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意識しない

その女の子は、私より2歳年下で、本社から異動してきた。私が事務員をしていた時の事を最近なぜかよく夢にみて思い出すのだが、髪がふわふわで長くて、モデルみたいに背が高いその子は、私の正面の席に座った。

本社から異動してきたその女の子の前任の前任の方は私より2歳年上の女の先輩で、私の事を気にかけてくれ、色々仕事を教えてくれてとても可愛がってくれた。

その正面の席の先輩が結婚退職する直前の事だが、私の左隣の当時39歳女性の先輩と、同じ島の課長代理(既婚男性)の様子がどうも怪しいと教えてくれた。毎週水曜日のノー残業デーになると、2人揃って午後休をとるとか、地下倉庫の鍵を課長代理が持って地下に行くと、すぐに女性の先輩が席を立ち、2時間近く席を外しているとか。2人は同じテニス部でペアになっていて、休日出勤するとテニスをする格好で課の席で課長代理の膝の上に39歳の先輩が座っていたのを見た人が居るとか…

そんな話を耳にすると引き寄せられたように残業する私の携帯が鳴り、同期の子から「今駅前の居酒屋から課長代理と○○さんが手を繋いで出てきたのを見ちゃったんだけど!!」と連絡があった。私は自分の前任の先輩が引き継ぎ書を作っていなかった為、自分の仕事が何かも分からない状態からスタートしていたから、自分の事でいっぱいいっぱいで、隣の席の先輩が課長代理と不倫しているなんて思いもしなかった。全く気づかなかった。

その39歳の先輩の事を、それ以前から私は好きではなかった。1つは、物質主義というか、バブル世代というか、ブランド物が好きなようだった。ある時、会社のおじさんがどこかのお土産におまんじゅうをくれたので、配っていると、「これって和三盆?私、和三盆じゃないと要らないわ」とその先輩が言ってきた。その当時和三盆を知らなかった私は「和三盆って何ですか?」と聞くと、「そんな事も知らないの?上品で高級なものだからね。(上品で高級じゃない小娘のあんたは知らないでしょうよ、と聞こえた)」と言われた。

2つめは、私の前任の先輩が引き継ぎ書を作っておらず、通勤費の書類を39歳の先輩へ渡すという事までは聞いていたが、B4サイズという特殊なサイズで渡すという事までは知らずにA4で渡してしまった事がある。すみませんと謝り、また間違えてしまったら申し訳ないのであと他に私が先輩に渡す書類ってありますか?と言うとこの先輩は「異動して来て大変だねー。全部キチンと自分で調べないとねー。」と言ったからだ。甘ったれるなよという意味だったのかな。

本社から異動してきた女の子は、愛嬌があり、甘えるのが上手で、みんなのマスコット的な存在となった。ある時、この子が「明日、○○さん(39歳先輩の下の名前)と明日、カフェに行くんです!」と言いはじめ、月1位のペースで夜ごはんを食べに行くと言っていたので、「余計なお世話かもしれないけど、水曜日は○○さん、前の課長代理とお出かけする事が多いみたいだよ…」と不倫の件を話すと、「そうか、じゃあ余計○○さんを誘わなきゃ。寂しいから不倫しちゃったりするんですよね、きっと。」と言った。そしてその子は39歳の先輩と仲良くなり、先輩も以前よりも笑う事が多くなった。

この本社から来た子のすごいなと思ったところは、文句を言われたり、からかわれたり、いじられたりしても、全く気にしない事だ。それを誰に対しても

例えば、上司の男性に「こういう細かいところをキチンとしないと…」と言われると、「重箱の隅をつつくような小さい事を言ってると、モテませんよ?」と返すのだ。私がその上司に言うと多分…確実にケンカになってしまう。39歳の先輩に対しても、所長に対しても、同期に対しても同じように、全く意識しないというのは、周囲の人達がみんな笑顔になる気がする。

深く考えず、誰に対しても同じように接するように生きるのは、意外と大切なスキルなのかもしれない


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