CURIOSITY HOUSE:The Shrunken Head
ニューヨークにある〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉のコレクションに、世にも珍しいアマゾンの干し首が加わった。ところが公開初日、最前列にいた観客が死に、翌日には干し首が盗まれてしまう。その後も関係者の不審死が相次ぎ、干し首の呪いだという噂が広まった。博物館の奇人超人ショーに出演する子どもたち、ピッパ、トーマス、サム、マックスの4人は、干し首を取り戻すため、そして博物館を守るため、謎の解決に挑む。
作者:Lauren Oliver, H.C. Chester(ローレン・オリヴァー、H.C.チェスター)
出版社:HarperCollins Children's Books(アメリカ/ニューヨーク)
出版年:2015年
ページ数:362ページ
シリーズ:全3巻
ジャンル・キーワード:ミステリー、特殊能力
おもな文学賞
・MWA賞(エドガー賞)児童図書部門ノミネート (2016)
作者について
● ローレン・オリヴァー:1982年ニューヨーク生まれ。シカゴ大学で文学と哲学を学び、卒業後ニューヨーク大学で創作学修士課程を修了。その後、出版社に勤務しながらデビュー作『BEFORE I FALL』を書き始め、2010年に刊行。おもにYA作品を発表している。邦訳に『デリリウム17』(三辺律子訳、新潮文庫 2014年)がある。
● H・C・チェスター:「珍しい遺物のコレクターであり、失われた魔法や驚異の専門家」と紹介されているが、実はローレン・オリヴァーの父親であり作家のハロルド・シェクター。犯罪関係のノンフィクションなどを執筆しており、邦訳に『オリジナル・サイコ―異常殺人者エド・ゲインの素顔』(柳下毅一郎訳、早川書房 1995年)がある。
おもな登場人物
●ダンフリー氏:ニューヨークに残る最後のダイム・ミュージアム(19世紀後半にアメリカで人気のあった、入場料が1ダイムの庶民向け施設)、〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉の館長。世界の珍品を集め、歴史上の名場面をろう人形で再現し、奇人超人ショーを毎晩開催している。
●フィリパ(ピッパ):透視・読心能力がある12歳の女の子。ポケットの中のものを当てたり、人の思考を感じ取ったりできるが、緊張しているとうまくいかない。小さい頃から奇人超人ショーに出演。
●トーマス:見かけはふつうの12歳の男の子だが、関節を自由自在にはずせる軟体人間。博物館じゅうの配管を通って探検するのが趣味。読書家で、理論的にものごとを考える。小さい頃から奇人超人ショーに出演。
●サム:怪力少年。心やさしい恥ずかしがりやで、ウサギをペットに飼いたいと思っているが、握りつぶしてしまう恐れがあるので許可してもらえない。小さい頃から奇人超人ショーに出演。
●マッケンジー(マックス):ナイフ遣いの少女。孤児院から逃げ出し、大道芸やスリで生活していたストリートチルドレン。ラジオでダンフリー博物館の宣伝を聞き、奇人超人ショーの出演者に応募する。
●ビル・エヴァンス:〈日刊恐怖〉紙の記者。干し首をめぐる連続殺人事件を毎日レポートする。売上重視のため、嘘やでっちあげで固めた記事を書く。
●ラッティンゲン教授: 生物学者。人体実験をおこなって刑務所に入れられていたが脱獄。干し首事件とともに連日新聞の一面を賑わせる。
あらすじ
※結末まで書いてあります!
閑古鳥の鳴く〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉に、センセーショナルな呼び物が加わった。干しリンゴのような、アマゾンの干し首だ。これで大勢の客が来れば、借金を返済できる。公開初日、観客が不気味な干し首に息を飲んだ瞬間、部屋の明かりが消えた。ふたたびついたときには、最前列の老婦人が顔面からつっぷして倒れていた。
翌日は朝から客が殺到した。前日のショーでピッパにポケットの中身を当てられた新聞記者ビル・エヴァンスが、〈日刊恐怖〉でショーのすばらしさと老婦人の死を大々的に報じたからだ。ところがその夜、干し首が盗まれる。このままでは博物館が閉館に追い込まれると知ったピッパ、トーマス、サム、マックスの4人は、干し首探しに乗り出した。
用務員のポッツが夜中に館内をうろついていたことを警察に言わなかったので、4人はポッツを怪しむ。こっそりポッツの部屋を調べると、干し首の持ち主だったアンダーソン氏と連絡を取っていたらしいメモがあった。アンダーソン氏の家に行った4人は、思いがけないものを発見した。
アンダーソン氏の首つり死体だ。
トーマスが警察を呼び、事情を説明しているところに、アンダーソン氏のおいだという、真っ赤な髪の青年が駆け込んできた。彼の話では、アンダーソン氏は最近貴重な品を安値で手放してしまい、後悔していたそうだ。トーマスは、アンダーソン氏の首についていた紐の跡が不自然な位置についていたことから、自殺ではなく他殺だと考えた。
エヴァンスは毎日速報を書き立て、干し首の呪いといううわさはあっという間に広まった。トーマスたちがアンダーソン氏の家にいたことも書かれ、ダンフリー氏は子どもたちに首を突っ込まないよう厳重注意する。それでも調査を続けようとした4人に、さらなる衝撃が襲いかかった。
ポッツが自室のベッドで死んでいたのだ。
毒物であるシアン化合物のにおいが残っており、コレクションのひとつとしてシアン化合物を持っていたダンフリー氏が疑われた。ダンフリー氏は警察に連行され、博物館は許可がおりるまで休館となった。ダンフリー氏の無実を信じる子どもたちは、ポッツを毒殺した犯人捜しを始める。なにか情報がないかとエヴァンスの事務所を訪ねるが、うまく情報を引き出せないうえに、かえってでたらめな記事の材料を提供してしまった。
病院の霊安室にしのびこんで検死結果を調べると、シアン化合物はポッツの夕食に混ざっていたようだった。ポッツが最後に食事をしたレストランを探して行ってみると、ネズミ取りの薬品にシアン化合物が使われており、それが食べ物にかかったようだった。店長に「店の評判を落としにきたのか」と怒鳴られ、4人はいったん引き下がる。次の日ふたたび話を聞きにいこうとしたが、夜のうちにレストランは火事で焼け落ちていた。しかしウェイターがネズミ取りのことを警察に報告したため、ダンフリー氏は釈放された。子どもたちは新聞が嘘ばかり書いていると訴えるが、ダンフリー氏は博物館の宣伝になる、と気にしていないようだった。
次に飛び込んできたニュースは、エヴァンスが干し首に襲われたというものだった。命に別状はない。入院先に話を聞きに行くと、真っ赤な髪の男が運転する車に突っ込まれたとのことだった。真っ赤な髪の男といえば、アンダーソン氏のおい、レジナルドだ。聞き込みを始めると、レジナルドは最近姿を見せないうえに、あちこちで借金しているようだった。
博物館でポッツの葬式が開かれた。連日の報道のせいで、多くの弔問客が訪れた。ここしばらく姿を見なかった奇人超人ショーの出演者、エレファントマンのヒューゴと大女のフォーベも来た。最近ふたりの挙動が怪しいとおもっていたのだが、なんとふたりは結婚していた。干し首公開日に亡くなった老婦人が実はヒューゴの母親で、ヒューゴに遺産をのこしたため、結婚することができたのだった。
その晩、博物館の窓が割られた。侵入者はレジナルドだった。金に困っていたレジナルドは、アンダーソン氏が持っていた高価なライターがポッツのところにないか探しに来たのだ。ライターは見当たらず、エヴァンスの事故について追及すると、レジナルドは車の免許を持っていないと言った。色盲なので、免許をとる資格がないとのことだ。マックスの様子がおかしいので問い詰めると、レジナルドが探していたライターを持っていた。葬式のあいだに、だれかのポケットから盗んだのだ。ピッパはライターに見覚えがあった。エヴァンスの事務所に行ったとき、エヴァンスのポケットの中にあったものだ。ピッパは、レストランで店長の心を読もうとしたときに魚の絵が見えたことと、エヴァンスの腕に魚のタトゥーが入っていたことを思い出した。点と点がつながりはじめた。
子どもたちはふたたび話を聞きに、すでに退院していたエヴァンスのアパートに行った。鍵がかかっていないので中に入ると、エヴァンスは書斎の椅子にすわったまま死んでいた。子どもたちの背後から現れたのは、干し首事件と並んで世間を騒がしていたラッティンゲン教授だった。教授はエヴァンスから干し首事件の真相(エヴァンスが裏で関わっていたことや、自作自演の事故を起こしたこと)を聞いたあと、エヴァンスを殺したと話した。教授は超人の子どもたちがここに来るのを予想して、待ち伏せしていた。4人は教授に連れ出されるが途中でどうにか逃げ、博物館に駆け込む。ダンフリー氏の命が危ないと感じたトーマスは、博物館に着くと、さっき届いたばかりだという荷物を迷わず窓の外に投げた。箱は空中で爆発した。
ダンフリー氏は子どもたちにラッティンゲン教授のことを話した。ラッティンゲン教授はかつて、優秀な生物学者だった。ところが戦争から帰ってくると、すっかり人が変わっていた。完璧な戦闘人間を作れば、一般の市民は戦争に行かなくていいんんじゃないか、という考えにとりつかれ、4人の孤児をひきとり、人体実験を始めた。その4人がピッパたちだった。教授は逮捕され、子どもたちは孤児院や施設に散り散りになった。そのうち3人はダンフリー氏が探し出すことができたが、1人は孤児院から逃げ出していた。なぜダンフリー氏はこんなにラッティンゲン教授について詳しいのか――それは、ふたりが兄弟だからだった。
日常生活が戻った。でもピッパたち4人にとっては、今までとは違う。今は自分の過去を知り、自分の能力に誇りを持ち、友達もいるのだ。
評
20世紀前半のニューヨークを舞台に、特殊な能力や身体的特長をもった4人の子どもたちが、それぞれの能力を駆使して、盗まれた干し首の捜索と連続殺人事件の解決に挑む。舞台となる〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉は、映画『グレーテスト・ショーマン』で描かれている博物館をずっと地味にしたような場所だ。
3人称で描かれているが、メインとなる4人のキャラクターそれぞれにスポットライトが当てられており、各キャラクターに感情移入しながら読める。ものごころついた頃から一緒に暮らしながらも、ろくに口をきいたことのなかったピッパ、トーマス、サムと、ストリートチルドレンとしてひとりで厳しい社会を生き抜いてきたマックスが、次第に認め合い、心を開いていくようす、淡い恋心まで抱くようになるようすが丁寧に描かれている。登場人物は多いが、メインキャラとサブキャラがきっちり書き分けられているため、混乱しない。息がつまるような緊迫感、間一髪で危機を逃れる安堵感も緩急つけて描かれている。ニューヨークの街並みの描写も魅力的で、本を片手に同じルートをたどりたくなる。
また、本作品は「自分を認めること」もテーマである。親も知らず、日陰で生きてきた子どもたちは、「異質」であることが個性であり素晴らしいもの、愛しいものであることだと知っていく。そして4人を実の子どものように愛するダンフリー氏のもとで、博物館が自分たちの居場所、「家」であると感じるようになっていく。これもまた、『グレーテスト・ショーマン』に重なるテーマだ。
ミドルグレードの児童書であるが、ミステリーとして、成長物語として読みごたえのある作品だ。しっかり読書経験を積んできた小学校高学年~中学生の子どもたちに、一歩踏み込んだ作品として紹介したい。不思議な子どもたちが登場する『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の読者や、レモニー・スニケットの「世にも不幸なできごと」シリーズの不気味さが好きな読者にもお薦めだ。
シリーズ紹介
第2巻 The Screaming Statue
ラッティンゲン教授の脅威がなくなり、ピッパ、トーマス、サム、マックスは平穏な日常を送っていた。ところが、〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉はまたもや閉館の危機に立たされる。再起をはかって、有名な殺人事件の場面を再現した人形展を企画するが、依頼する予定だった彫刻家ジークフリート・エッケルバーガーが何者かに殺された。エッケルバーガー氏と親しかったピッパたちは事件の謎を探りつつ、博物館存続のために奮闘する。
第3巻 The Fearsome Firebird
銀行強盗事件が相次ぎ、ニューヨークの町には不穏な空気が漂っていた。しかも追い討ちをかけるように、〈ダンフリーの奇人超人珍品博物館〉の名物〈ノミのサーカス〉の団長が殺人容疑で逮捕される。真犯人を探すべくピッパたちは奔走するが、想像以上に大きな陰謀に巻き込まれる。スリルとサスペンスだけでなく、ピッパたち4人の成長も読みどころの最終巻だ。
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