仲間外伝

みな夢はある。しかし誰も金がない。真田と竹田は男性用風俗の仕事を始めた。2人はノンケだが、抵抗なく仕事ができるらしい。木村もやらないかと誘われた。金がないのは彼も同じだった。仲間の内で1番余裕がなかったかもしれない。それでも身体を売ることには抵抗がある。

木村は学生時代、ゲイという概念を嫌悪していた。ゲイじゃないと分かっていても、つい疑いの目を向けてしまう。友人と軽いスキンシップをとっただけで、クラスの女子から疑われたこともある。友人を疑いたくないし、周りに誤解されたくもない。男同士の友情に、暗い陰をもたらすゲイという概念自体が許せなかった。
今では昔ほど否定しなくなった。ゲイのカップルを見ても、別に気にならない。だが男のために、自らの身体で奉仕するなぞ、自分には到底出来そうにない。

木村は何度も思い悩んだ末に、一度だけでもやってみることにした。真田や竹田のように、やってみれば案外平気でこなせるかもしれない。己の不要なプライドを失くせるかもしれない。
それになんと言っても金が必要だった。月末には、いつもカード会社から催促の電話が来た。母や祖父に散々無心したが、もうこれ以上頼れない。頼りたくない。

不幸にも、木村の初めてはお泊まりコースだった。緊張しつつ、最寄りまで電車で向かう。客は四十半ばのおじさんだった。話してみると丁寧で気さくな人ではある。ただ木村にはどうも下品な顔に見えて仕方がない。コンビニに寄る。
「なんでも欲しいもの買っていいからね」とおじさんは言う。木村は遠慮しつつも、バスクチーズケーキと炭酸水を買ってもらった。

家に着く。入ってすぐに良い匂いがした。綺麗に整っていて清潔である。部屋も広い。生活に余裕があると見える。
テレビをつけて世間話をしながら、買ってきたスイーツを食べる。会話の合間におじさんが言う。
「食べたらシャワー浴びてきてね」
木村は思わずドキッとする。

彼は身体を洗いながら冷静になった。やっぱり帰りたい。おっさんは親切そうではあるが、どうも好きになれない。ゲイではなくノンケでウブな新人の男をあえて選んで、相手をさせているのだと思うと虫唾が走る。できることなら今すぐ逃げ出したい。もちろん、木村にそんな勇気はない。観念するしかなかった。すると脳は勝手に言い訳を見つけ出す。
『でも悪い人じゃない。さっきは気前よくスイーツを買ってくれたし。気さくで丁寧に接してくれている。全て金のためだ。終わったら旨いもん食べよう』

シャワーを出ると、リビングに広めの布団が敷いてある。さっきまではなかったのに、ずいぶん用意がいいなと思う。
おっさんがシャワーを浴びたあと、そこに2人で横になる。おっさんの指示通りに己の身体を動かす。動かしながら、内なる心の拒絶は止まない。途中でおっさんが口を使い出す。むろんピクリともしない。見返りにこちらの口を要求される。自分が自分でないような、おかしな感覚になる。結局夜も朝も、満足させられなかったようだ。おっさんがセルフでシゴいてる時間の方が長かったと思う。

木村は初回で引退することになった。しばらくトラウマになったが、学びもあった。今では同業者への偏見が全くない。

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