City of Secrets(グラフィックノベル)

孤児の少年エヴァーは、大都市オスカーズの中枢機関"スイッチボード"に隠れて暮らしていた。エヴァーの家は代々、スイッチボードの地下にある宝庫を守ってきたが、父は4年前に殺され、エヴァーの命も狙われる。いったい、宝庫のなかには何があるのか――。エヴァーは、スイッチボードの所長の娘ハンナとともに町の秘密に迫る。

作・画:Victoria Ying(ビクトリア・イン)
出版社:VIKING(Penguin Random Houseのインプリント)
出版年:2020年
ページ数:256ページ
キーワード:ファンタジー(スチームパンク)、冒険、グラフィックノベル


作者について

ロサンゼルス在住。ディズニー・スタジオやソニーをはじめとする映像作品のデベロップメント・アーチスト。児童書や絵本の挿絵も手がける。本書は初の単独グラフィックノベル。

おもな登場人物

● エヴァ―:両親を失い、ひとりでスイッチボードに隠れて暮らす少年。実は代々オスカーズの町を守るカナリア・ソサエティの一員で、地下にある秘密の宝庫を守っている。
● ハンナ:スイッチボードの所長の娘。おてんばで、木登りが得意だが、そろそろ女性らしくしなさいと言われている。スイッチボードでエヴァ―を見つけ、友だちになろうと追いかけまわす。同じくカナリア・ソサエティの一員。
● リサ:スイッチボードで働く交換手のひとり。弟とともにスパイをしながら町を守る、カナリア・ソサエティの一員。
● ヴァッシュ:カナリア・ソサエティの一員だったが、裏切り、オスカーズに戦争を仕掛けようとしている。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 舞台は、ビクトリア朝時代を彷彿させる都市国家オスカーズ。その中心にあるのが地上3階地下3階の巨大通信ハブ"スイッチボード"だ。劇場を改築した建物で、迷路のように入り組み、あちこちに仕掛けられたレバーやスイッチで壁や階段が動く。1階には電話の交換台がずらりとならび、オスカーズ内のすべての電話はここを経由してつながっていた。地下には怪しい魔法の薬が売られている闇市がある。12歳の少年エヴァーは父とふたりでスイッチボードに隠れて暮らし、地下にある秘密の宝庫を守っていたが、4年前に父は何者かに殺された。エヴァーは宝庫の中身は知らなかったが、オスカーズを守る大事なものがはいっていると聞かされていた。いざというときに開けるものだという。父亡きいま、守り手はエヴァーしかいない。ひとりで暮らすエヴァーに、交換手のリサやアンはときどき食べ物をわけてくれた。
 ある日、スイッチボードの所長モーガン氏が、娘のハンナをつれてきた。ハンナはエヴァーと同い年ぐらいで、木のぼりが得意なおてんば娘だ。エヴァーという少年が住んでいると聞き、どうにか仲良くなろうと追いかけ回す。エヴァーはひたすら避けていたが、ある晩、外で何者かに襲われたときにハンナに助けられたことをきっかけに仲良くなった。
 ある日、ふたりはリサが怪しい男と話しているのを見かける。男の顔には、エヴァーを襲った男の腕に入っていたのと同じ、3つ目のタトゥーがあった。リサを問い詰めると、リサは男の一味ではなく、実はオスカーズ政府のスパイだと告白する。エヴァーを狙った暗殺者集団ブロンズ・ナイフ・シンジケートの目的は、地下の宝庫だった。リサは、宝庫を開ける暗証番号を書いた紙をエヴァーにわたした。
 ブロンズ・ナイフ・シンジケートがスイッチボードを襲撃した。ハンナはエヴァーの格好をして暗殺者をおびきよせ、そのあいだにエヴァーは地下に向かう。ところが、命がけで宝庫を開けたものの、中はからっぽだった。暗殺者はエヴァーを宝庫にとじこめ、ハンナを襲おうとしたが、ハンナが壁のレバーを動かすと暗殺者は建物の外にはじきとばされた。ハンナは宝庫を開けたかったが、暗証番号がわからない。宝庫内の酸素が薄くなり、エヴァーは気を失う。途方に暮れたハンナがちいさい頃から親しんでいた子守歌を口ずさむと、暗証パネル上の特定の文字が光りはじめた。歌に魔法が宿っていたのだ。ハンナは宝庫を開け、エヴァーを助け出した。
 目を覚ましたエヴァーは、ハンナから思いがけないことを聞く。宝庫に精巧な天井画が描かれていたというのだ。いっしょに見にいくと、それはスイッチボードの見取り図でもあり、オスカーズの町の地図でもあった――スイッチボードは、オスカーズの町全体と同じ構造になっていたのだ。ふたりは、町の地図上で宝庫に相当する場所に、本当の秘密が隠されていると考える。そしてもうひとつ、気づいたことがあった。天井画に刻まれた鳥の紋章に、ふたりとも見覚えがあったのだ。エヴァーの父の腕、ハンナの父の腕、そしてリサの腕にあったタトゥーと同じだ。ハンナはエヴァーを家に連れていき、父に説明を求めた。
 オスカーズの町には、4つの家族からなるカナリア・ソサエティが代々守ってきた秘密があった。エヴァーの家、ハンナの家、リサの家、そしてもうひとつの家はそれぞれ、4つの秘密――宝庫の場所、暗証番号、スイッチボードが町の縮図だという情報、もうひとつの秘密は不明――のうちふたつずつを守ってきた。ハンナの家はスイッチボードの秘密を所有者として守り、暗証番号を歌の形で伝えてきた。ところが第四の家のヴァッシュが裏切り、ブロンズ・ナイフ・シンジケートを使ってエヴァーの父を殺した。ヴァッシュはその後、隣国エドモンダの大統領となり、まさにいま、オスカーズに戦争を仕掛けようとしていた。
 エヴァーとハンナは、町の地図上で宝庫にあたる場所へ向かった。そこは墓地だった。ハンナの歌で秘密の扉が開くと、中にはなんと、巨大な金属のロボット"メガンティック"があった。操縦席についたエヴァーとハンナは外に飛び出した。そしてヴァッシュが放ったミサイルを跳ね返し、オスカーズを守った。
 モーガン夫妻はエヴァーを引き取った。やっと安心して暮らせるようになったエヴァーは、ハンナとともにスリリングな冒険を振り返るのだった。

 大仕掛けのぜんまいや滑車がふんだんに使われた建造物"スイッチボード"を中心に繰り広げられるスチームパンクだ。エヴァーとハンナの追いかけっこから、暗殺者とのバトル、最後のメガンティックの戦闘シーンまで、大胆でスピード感ある描写が魅力的だ。そして徐々に明かされる、代々守られてきた秘密もユニークで、天井の地図に二重の意味が隠されていたり、歌が扉を開く鍵となるのも興味深い。父を失ってから辛い生活を強いられてきたエヴァーと、まわりから「そろそろ女の子らしくしなさい」と言われてもやもやしていたハンナの友情も読みどころだ。また、あらすじからは省いたが、スイッチボードの交換手の監督で、エヴァーを目の敵にするマダム・アレクサンダーとの攻防も緊張感がある。アクションあり、ドラマありの作品だ。
 続編『City of Illusion』では、本書から3か月後のできごとが描かれている。ハンナの家族とともに隣国アレウシオスを訪れたエヴァーは、孤児の4人組と出会う。カナリア・ソサエティの姉妹組織スパロウ・ソサエティの子どもたちだ。親を殺したのはヴァッシュだったが、本人たちはそのことを知らない。アレウシオスに潜伏し、孤児たちの面倒を見ているヴァッシュに、むしろなついていた。ヴァッシュの狙いは、オスカーズとエドモンダとアレウシオスにある三体のメガンティックだ。ヴァッシュの魔の手からメガンティックを守るため、そして三国を守るために子どもたちは団結する。段階的に進化を遂げるメガンティックや、三国に伝わる伝説との絡みも面白い。

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