The Pirate Captain’s Cat

ネコには9つの命がある。そう、ふわもこネコのビーンキャットにも!
海賊船の船長のネコとして目をさましたビーンキャットは、敵から船を守るため、ネズミたちとともに知恵をしぼって奮闘する。

作: Philip Ardagh(フィリップ・アーダー)
絵: Rob Biddulph(ロブ・ビダルフ)
出版社: Simon & Schuster
出版年: 2020年
ページ数: 192ページ(日本語版も同程度の見込み)
シリーズ: 全4巻
ジャンル・キーワード:ファンタジー、冒険、ネコ、海賊


作者について

1961年イギリス生まれの児童文学作家。大英博物館で子ども向けの講座の講師をつとめた経験もあり、フィクションのみならずノンフィクションの作品も多い。著作は100冊以上にのぼるが、邦訳は以下の4冊のみ。
『ヒエログリフを書こう』(林啓恵訳 吉村作治監修 翔泳社 2000 年)
『あわれなエディの大災難』(こだまともこ訳 あすなろ書房 2003 年)
『あの雲のむこうに』(ポール・マッカートニーとの共著。西川美樹訳 大和書房 2005 年)
『ムーミン谷のすべて:ムーミントロールとトーベ・ヤンソン』(徳間書店児童書編集部訳 徳間書店 2018年)

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 ビーンキャットはふつうのネコらしく、うたた寝が好きだ。でも、ビーンキャットはふつうのネコとはちがう。目がさめると、まったくちがう時代、ちがう場所にいることがあるのだ! そう、ビーンキャットには9つの命があり、9回生まれ変わっている。そのどれかとしてめざめるビーンキャットには、いつも冒険が待っていた。

  いつものようにうたた寝からめざめたビーンキャットは、海賊船のトパーズ船長の帽子に乗っかっていた。海のどまんなかで大砲が飛びかい、まさに敵とのバトルの真っ最中だ。今回のビーンキャットはトパーズ船長のネコ。ただし、前回ここで生きていたときの記憶はない。どんな環境で、どんな人や動物がいて、誰があるじかは、まわりのようすをうかがって知る。トパーズ船長はビーンキャットを安全な場所にうつすと、「いのちがけでレイピア号を守るぞ!」といさましく戦ったが、宿敵”片目のバート”につかまり、船長室にとじこめられた。
 バートの海賊船ダブロン号がレイピア号に横づけされ、敵がのりこんできた。ビーンキャットも戦おうとしたが、「あぶない!」とネズミのゴードンに引き留められる。船内に避難すると、ゴードンの奥さんエセルと合流した。8匹の子どもたちは、戦いのどさくさにまぎれて、モリスおじさんといっしょに台所に食べ物を探しにいっている。無事かどうかとやきもきしているところに、モリスおじさんと子どもたちが帰ってきた。でも末の女の子ブルーがいない! と焦ったところへ、ブルーが糸をくわえてもどってきた。なにか言いたいことがあるようだが、さわがしくて聞いてもらえない。そうこうするうちに、敵の海賊が船室におりてきた。ビーンキャットは海賊にとびかかり、ゴードンたちも足にかみついて戦う。海賊たちは命からがら逃げだし、ネコとネズミのチームは健闘をたたえあった。

  やっとブルーの話を聞くと、なんとバートがレイピア号をしずめる計画を立てているらしい!船と船のあいだに橋をわたし、宝物を運び終わったらレイピア号をしずめるという。ビーンキャットは船長室へ向かうと、敵の大男が見張りに立っていた。しかしこの大男はネコ好きで、ビーンキャットが優雅に歩いてくるのを見てニコニコ笑顔になった。じょうずにビーンキャットをなで、自分は「10個のたる」を意味する「テン・タン」という名前だと自己紹介する。ビーンキャットもテン・タンを気に入った。
 ビーンキャットは、ドアが開いてバートが出てきたすきに船長室にすべりこんだ。トパーズ船長はうれしそうにビーンキャットをだきあげた。船長室には大きな宝箱があるが、中に入っていた金塊はすべて島に埋めてあるので、バートたちに取られる恐れはない。脱出方法を考えているところに、バートの子分が2人きた。ひとりは食べ物を運び、もうひとりはマスケット銃を構えている。そしてテン・タンが立ちはだかっていた。
 ビーンキャットはさりげないふりをしてテン・タンの足元をくぐり抜けると、トパーズ船長救出作戦にとりかかった。すでに計画は頭のなかでできている。ところが甲板に出ると、巨大な茶色のトラネコにしっぽをおさえつけられ、身動きがとれなくなった。ダブロン号のネコ、キャノンボールだ。ビーンキャットはキャノンボールにけんかを売って怒らせると、キャノンボールが前足をはなしたすきにダッシュで逃げた。ところが、追ってくると思ったキャノンボールが追ってこない。ネズミのモリスおじさんがキャノンボールのしっぽとデッキの鉄輪を糸でつないでいたのだ。ネズミの子どもたちがはやしたてているあいだに、ビーンキャットはバートのベルトにぶらさがっている鍵束を奪おうとしたが、残念ながらチャンスを逃した。 

 バートが休憩しにダブロン号にもどったすきに、ビーンキャットはゴードンたちに船長救出計画を話した。ゴードンたちは、囚われの身になっている海賊たちの縄をかみ切りはじめた。ビーンキャットとブルーはダブロン号にしのびこみ、ねむりこけているバートのベルトから、いちばん大きくて、宝箱のカギとおもわれるものをぬすんだ。しかしここからが最大の難所だ。船長に計画をつたえなくてはならないのだ!
 ビーンキャットはカギを首輪にはさむと、トパーズ船長のいる船長室にむかった。そして人が出入りしたすきに、中にすべりこんだ。机のうえにカギを落とすと、船長は宝箱のカギだと気づく。船長は「宝箱はからっぽだから開けても意味がない」と言うが、ビーンキャットが騒ぎたてると、宝箱を開けてくれた。そして、ここに隠れればいい、とひらめく。まさにビーンキャットが伝えたかったことだ! しかしそのとき2人の見張りがはいってきた。トパーズ船長が「宝箱の底が二重になっていて、そこに金塊がある」と嘘をつくと、ひとりが宝箱の奥をのぞきこんだ。その瞬間、船長はふたをしめ、見張りを気絶させた。ビーンキャットはもう一人にとびかかる。船長は見張りをしばりあげ、服をぬがせると、着替えてバートの海賊になりすました。船長室を出たビーンキャットはゴードンたちに合流。レイピア号の海賊たちは自由の身になっていた。そこにあらわれたトパーズ船長が、これから仕返しするぞと活を入れる。いつの間にか、ゴードンたちはダブロン号のネズミも味方につけていた。みな、バートとキャノンボールがきらいだったのだ。

  こうして、奇妙な戦いの火ぶたが切って落とされた。海賊同士が戦うなか、ネズミたちはレイピア軍として参戦し、敵の足首にかみついてまわった。これは魔法か?! とダブロン軍はあわてふためく。バートはトパーズ船長と激しく打ちあったあと、糸に足をひっかけて海に落ちた。もちろん、ブルーがしかけた糸だ。
 テン・タンが見当たらないことに気づいたビーンキャットは、船内を探した。すると、いちばん奥底で、大きなくぎとトンカチを持っている。船底に穴をあけようとしているのだ! でもビーンキャットが近寄ってのどをゴロゴロ鳴らすと、テン・タンはビーンキャットをやさしくなで、「片目のバートには子どもの頃から世話になっているから忠誠を誓っているけれど、海に沈む海賊の家族を思うとつらい。穴を開けるなんてできない」とこぼす。テン・タンは心やさしい大男なのだ。
 やがて、夜明け前に決着がついた。ダブロン号は武器もなく、宝物もないまま撤退する。トパーズ船長は、なぜネズミたちが味方になってくれたのかふしぎだったが、穀物の袋を甲板に運ばせると、ネズミたちにふるまった。それから、みんなの前で勝利のスピーチをし、宝箱のカギを持ってきたビーンキャットをたたえた。
 盛りだくさんの一日が終わった。次はどこで目がさめるのかな。そう思いながらビーンキャットは眠りについた。

「ネコには9つの命がある」ということわざをそのまま物語にとりいれた作品だ。ビーンキャットは9つの時代、9つの場所で生きていて、目覚めるとそのうちのどれかになっている。日本人にとっては『100万回生きたねこ』(佐野洋子作)の「9回版」と考えるとイメージがわきやすいだろう。ビーンキャットは生きている間にそれぞれの生活を行き来するという、ややSFチックな設定だ。
 ビーンキャットのモデルは、作者フィリップ・アーダーが飼っていたネコ、ビーニー。18歳まで生きたネコで、家族さえ立ち入りが禁じられていた仕事部屋に、ビーニーだけは許されていたという。ビーニーだったらこう考え、こう動くだろうな、と楽しく執筆したそうだ。作中に出てくるネコ好きなキャラクターたちにもビーニー愛が投影されていて、荒くれ者のトパーズ船長は船を襲う敵よりもビーンキャットを傷つける者を痛めにあわせてやると息巻き、大男のテン・タンはビーンキャットにだけ心の内をさらけだす。
 前回その時代と場所にいた記憶はなくなっているため、慎重に空気を読み、周りの会話を聞いてキャラクターの名前や相関関係を理解する。このビーニーにとっての「謎解き」も、本シリーズの読みどころだ。
 どのキャラクターも個性的で、ユーモアたっぷりに描かれている。ネズミの一家は、いかにも家長風なお父さんと心配性のお母さんを中心に、いまいち頼りないモリスおじさんと8匹の子どもたちでにぎやかだ。海賊たちも、マストの上から敵の頭の上にココナッツの実を落としたり、コックは調理器具を武器に戦ったり、いきいきと描かれている。そして、ビーンキャットとテン・タンの、敵味方を超えた友情が、とにかくほほえましい。
 また、行動力があり、率先して動くビーンキャットとブルーが両方とも女の子、というのも現代らしい設定だ。とくに、ネズミの末っ子の女の子の名前が「ブルー」というのは、伝統的な女の子=ピンクのイメージをくつがえす設定となっている。
 第1巻でおそらく16世紀を過ごしたビーンキャットは、第2巻で19世紀のビクトリア朝時代、第3巻で現代を生きる。それぞれの時代の雰囲気を味わえるだけでなく、冒険やミステリーなど、ワクワクドキドキもつまっている。そして最終巻となる第4巻では、ビーンキャットがなぜ9つの命を持つようになったのか、その謎が解き明かされる。

シリーズ紹介

第2巻 駅長ネコの巻
鉄道の駅で、駅長のネコとしてめざめたビーンキャット。冒険心たっぷりの駅長の孫ポリーや、駅に住みつくカラス、駅長の家にいるオウムの力も借りて、あやしい男の悪事をあばき、町を守るために駆け回る。

 第3巻 図書館ネコの巻
今回ビーンキャットが目をさましたのは、図書館の棚の上。古くからある図書館で、小さい子からお年寄りまでみんなに愛されていたが、取り壊しの危機にさらされていた。ビーンキャットは、図書館にすみついているクモの夫婦やネズミ、耳の不自由な男の子の力を借りて、図書館を救うべく奮闘する。

 第4巻 魔女ネコの巻
魔女狩りの時代にめざめたビーンキャット。今回はいつもとちがい、誰があるじなのかがよくわからない。ひょんなことから、魔女呼ばわりされている少女と逃げることになり……。9つの命をもつビーンキャット、はじまりの物語。

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