見出し画像

商業音楽×吹奏楽の企画のときは、吹奏楽を書き慣れてる作編曲家にお願いしたほうがいいよ、という話

めちゃくちゃ限定的なトピックなのですが(笑) 近年、メジャーアーティストと吹奏楽部のコラボや、ドラマやアニメに吹奏楽が取り入れられることが増えています。

全国に吹奏楽部はたくさんあるんだから、ついでにその楽譜を販売なりCDの特典にするなりしてたくさんの吹奏楽部に演奏してもらおう……という展開も併せてちらほら見かけることも多く、吹奏楽に携わる者としてとても嬉しい流れです。

そんな素敵な企画なのに、吹奏楽の現場的には「この楽譜は現場では使いづらいな……」ということが結構少なくはないです。これには吹奏楽(正確にはアマチュア吹奏楽)の特殊な事情が絡んでいるので、説明します。

オーケストラとは違う、アマチュア吹奏楽特有の事情

オーケストラは基本的にスコアに書かれている編成を正しく守って演奏されます。トランペット3rdがいません、ホルン4thがいませんということは原則的にはありえません。
これらの現象、吹奏楽ではしょっちゅう発生します。例えば、全日本吹奏楽コンクール課題曲以下の編成のような曲が多いのですが、

  • Piccolo

  • Flute 1〜2

  • Oboe

  • Bassoon

  • E♭ Clarinet

  • B♭ Clarinet 1〜3

  • E♭ Alto Clarinet

  • B♭ Bass Clarinet

  • E♭ Alto Saxophone 1〜2

  • B♭ Tenor Saxophone

  • E♭ Baritone Saxophone

  • B♭ Trumpet 1〜3

  • F Horn 1〜4

  • Trombone 1〜3

  • Euphonium

  • Tuba

  • String Bass ※Contrabassのことです

  • Percussion(5名)

吹奏楽コンクールのうち、課題曲を演奏する部門では20人弱〜50人強程度の学校が出演していることが多く、50人強の学校では楽譜に指定された編成を正しく実現できますが、人数が40人を切った辺りからやや怪しくなってきます。
「Oboe」「Bassoon」「E♭ Clarinet」「String Bass」辺りが欠けている学校が出てきます。
30人を切ってくるとさらに「ホルンの4thがいない」「トロンボーンの3rdがいない」「B♭ Clarinetがひとりずつしかいない(よく聴く大編成の吹奏楽らしいサウンドを実現するには、B♭ Clarinetはそれぞれ2名以上いないとなかなか実現できないです)」「打楽器が4名しかいない」という学校が登場し始めます。
25人を切ってくると、人数が不足しているパートは学校によって様々なパターンが出てきます。途中退部や転校などによって重要なパートなのに人がいない、というケースも出てきます。

学校によってはひとつのパートに3人も4人もいることもあれば、0人のケースもあるという、「編成の振れ幅がものすごく大きい」というのはアマチュア吹奏楽特有の事象です。

パートによって演奏技術に差がある

部活という性質上、経験年数が何年もある子もいれば、入部して楽器に触れてまだ間もない子もいます。上達具合は個人差があるとはいえ、基本的に上級生のほうが技術的に上手いことが多いです。
とくに「高い音を出す」というのはどの楽器も技術力を求められることが多く、吹奏楽部では「上級生が1stを、下級生が2ndや3rdを担当」というシチュエーションになりやすく、そうすると速いパッセージやソロなどを2ndや3rdに書いてあるとやや大変かも……という事情があります。

吹奏楽を書き慣れている作編曲家は、それらの事情を考慮した上で楽譜を書く特殊なスキルを持っています

「編成事情がばらばら」「パートによって演奏技術に差がある」、これらの事情は普段オーケストラアレンジを中心に活動している作編曲家の方からするとまったく気にする必要がないことなのですが(オーケストラなど他編成では基本的に発生しない事象)吹奏楽ではこの二点をものすごく気にして楽譜を書く必要があります。
吹奏楽を書き慣れている作編曲家は「技術的に拙いパートが多少いても、人数が多少欠けていてもそれなりにしっかり鳴る楽譜を書く」という特殊なスキルを持っています。吹奏楽業界に他業界の作編曲家が参入してきにくい(参入してきても現場で楽譜が使われない)最大の理由はこの二点だと思います。
この二点が実現できていないと、どんなにカッコいい曲であろうと(アレンジであろうと)、どんな大作曲家の書いた楽譜であろうと「現場では使いづらい楽譜」という認識になってしまい取り上げることは難しくなってしまいます。
実際、アレンジ自体は素晴らしいのですが吹奏楽の楽譜を書き慣れていない方が書いた楽譜を、リハーサルの結果「これではアマチュア吹奏楽の現場では鳴らない、使えない」となって私がリオーケストレーションをした、というシチュエーションが過去何度かあります。

まとめ

なので、冒頭のような「商業音楽×吹奏楽」のような企画の際は、「オーケストラアレンジができる人」ではなく「アマチュア吹奏楽の楽譜を書き慣れている人」にぜひ発注してください。有名な作曲家に頼む際でも、吹奏楽オーケストレーターは別に立てたほうがいいと思います。
せっかく作った楽譜が全然演奏されないとなってしまうともったいないですよね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?