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硫黄島の白い旗 水木しげる

あの時に白旗をかかげた軍曹の行為は正しかったのではないか?
問題をなげた「硫黄島の白旗事件」

鬼軍曹と呼ばれる山男のもとに、召集令状が届いた。
家族思いの父親が戦地に立つ日、子どもたちは屈託なく父親を送り出す。

「戦争に行ったら手紙下さいね。」

「うん」

出発

「鬼軍曹」と「椿兵長」の率いる部隊は、硫黄島補充部隊の最期の砦として、総員玉砕の決意をもって本土を出発した。
だが、硫黄島まで無事にたどり着く船は少ない。

魚雷が飛び交う中、命からがら硫黄島にたどり着いた兵士たちは、息つく暇もなく指定されている高地の防備につくことを命令される。

武器弾薬をもって目的地に向かって出発した鬼軍曹率いる鬼分隊たち、目的地に着くや否や、穴掘り作業を命じられる。
兵士たちは、心臓が弱くて倒れたり、てんかん発作で安静にしなければいけなかったりと、作業は全く進まない。
それもこれも、鬼分隊たちは軍隊で訓練を受けてきたことのない、一週間前に召集された第二国民兵たちであった。

てっぽうの撃ち方さえ知らない彼らを前に、鬼軍曹は考え、そして決意を告げる。

「すべてあきらめよう。敵を前にして教えたところで何の役に立とう。第二国民兵といえば、気の毒な病人と老人なのだ。彼らに戦えという方が無理だ。」

軍曹は兵長と二人だけで戦うことを決意する。

激戦開始

あくる 昭和20年2月19日午前9時。
アメリカ軍は戦艦部隊を先頭に6万1000名の大軍を800隻の艦船にのせて大挙硫黄島に押し寄せてきた。
守る日本軍、2万2000名。硫黄島で激戦開始。

食糧問題

空腹のため餓死寸前の状態に陥っている兵士たちのために、鬼軍曹は連帯本部まで行って、食料の調達をかけあいに行く。

しかし幹部は、分隊分の食料は司令部からは届いていないといい、それを聞いた鬼軍曹は、司令部まで食料を調達しに向う。

敵に攻撃を受けながらも、鬼軍曹は運よく食料を積んだアメリカ軍のジープと遭遇し、敵を倒しジープごと食糧を奪うことに成功する。

白旗

食事を取って一時の満足感を味わっているその時、敵の総攻撃が始まった。

このままでは全滅すると判断した鬼軍曹と椿兵長は、撤退する決断をする。しかし、参謀は一括する。「軍司令官のお言葉、『死すとも現陣地を守るべし』と申されているではないか。」

だが、そこでも鬼軍曹は、今更引き返しても犬死にするだけだと言い返すが、参謀に戦争逃亡罪で銃殺だといわれ、命令に従わざるをえなくなる。

みんなを引き連れて前線に進む鬼分隊。
激しい銃撃戦で、なかまたちが次々と倒れていく中、鬼軍曹は白旗を決意する。

「白旗」と叫ぶ鬼軍曹、「白旗」を挙げる椿兵長。


進むも死、退くも死、じっとここにいても死


鬼分隊が白旗を挙げたのを見た参謀は、「生きて虜囚のはずかしめをうけることなかれ」と言い放ち、鬼軍曹を撃ち殺す。
それをみた椿兵長は、参謀を刀で斬り殺す。

やがて、昭和20年3月17日の夜が明けた・・・


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水木しげるの画は、戦争画であってもなにか少し滑稽だ。
それは、戦争という行為自体が滑稽であり、人間の滑稽さを浮き彫りにしているそのものが戦争であるわけで、その画のユーモアさが、戦争という惨劇をよりあらわにしているように感じられる。

水木しげるの体験した激戦地での人間の醜さは、対敵、というよりは、日本軍の教えを叩き込まれ、自決や玉砕に向かってしまった、間違った大義を持った日本軍に向かっているのを感じる。
戦陣訓を強要する司令部に歯向かうこと、それは尊厳を持った人間として当然ではないか。「白旗」をあげた鬼軍曹が訴えたかったこと、それは、「どんなことがあっても生きろ。」ということなのだ。

そして、そんな地獄絵図の中にも人間のユーモアが描かれているのが水木漫画である。
それは、戦争を繰り返す人間をあざ笑っているかのようでもあり、一種の救いでもある。つまり、どんな悲劇が起こったとしても、ユーモアを忘れない、ということを伝えたいのではないか、と思った。



水木しげるの「人間玉」という実話をもとにした短編がある。
水木しげるは、昭和18年、最下級の補充兵として輸送船につめ込まれ、南方戦線に出発している。

「人間玉」は、自分の意志とは裏腹に戦争に巻き込まれた、肉ダンゴと化した兵士たちを描いている。

水木しげるは言っている。

この船に乗っているときは、「死」とか「無」に向かっていくような気持だった。だから、だれも先のことは考えないようにしていたね。まもなくこの演習のようなそういう「死」を迎える状態がくるんだな、と思っていた。

そんな地獄へと向かう船の中でも、ユーモアに満ちた人物像たちの描写は、逆に読者を深い悲しみへと誘うだろう。

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