語を、二人の恋愛、あるいは第三者の恋愛を絡めて描いている。

 発行年は2005年ということだから、セカイ系全盛の時代だと思う。ちょうど新海誠監督の「天気の子」が一大ムーブメントを巻き起こしていた頃である()。

 この本のページを開いたのは、表題に引かれたからであった。

 タイトルからしてセカイ系の臭いがプンプン漂ってきて、瞬間的にカートに叩き込み瞬間的に購入ボタンを押していた。

 いざ読んでみた感想を一言で表せば「予想よりは面白かった」である。

 正直そこまで期待はしていなかった。

 表題作「ある日、爆弾が落ちてきて」は、ある日突然、空から昔好きだった同級生が降ってくることから始まる。王道の「親方、空から美少女が!!」だ。今日日進研ゼミだってやらないコッテコテのラブコメラノベの王道である。ゆえにとてもいい。おまけにその同級生は自らを「新型爆弾」だと告白し、事実、彼女の胸には懐中時計が埋め込まれている。主人公は何が何だかよく分からないまま、彼女に手を引かれる形で「デート」に付き合わされることになる。この巻き込まれ型主人公も王道でよい。

 「昔好きだった同級生が爆弾になっていた」という文章は日常で目にすれば正気を疑うパワーセンテンスだが、ラノベの中で読めばこれ程引き込まれる文字列もなかなかない。チェーホフの銃的メソッドに則れば、物語に無意味な爆弾が登場してはならない。爆弾が登場するからには爆発しなければならない。あるいは爆発まで行かなくても爆発寸前までは行かなくてはならない。切ないラストになるということが分かりきっているの¥である。

 事実、ラストは切なかった。

 読み終えた後、「ああ、セカイ系だなあ」と思った。

 ただ、直前に僕は「イリヤの空、UFOの夏」を読んでしまっていた。

 「イリヤの空〜」は同じくセカイ系ラノベであり、かつその最高傑作であり、僕のバイブルであり、全人類が読むべき物語であり、ビル・ゲイツに死ぬまでに「今、読むべき本」として紹介してもらいたい作品である。

 そんな同じセカイ系ラノベを2作連続で読んでしまったせいで、どうしても比較せざるを得なかった。比較することなど無意味だし、双方の作者に失礼だと言うことは重々承知しているのだが、どうしても比較してしまった。

 その結果、設定も世界観もキャラクターも文章も、すべてにおいて「イリヤの空〜」が「ある日〜」を上回っていた。

 つーかぶっちゃけ「イリヤの空〜」に勝てるセカイ系作品は2020年現在現れていないのだから仕方のないことでもある。

 とは言ったものの僕は「ある日〜」も嫌いではない。

 最初の方に言ったとおり「予想より面白かった」のである。

 収録されている7つの短編それぞれの主軸となる設定はどれも「時間」に関するものだが、アプローチの仕方がどれも絶妙に違う。作者が後書きでそれぞれの「時間へのアプローチ」について図で解説してくれているのだが、それを見ると一目瞭然である。

 僕は時間物が好きだ。これまでに「時間」をテーマにした小説を3作ほど書いたことがある。ただしどれもタイムトラベル物であり、時間が進むか戻るかという単純なアプローチしかできていなかった。しかしこの作品を読んで、時間に対するさまざまなアプローチの仕方を知り、自分の底の浅さを思い知らされてしまったわけである。とても悔しいのである。もっと深く、多角的に物事を考えないといけないなと思ったところで終わりにする。


 ちなみにこの短編集の中で僕が最も気に入ったのは2番目に収録されている「おおきくなあれ」。記憶が逆行してしまう奇病を患った女子高生のために幼馴染みの男子高校生が奮闘する物語だ。終わり方はとてもベタだったが、個人的にはかなり好きな終わり方だった。ベタだがベターだったのである。

 おあとがよろしいようで……

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