ボーイズの沼に備えて、一応水着を持ってドームへ行く

ドームのチケット、一般先行が今夜からだよ
と、同僚が教えてくれる
前回のライブは単独ではなく、
数曲であったが、素晴らしかったし、
ドームなら行ってみたい
そう思って申し込む

当選

28年間ライブに行き続けている
ロックバンドのチケットは
ドームであっても争奪戦なので
一般先行でサッと当選したボーイズが心配になる

ドームは時期尚早だったのでは？
客席がまばらなのでは？
2デイズではなく1日にしておけば良かったのに
チケット、大量に余るのではないかしら？
ボーイズのメンタルは大丈夫かな

数日して、
ファンクラブでもチケットを取れなかった方がいたことが判明する
私はラッキーだったんだ
スマホの中の貴重なチケットを眺める

ボーイズの沼は深い、と聞く

念の為、万が一沼に落ちてしまった場合の為、そんなはずはないとは思うが、一応、備えあれば、の気持ちでバッグに水着を入れてドームへ向かう

席に着くと、男性もチラホラ
隣に来た方は私と同い年くらいでホッとする
超満員の東京ドームは満点の星空のようで美しかった

3時間で30曲近く
持ち歌のほとんどを歌ったのではないかしら？
すごい体力で素晴らしかった
途中、バンドが加わって、より盛り上がった

しかし、ライブが終わり、
沼に落ちていない自分に気づく

せっかく水着持ってきたのに

周りもメンバーも、みんな泣いてる？
あれ？なんだろ、これ
他校の学園祭を遠くから見ているような？
すごく好きだったのに、デートしてみたらちょっと違った、みたいな？

もっと良席で観ていた同僚の興奮したLINEが届く
大絶賛の感想が次々つぶやかれる
みるみる引いていく潮の砂浜にひとり立っている気分
あれ、乗り損ねた？

沼にダイブする人を見過ぎて、飛び込むタイミングを逸してしまった
やってしまった
感じるより、考えてしまった
帰り道、幸せそうな人達を見てくやしい気持ちがわいてくる
あんなに、誰も置いていかないとメンバーが言っていたのに
みんな、行ってしまった
ついてこいとメンバーに言われたのに
私は行かなかった
もう、沼にはフタがかかってしまったのだろうか
さみしい

いや、まだ遅くない
記憶を書き換えるのだ

それから私は、大興奮の感想動画を連日見た
セトリを追いかけながら、記憶の断片と大絶賛ポイントを組み合わせる
記憶の断片と他会場の過去のライブ映像を組み合わせる
記憶の断片を同僚の座席から見た感想と組み合わせる
まるでメンバーの汗が飛んでくるほどの距離でライブを観ていたかのように

この努力
いったい何のために？
私は沼に落ちたかったの？
押すな押すなと言っていたら、ほんとに誰も押してくれなかった
沼は誰かに押されて落とされるものなのか

「そんなに好きじゃないんじゃない？」
旦那にそう言われた

え？そうなの？
それも含めて一度よく考えよう

それでも、
沼の淵に立たせてくれたボーイズに感謝です