THE GRUNTS IN TROUBLE

ガラクタを組み合わせて作った、てづくりキャラバンで生活するグラント一家。そんな生活を送るグラント夫婦もサニーも、もちろんちょっと(どころじゃなく)変わっている。ある日、ピエロに渡された地図をたよりに進んでいくと、待っていたのはゾウだった!

作者:Philip Ardagh(フィリップ・アーダー)
出版社:Nosy Crow(ロンドン/イギリス)
出版年:2012年
ページ数:265ページ(日本語版も同程度の見込み)
シリーズ:全4巻
ジャンル・キーワード:ユーモア、家族


作者について

1961年イギリス生まれの児童文学作家。大英博物館で子ども向けの講座の講師をつとめた経験もあり、フィクションのみならずノンフィクションの作品も多い。『Stinking Rich & Just Plain Stinky』(2009年)でRoald Dahl Funny Prize賞を受賞し、本シリーズ2作目の『The Grunts All at Sea』(2013年)でも同賞にノミネートされた。著作は100冊以上にのぼるが、邦訳は以下の4冊のみ。
『ヒエログリフを書こう』(林啓恵訳 吉村作治監修 翔泳社 2000 年)
『あわれなエディの大災難』(こだまともこ訳 あすなろ書房 2003 年)
『あの雲のむこうに』(ポール・マッカートニーとの共著。西川美樹訳 大和書房 2005 年)
『ムーミン谷のすべて:ムーミントロールとトーベ・ヤンソン』
 (徳間書店児童書編集部訳 徳間書店 2018年)

おもな登場人物

● サニー:グラント夫婦と暮らす10歳ぐらいの男の子。実の息子ではなく、赤ちゃんのころ、どこかから拾われてきた。ミセス・グラントのお古のワンピースを着せられたりしているが、ぜんぜん気にしない、やさしい子。
● グラント夫婦:サニーの育ての親。がさつで、悪態をつきあったり、他人に迷惑をかけてばかりだが、サニーのことはとても大事にしている。ミセス・グラントは自分が子どもの頃に着ていたワンピースを青くそめてサニーに着せている。青は男の子の色だから。
● ロード・ビィッグ:ビィッグ家の当主。ビィッグ家は、10年と1週間たつと必ずくずれる鉄をつくり、鉄道レールの製造と定期交換事業で財を成した。ところが政府が線路の予算を武器に回したため、現在はすっかり没落している。
● レディ・ララ:ロード・ビィッグの奥さんだが、屋敷には住まず、豚のポペットといっしょに敷地内の豚小屋に住んでいる。豚小屋といっても、とても広くて清潔で快適。
● ミミ:ビィッグ家の靴みがき係の女の子。ピンクの服を着て、手づくりの香水をつけている。いつも頭の近くを2羽の鳥が飛び回っている。
● ラリー・スモールズ:反ビィッグ派の活動家。元サーカス団長。
● ミスター・リッピー:真っ赤なクルクルの髪に白い顔、真っ赤なくちびるのピエロ。元サーカス団員。
● ジェレミー:とても背が低い男の人。テレビのセットに使われていた巨大トマトに住んでいる。元サーカス団員。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 グラント家の朝はいつもドタバタだ。今朝もミスター・グラントが目を覚ますと頭と足の位置が逆になっていたし、寝ぼけたミセス・グラントは階段をドシンバタンと転げおち、下で寝ていたサニーにつまずいてひっくり返った。グラント家の日常だ。
 サニーはロバのクリップとクロップにえさをやり、キャラバンをひいて進んだ。すると、ひょろりと背の高い人が道のまんなかに立っていた。地面に石でピラミッドをつくり、「ビィッグはいちばんじゃない!」と書かれたTシャツを着ている。この人の名はラリー・スモールズ。ビィッグ家に石を投げつけようとしていたが、ようすを見に出てきたグラント夫婦にじゃまだと言われ、逆に石を投げつけられる。ラリーは門を乗りこえてにげようとしたが門の上にひっかかり、グラント夫婦はそのまま放置してキャラバンにもどった。
 外がさわがしいのでロード・ビィッグが出てきて、ラリーに事情を聞いた。そのうちラリーが反ビィッグ派の首謀者だと気づき、助けずにそのまま放っておくことにする。背を向けたロード・ビィッグのジャケットに「バーニー・“あざだらけの”・ブラウン」と書いてあるのを見て、ラリーはロード・ビィッグが有名な元プロボクサーだと思いこみ、感動する。

 そのころ、ミスター・グラントはキャラバンの屋根から落ち、しげみに突っ込んでいた。怒ったハチの群れがミスター・グラントの顔にあごひげみたいにくっついた。ミセス・グラントは大爆笑するだけだったが、サニーはあわててハチミツのびんをかかえてとびだし、ハチをおびきよせようとする。ところがハチは、ちょうど通りかかったミミのにおいのほうが気にいってしまい、そっちへ行く。ミミは必死に逃げ、サニーも必死に追いかけた。
 ミミはビィッグ屋敷の池にとびこんでハチを振り切り、庭師サックの小屋で着替えさせてもらった。サニーは帰りがけにラリーと話をするが、話しているうちに、門にひっかかっていたベルトが切れてラリーは地面に落ちた。サニーはキャラバンにもどり、グラント家は今日の目的地にむかった。ぼろぼろの小屋で、壁には古いポスターがはってある。ミスター・グラントはサニーに、ここでミスター・リッピーを待つようにと言った。

 ミスター・リッピーは、真っ赤な髪に真っ赤なくちびるの人だった。サニーに「むすこよ」と呼びかけるので、サニーはもしかしてこの人がほんとうのおとうさんなのかなと考える。ミスター・グラントからあずかってきた封筒をわたすと、ミスター・リッピーからも封筒をわたされた。
 封筒のなかみは地図だった。地図といっても、「風車のところまで進んだら右にまがる」といった指示だけで、目印と目印のあいだの距離もてきとうだった。×印がふたつあり、ひとつは小屋を指し、もうひとつには「ゾウはここ」と書かれていた。

 地図にそってキャラバンは進んだ。途中、高い塔があり、「ビィッグはいちばんじゃない!」という看板がいくつもかかっていた。ビィッグ家で働いているジャックが片付けにきて、サニーも手伝った。ジャックの靴に見覚えがあるような気がして、サニーはジャックに子どもがいなくなったことはないかときく。ジャックの子どもはいなくなったことはないが、ロード・ビィッグはむかしどこかに子どもを置きわすれたそうだ。生きていればサニーとおない年くらいとのことだった。
 つぎの目印はトマトだった。たしかに、巨大なトマトがあらわれた。人が入れるほどの大きさで、ミスター・グラントが蹴飛ばすと、なかから背の低い男の人が怒って出てきた。ここに住んでいるジェレミーだった。トマトはテレビのセットに使われていたものだった。
 そのまま指示にそって進むと、なんと、もとの小屋にもどった。大きな四角を描くように進んでいたらしい。地図ではぜんぜん別の場所だったのに……。
 サニーがおそるおそる小屋に入ると、暗がりにゾウがいた。その背に乗っているのは、ラリー・スモールズだった。ラリーは元サーカスの団長で、ミスター・リッピーもジェレミーも団員だった。サーカスで使っていた動物の檻がビィッグ社製のものだったので、10年と1週間経ったときにテントもろともくずれ、ビィッグ家をうらんでいたのだ。唯一生き残った動物がゾウのフィンガーズだった。なぜそんな大事なゾウを手放すのかとサニーがたずねると、ラリーはビィッグ屋敷を爆破して刑務所に入るからだと答えた。
サニーはラリーを思いとどまらせようとするが、すでにビィッグ屋敷にはダイナマイトをしかけてあるという。サニーはフィンガーズをつれて一旦キャラバンにもどった。キャラバンには新しい荷台がついていた。ロバのクリップとクロップは荷台にうつり、キャラバンをひくのはフィンガーズの仕事になった。

 ビィッグ屋敷につくと、窓という窓にダイナマイトがしかけられていた。ラリーは火のついた矢をいまにも放とうとしている。元サーカス団員たちも集まっていて、使用人たちはおろおろしていた。
 サニーはフィンガーズの鼻を使ってラリーに水をかけようとしたが遅かった。ところが大爆発が起きるかとおもいきや、空に広がったのは色とりどりの花火だった。この花火、じつはミスター・グラントがダイナマイトだとうそをついてラリーにわたしたものだった。
 警察がきて、ブラウン警部補がロード・ビィッグに職務質問した。そのとき、ロード・ビィッグのジャケットが、ぬすまれた自分のジャケットだと気づいた。ブラウン警部補こそ、元ボクサー「バーニー・“あざだらけの”・ブラウン」だったのだ。ロード・ビィッグは逮捕され、元サーカス団員も使用人もおおよろこびした。
 レディ・ララが、使用人たちの自由を奪っていた契約書をやぶりすてるよう命じ、使用人たちにはこのまま屋敷に住んでいてもいいし、出て行ってもいいと言った。さらに、グラント家のキャラバンも庭にすきなだけ置いておいていい、と言った。そしてサニーを見て自分の息子かとたずねるが、サニーが口を開く前にグラント夫婦が自分たちの息子だと答えた。
 結局、全員がビィッグ屋敷に残った。グラント家も。そして相変わらずドタバタの日々を過ごすのだった。


 ドタバタでコミカルな物語がテンポよく進む。原書は250ページ以上あるが、イラストがふんだんにちりばめられて飽きないつくりとなっており、小学校中学年程度から楽しめる。アクセル・シェフラーのイラストもグラント家の世界を広げており、アーダーとシェフラーが肩を組んでいる写真からは、作家とイラストレーターが協力し、楽しみながら作り上げたことがうかがえる。
 ミスター・グラントもミセス・グラントも、口は悪いし、人に迷惑をかけるし、清潔ではないし、ほめられた親ではない。食事も、道路でひかれた動物が主食だ。そんな生活に加えて、ワンピースを着せられたり、本当の親のことが気になったりもしつつ、サニーはひねくれもせず心やさしい男の子に育つ。グラント夫妻の毒気をサニーが中和し、全身ピンクの少女ミミやサーカス団員、ゾウも出てきてにぎやかに物語が展開する。フィリップ・アーダー自身もそこかしこで口をはさみ、さらに騒々しい。ネコの形のドアストッパーをミセス・グラントが大事にしていたり、壊れたブラウン管テレビに水槽をはめこんで色とりどりの魚を飼っていたりといったディテールも愉快に描かれている。その一方で、グラント夫婦はサニーを愛し、ほんわかとした家族愛が全体を貫いている。
 グラント家シリーズは全4巻で、本書が第1巻だ。第2巻『The GRUNTS All at Sea』はRoald Dahl Funny Prizeにノミネートされ、個人的にもいちばん面白かった。ロアルド・ダールのファンにはもちろん、同賞に3回ノミネートされたデイビッド・ウォリアムズのファンにも是非おすすめしたい。
Nosy Crow社はアプリやデジタルオーディオなどとの連携も積極的に行っており、本作品にもiTunesのゲームアプリがある。ミスター・グラントの顔に、飛んでくるハチをドラッグしてひげを作るというシンプルなゲームだが、本の中の登場人物が動きをもつのは読者にとっては新鮮な体験である。アプリも合わせておすすめの作品だ。

シリーズ紹介

第2巻 The Grunts All at Sea
ミスター・グラントは特別重要人物POGIを指定の日までに指定の人物のところまで届けるよう指令を受ける。行き先はとある島。POGIはいろいろな人に狙われているため、その人たちからPOGIを守り、無事に送り届けなくてはならない。海を越えた冒険が始まる!ロアルド・ダール賞ノミネート作品。

第3巻 The Grunts in a Jam
こんどのグラント家はとってもベタベタしたところにいる。ミセス・グラントのママ、陰気なルンジおばあちゃんが「砂糖漬け、ジャムおよびゼリー品評会」に出品したというのだから、トラブルが起きないわけがない!リスに鼻をかまれ、ハチに追われ、花火は爆発し、飛行機がぶつかり・・・・・・グラント家はとうとう警察に逮捕されてしまった!弁護士として登場したのは、なんとビィッグ家の元庭師サック。ハンプティ・ダンプティみたいな判事を前に、サックはぶじ乗り切れるのか?!

第4巻 The Grunts on the Run
あちこちでうらみをかっていたミスター・グラントとミセス・グラント。とうとう4人の脱獄囚がリベンジしにくるという!もちろん首謀者はロード・ビィッグだ。キャラバンをミミにあずけ、グラント家の逃亡劇がはじまる。最後にたどりついた先はサニーが赤ちゃんのときにいた孤児院。とうとうサニーの生みの親が明らかに?!

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