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ヒトを理解する

さて、今日は『ヒトを理解する』というテーマでお話ししたいと思います。

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▼人類種(ホモ・サピエンス)の歴史

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■人類とは ?
「人類」という言葉の本来の意味は「ホモ属に属する動物」であり、ヒト亜科ヒト族ヒト亜族のうち大脳が大きく進化したグループのことを指しています。そして太古の地球には、我々ホモ・サピエンス以外にも、数多くの人類種が存在していました。

人類種の共通点として、巨大な脳による思考力、直立二足歩行による手と道具の使用、火の使用が挙げられます。

これらは我々ホモ・サピエンスだけの優れた特性で、そのおかげで地上最強の生物となった…と思いきや事実は違います。
例えばホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)は「現在」のホモ・サピエンスよりも大きな脳を持ち、筋肉が発達し、道具と火を使い、狩りが得意でした。また、重い身体障害を持ちながら何年も生き永らえたネアンデルタール人の骨が発掘されており、身内に面倒を見てもらっていたことの証拠とされていて、ネアンデルタール人はホモ・サピエ ンスよりも病人や虚弱な仲間の面倒見が良かったということが分かっています。

ホモ・サピエンスは、他の人類種に比べてどちらかというと劣った存在でした。実際、中東のネアンデルタール人に挑んで敗北し、逃げ帰った歴史もあります。

ところが、ホモ・サピエンスの複数の集団が約7万年前に再び中東に進出した時には、ネアンデルタール人をはじめとする他人類種に勝利してしまいました。その後、驚くほど短い期間でヨーロッパと東アジアに達し、地球上からあらゆる他人類種を駆逐してしまいました。
考古学者などの研究によれば、ホモ・サピエンスが新しい土地に到着するたびに、先住の人類種は「たちまち滅び去った」ということが分かってます。そして約4万5千年前には、海を渡り人類種未到達だったオーストラリア大庭に上隆。そこに生息していた大型の動物種24種のうち23種を絶滅させてしまいます。ホモ属では劣った存在だったホモ・サピエンスが、一体どうして他人類種を圧倒するほど強い種になり得たのでしょうか?

◉ホモ・サピエンスに起こった変化
約7~3万年前にかけて、ホモ・サピエンスは技術や組織力、先見力を獲得していったことが分かっています。火、ランプ、 針などの発明、人類初の芸術と呼べる品々、宗教や交易、社会的階層化といった全てが、この時期に生み出されています。

これらは、ホモ・サピエンスが自らの振舞いを素早くかえて変化を繰り返したことで可能となりましたが、生物進化学上ありえないこととされています。

これがいかに驚異的なことか、他の生物と比較してみるとよくわかります。例えば、ホモ・エレクトスは200万年前に遺伝子の突然変異で誕生しました。誕生と同時に新しい石器技術を発明した優秀な種でしたが、その後200万年近く、新たな遺伝子の突然変異を経験せず、石器もほぼ同じままでした。ホモ・エレクトスが使う道具は200万年間ほとんど変化がありませんでした。

人類種以外で社会的な行動をするチンパンジーやボノボなども、遺伝子の突然変異なしには、その行動に重大な変化は起こり得ません。対照的に、ホモ・サピエンスはこれまでの歴史が証明しているように遺伝子の突然変異がなくても数十年で社会構造、対人関係、経済活動などの行動パターンを変えられます。

この変化の柔軟性こそが、人類種抗争で最強の武器となったわけですが、何故ホモ・サピエンスだけが変化できたのでしょうか?

【人類発展の過程①】

■認知革命
ホモ・サピエンスは、変化の柔軟性をどのように獲得できたのか?
多くの研究者は、約7万年前に遺伝子の突然変異で脳内の配線が変わり、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通をすることが可能になったと考えています。
この結果、 ホモ・サピエンスには認知革命が起こり、新しい思考と意思疎通の方法を獲得したと考えています。他の動物らは自分が直接見聞きした事実を言語によって「気を付けろ!ライオンだ ! 」などと仲間に知らせることができます。

しかし直接見聞きしたこと以外は語れません。ところがホモ・サピエンスは「誰々はライオンを見たらしい」と噂をしたり、「ライオンは我が部族の守護霊だ」と虚構を語ることもできます。現人類の言語からするとまだまだ拙いものでしたが、ホモ・サピエンスが他の生き物に比べて高度で柔軟なコミュニケ ーションを取れるようになったことで、迅速に振舞いを変えながら巨大な集団を形成し、一対一で戦ったら到底勝てない他人類種を数の力で圧倒することができたといいます。

■噂をする・噂を信じるカ
認知革命で何より注目したいのが、見聞きした事実でなくとも信じる能力を手にしたことです。例えばチンパンジーは親密な関係を結び、群れで協力して狩りをし、敵対する動物と戦う。群れには有力なリーダーがいて、他の個体は服従するという階層的な社会を作っている。
ただ、維持できる集団の大きさには限界があり、集団が機能するには全員が互いを親しく知らなければいけません。初対面のチンパンジー同士は、信用し合えるのか、どちらが上位かを判断できません。
チンパンジーの群れは20~50頭から成っていて、それ以上増えると秩序が不安定になり、やがて不和が生じて分裂し、別々の群れを形成するようになる。ところがホモ・サピエンスは「あのリーダーは強くて頼もしいらしい」などの噂を信じて、
会ったこともないリ ーダーのもと団結できます。このおかげで150 人(ダンバー数)もの集団で行動することに成功しました。
その後、ダンバー数(150人)すら超える更なる大組織化を可能にしたのが、虚構を信じる力です。

◉虚構を信じる力
ホモ・サピエンスがダンバー数を超えて団結できたのは、虚構を皆が信じたからです。膨大な数の見知らぬ者同士も共通の虚構を信じることで1つの組織となれました。
例えば 、教会組織は共通の宗教的虚構(共通の神や信仰)、 国家は共通の国民虚構(「生まれは同じ」などの共通概念、国族が象徴するアイデンティティ)、司法制度は共通の法律虚構(法、正義、人権)に根差してます。法人も虚構の1つで、自然人である経営者・投資家・従業員とは独立した存在。例え、構成員が総入れ替えしたとしても、事業所・工場などの物理的な実体が無くなったとしても、存在し続けられる。
これらの虚構は、全てホモ・サピエンスが想像したもので、他の生物たちの社会には存在しません。

◉虚構は嘘ではない
社会科学では虚構を想像上の現実などと呼びます。嘘とは別ものなのです。そもそも、嘘をつくことなら他の動物にもできます。

サバンナモンキーは、ライオンがいないと知った上で「気を付けろ!ライオンだ!」という意味の鳴き声を上げ、仲間を遠ざけ、まんまとバナナを独り占めします。嘘とは発言者本人が存在しないと百も承知している上で騙すことです。一方で、 虚構は想像上の現実と呼ばれるように、神 、国家、法、正義、人権、会社など、現実にはどこにも実体はない。誰かが、「存在しないこと」を話し出したにも関わらず、本人を含めた大多数の人がその存在を信じているものなのです。

【人類発展の過程2】
農業革命
→石器時代(約1万年前)に起きた農業革命で、ホモ・サピエンスは狩猟採集生活に終止符を打ち、定住生活を始めました。

定住することでより団結しやすくなり集団の力を 一層活用出来るようになった結果、高度な言語や文明文化も生まれて、 以前よりも豊かな生活になりました。しかし、残念ながら幸福からは遠ざかったといいます。
5百万人程だった人口は 一気に2億人まで増え、仲間を食べさせるため、より生産力を上げることが必要になりました。そして効率を上げるため生み出されたのが帝国・貨幣・宗数という虚構です。一連の虚構には大きな副作用が存在しました。貨幣は貧富の差を生み、帝国は敵味方の争いを激化させ、宗数は階級を固定化させてしまいました。

ホモ・サピエンスの天敵
当時のホモ・サピエンスの骨を発掘すると、多くは頭蓋骨左側の損傷が致命傷となって死んでいることが分かりました。
なんと人口の20%が、ある天敵によって絶命していたのである。

その天敵とは他ならぬ他のホモ・サピエンスであ った。他の集団に属す仲間から生き残るためには、足を引っ張る仲間をも殺してきたといいます。進化心理学者らはらこの悲惨な歴史は現代社会にも大いに影響を与えたと指摘します。
我々(現代のホモ・サピエンス)の脳は、農業革命の時期に設計を終えていて、当時の最大の天敵(他の集団に属するホモ・サピエンス) を危険視するよう本能が作られています。

つまり我々の脳は、 人間を「自分たち」と「あいつら」に分類し、恐怖を感じさせる扁桃体(情動に関連する、大脳辺縁系にある回路)は「あいつら」にすぐに反応するという1万年前の設計が、変わらず無意識下で大きな影響を与えています。

◉1万年前に設計済みの脳で生きる現代人類種
過ぎ去った時代の名残は、今でも、脳が「自分たち」と判断した集団内で影響しています。
脳は他人の悪い噂を偏愛します。悪い噂話をすると満足感を得られるようになっているという。人類の20%が仲間に殺害されていた時代では「誰が誰に恨みを抱いているのか」「誰に気を付けるべきか」「集団内の敵に対して共闘できそうな人は誰か」などの情報は、食べ物がどこにあるかと同じくらいに重要でした。

さらに脳は自分のことを話すと報酬を与えます。
報酬…中枢と言われる側坐核(前脳にある神経細胞)が活性化されます。
それは周りに自分を認めさせ、協力して何かをしやすくするためで、周りが自分をどう思っているかを知る良い機会にもなるからだ。発言に対する他者の反応を見れば、嫌われないよう自分の行動を改めることもできます。
1万年前に設計したこの報酬は、今では自己承認欲求やリア充アピールなどに姿を変え、SNSが爆発的に普及した大きな要因となりました。

始まりは、殺されないために自分は集団にとって有益な存在だと示すことを目的とした生存戦路でした。現代社会においては、他人を悪く言ったり、自分の価値を示すことは生存の条件ではないですよね。こうしたことに執着してきた結果、人類の歴史は不幸へと歩み続けているといいます。これが、農業革命が生み出した虚構の副作用・人類の抱えるバグともいえる本能です。
我々は、バグを放置すると、幸せとかけ離れた選択や行動を無意識のうちに取り続けてしまいます。

【人類発展の過程3 科学革命】
科学革命とは、ほんの500年前に起きたことで、人口は14倍、生産量は240倍、エネルギー消費は115倍に達しました。
科学の発展は人類の欲望を叶え続け 、資本主義と産業革命が到来すると、科学・産業・軍事のテクノロジーが結びつき爆発的に豊かさを加速させました。「商売で得た利益を生産に再投資し、また商売をすれはみんなを裕福にできる」とか 「飛躍的に伸びた生産量を欲望の満足のため消費することは素晴らしい」という虚構…つまり「お金のある人は投資をする= 資本主義」と「それ以外の人は購買する=消費主義」を表裏一体とする新たな神話が誕生することとなりました。

物質的豊かさに振り切ったこの神話によって利権や権益が増し、貧富や地位などの格差も大きくなり、それに比例して争いも規模を拡大させることとなりました。

【無知の認知の功罪】
科学とは人類は知らないことだらけの無知であるという事実を受け容れることから始まったといいます。無知を認知したことで 「知らないことを解き明かそう」となり、様々なことが明らかにされ 、科学技術が生み出されてきた。一方で、目に見えないものや精神的なものは軽視されることとなったが、現在では物質的豊かさで得られる幸福感は長く続かないと分かってきている。皮肉にも人類は、物質的な豊かさを手に入れること引き換えに、幸福から遠ざかってしまいました。

【まとめ ~3 つの革命により追加された能力~】
3つの革命でなにがどうなったか、それぞれの理解を解いてみる

◉認知革命
→会ったことない人とも集団で行動するようになりました。現実には存在しない虚構を考えたり、信じたりする能力をGET
→今起きていること、見聞きしていることだけが現実です。その他の脳内の出来事は妄想であって、現実のことではありません、他の動物は、良くも悪くも現実だけをみている。夢・希望・絶望・不安など存在しないことを信じるのは人類だけです。虚構を信じる力が突然変異によって生まれたから、人類だけが夢や希望を持つことが可能 になりました。

◉農業革命
→集団内での立ち回りをミスすると割と殺されていました。他人の悪い噂をする・自分を承認させるという生存戦路をGET
→自分より劣る存在を見付けると、「自分の存在価値はこいつより上!」となり、一緒にいると安心できます
→自分を貶める言動をされると、「自分が集団内で存在する価値をなるされる、くそ!」となり、怒る、嘆く、落ち込むなど
→自分と対等に近い相手だと、「なんとか上回ってやる!自分の価値を認めさせてやる!」と、ライバル意識が働く
→自分より優れた言動を見かけると、「自分の価値を脅かされる!」となり、許せない、認めたくない、反発するなど
※自分より優れている相手を「ボス猿(敵わないから従おう)」的に認知をしている場合は、この限りではない

◉科学革命
無知を認めて科学技術で爆発的に発展しました。物質的な豊かさで人類繁栄・心が満たされない人生をGET
→物質的なこと(外的要因=人・物・金)を満たせば幸せになるという認知が広まったが、虚構であって事実ではない
→非物質的なこと(心の中のことや目に見えないもの)が軽視された結果、人類全体の幸福感は大きく下がりました
→そして現在進行形で人類は不幸の迷走状態を加速させ続けている

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▼ 3つの能力との付き合い方

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