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コミティアでの見本誌提出について

2024年5月26日開催の、東京コミティア148に出展した。知り合いが駆けつけてくださったこと、新たな出会いもあったこと、自分の今後の活動方針を考える中で学びや発見が多かったこと、参加してよかったと思う。

今回初出展であったが、本イベントのルールについて気になったことがひとつ。「見本誌」の提出義務である。

見に行ったのは15時頃だったが、見本誌コーナーにはたくさんの人で賑わっていた。コミティアは小説もあるが漫画作品がほとんどのイベントである。見本誌をパラパラと眺めて、お客さんが「面白そうだから買いに行こう」という流れにするのが目的であるのはわかるのだが、漫画という性質上、数分で読み終わってそれでおしまい、ということにはならないのだろうか。その結果売れるはずだった本が、利益を逸してしまうことにはならないのだろうか。

マンガ同人誌の収集、保存、利活用については、以下に2008年の記事だが興味深いまとめがある。

紹介した記事において、「即売会・専門書店で不特定多数に頒布はんぷされる同人誌ではあるが、サークルの意識には、同人誌は「同好の士」の間でやりとりされるという「身内感覚」があり、その感覚を共有しない人も来館する図書館で同人誌を閲覧可能とすることについて、心理的な抵抗感を持つ者も少なくない。」(※1)という点が指摘されている。なお、コミティアの見本誌回収にあたっては「提出していただいた見本誌はティアズマガジン誌上での紹介や、見本誌読書会での公開など、有効利用に務めています。」という理由を見つけたのみ(※2)だった。コンテンツビジネスでもしばしば問題になることだが、ここにおいてすら、「創り手・クリエイターたちの気持ちがまれていない」という印象を受ける。作家本人が提供したいというならともかく、有償で譲渡する商品を提供せよというのは酷ではないのか。ユーザーにとっては有難いだろうし、主催者にとってもとくに痛手はないのだろうが、作家にとっては1冊分マイナスである。

趣味とはいえ、買い手からお金を頂くために、時間と労力をかけてたった1冊を作っているのだ。原稿を描いてコンビニにコピーに行き、間違えたら印刷しなおして、製本用のホッチキスも買って、ひとつひとつ自宅で準備しているものである。コピー代もインク代もタダではない。クリエイターの想いというものは、実務的で見えないところにもこらされているものなのだ。

図書館に入っている本は誰でも無料で読めるが、書籍自体は購入されている。博物館の資料の収集には寄贈も大きな役割を果たす。見本誌のシステムをやめるべきだとは思わない。そこでの出会いと購入も当然あるだろう。だがせめて、任意提出にしてはどうか。その代わりに、次回のコミティア参加費用を優遇するだとか、何か策もあるのではないか。クリエイターへの還元はコンテンツ業界全般の課題である。老婆心かもしれないが、若い人たちがなけなしのお金で制作をしている背中を、私は想像せずにはいられないのである。

※1 引用記事「5. 同人誌の保存と利活用にまつわる問題点」より。里見直紀,安田かほる,筆谷芳行,市川孝一「CA1672 – マンガ同人誌の保存と利活用に向けて -コミックマーケットの事例から-」カレントアウェアネスNo.297、2008年9月20日。

https://current.ndl.go.jp/wp-content/uploads/mig/ca/ca1672.pdf

※2 コミティア公式サイト「FAQ > 見本誌提出・巡回受付」見本誌は必ず提出しなければいけないのでしょうか?


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