飛行機にて
昨年の5月頃、家族で沖縄に旅行に行くのに飛行機に乗った。
大阪から沖縄までは約2時間。
乗って音楽でも聴きながらゆっくりするかと思っていたその時、客のみんなからざわつく声が聞こえた。
なんだと思って振り返ると、
「お前ら大人しくしろ!少しでも逆らえば皆殺しだ!」
ハイジャックだ。
緊迫感が機内に広がり、全体が静まり返った。
そして犯人がそのままコックピットの方に行こうとして僕の横を通り過ぎた時に気づいた。
持ってる銃、100均で売ってるやつや。
弾が吸盤になってて簡易な的に貼り付くタイプの100均のオモチャ銃だった。
でも他のみんなはハイジャックという異様な状況に銃がオモチャであることに気づいていない。
そもそもよく見たら格好も変だ。
こういう時、普通は全身黒づくめの格好をするべきだと思うが、彼はデニムのセットアップにまんまるの小さいレンズのサングラス、マスクもアベノマスクばりの小さいサイズの布マスクだ。
でも他のみんなはそんなおかしな格好に気づいていない。
僕はなんだかその犯人が可愛く見えてきたのでそこでは捕まえず、コックピットに行ったらどういう返り討ちに遭うのだろうと興味が湧いてしまったのでそのまま行かせることにした。
すると機内の電気が一気に消えた。
え?もしかして犯人が?と急に不安になり立ち上がって走ってコックピットの方に向かっていこうとしたら、ハッピーバースデーソングが流れ初め、コックピットのドアが開き、犯人がホールケーキをカートで運んで僕の前にいた女性に「お誕生日、おめでとうございます!」と言ってお祝いした。
その女性の横に座っている男性が「おめでとう!」と嬉しそうに言っていた。
おそらくその人がサプライズで頼んだことなんだろう。
どんズベっていた。
誰からの笑い声や祝福の拍手は無く、脅していた時と変わらない空気になっていた。
犯人役のスタッフの人が尋常じゃないぐらい汗をかいていた。
飛行機は当分乗らないでおこうと思う。
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