眼帯読書

最近、自分の目が悪くなったように感じる。
読書をしていて自分の目と本の距離が近くなっていることに気がついた。日頃からスマートフォンばかり見続けていたのが原因だろう。

視力検査で「A」より下の評価を受けたことが無い私にとって、これは重大な問題だった。何とかしなければいけないと思った。

私は右目と左目の視力が違う。ガチャ目である。
より視力が低いのは左目で、普段は殆ど右目の視力に頼っている状態だ。とりあえず思いついたのは、左目だけで本を読んで左目を積極的に使う訓練をするという強引な方法だった。

右目を覆うために家にある黒いハンカチを目に当てて紐で縛り、簡易的な眼帯を作る。鏡の前に立つ自分を見て少し可笑しくなった。
はっきりとは見えない左目で周りを見渡してみると、自宅であるにも関わらずなんだか不安だった。

早速私は椅子に座り、左目だけで本を読み始める。
しかし5分も経たないうちに不快な症状が出てきた。視界の右側に、テレビの砂嵐のような靄がかかり始めたのである。辛うじて文字は読めるものの何だか目障りだった。さらに数分後、頭が痛くなり始めた。これはその日の天気が曇りだったからという可能性もあったが、自覚したタイミングが偶然とは思えない。肝心の本は、もはや文字が頭に入るだけで単語の理解が出来なかった。この感覚は、寝不足の状態で受ける国語の授業に似ていた。

我に返り、流石に止めようと思った。
右目を覆っていた時間は約20分だったが、これ以上は自分で自分の首を絞める事になる。私は本を置いて椅子から立ち上がった。そして「両目」を閉じてから紐を緩めて眼帯を外した。

20分とはいえ、使っていなかった片目を開く瞬間は、両目同時が良いと思ったのだ。

私は窓の前に立った。
目を開けた瞬間、入ってくる光の量に驚いてまた両目を閉じてしまった。なんて明るさだろう。さっきまでの自分はこの光の中で生活していたのか。ひょっとすると自分の目が悪くなったのは、この光のせいなのではないか。

右目が窓の外を受け入れた頃、私はその見え方にまた驚いた。外がとても広かったのだ。
単純に視界が広がったのとは別で、外がより立体的に見えたのだ。
通っていた予備校で片目を怪我してしまった講師が、これでは絵を評価しづらいと苦言を呈していたのをふと思い出した。
人間にはやっぱり2つの目が必要なのだと納得した。

私はその後、すっきりとした視界でまた本を読み始めた。視力についてはまた今度、眼科にでも行こうと思った。何でも自己流は良くない。
それでも暫くは、まるで新しい能力を手に入れた主人公のような気持ちで余韻に浸っていたのだった。







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