Everdark

500年に一度、不死鳥の復活により魔法の力を新たにする〈地図になき王国〉。その復活が邪悪な力に妨げられた。奪われた不死鳥の翼を取りもどし、邪悪な魔法で封じられた人びとを救うため、スマッジと猿のバーソロミューは大海原に乗りだす。

作者:Abi Elphinstone(アビ・エルフィンストーン)
出版社:Simon & Schuster, Inc.(イギリス/ロンドン)
出版年/ページ数:
   World Book版:2019年、128ページ
   通常版:2021年、240ページ
シリーズ:「Unmapped Chronicles」シリーズ(既刊3巻)の前日譚
ジャンル・キーワード:ファンタジー、冒険
※本資料はWorld Book Day版(「世界本の日」のためのチャリティ版)に基づいて作成。通常版との差異は未確認。


作者について

1984年生まれのスコットランド育ちの作家。ブリストル大学卒業後、教師となる。2015年に『THE DREAMSNATCHER』でデビュー。約10冊の著作がある。邦訳はない。

おもな登場人物

● スマッジ:主人公の少女。11歳。太陽のかけらを集めるサンレイダーになるべく学校に通っているが、落ちこぼれで、スペルもよく間違えるし、魔法もきちんと覚えられない。
● バーソロミュー:サンレイダーの学校に通い始めたときにスマッジに贈られた、鼻の頭の白い猿(ハナジログエノン)。ほかの生徒への贈り物は魔法の望遠鏡やダガーだったのに、なぜかスマッジには猿だった。
● ネファリアス・フラッド:偉大なサンレイダーであり冒険者。スマッジが尊敬している人。北の渦潮を目指して旅立ち、帰らぬ人となった。
● モーグ:ハーピー(上半身が女の体で、鳥の翼とかぎづめを持つ魔物)で、不死鳥の復活をさまたげ、魔法を盗む。
● クランペット:王国を守る最高賢者のひとりで、スマッジの学校の先生でもある。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 世界は、ひとつの大きな卵から始まる。そこから不死鳥(phoenix)がうまれ、7粒の涙が「はるかなる世界」、4枚の羽根が「地図になき王国」となった。はるかなる世界は暗く何もない場所で、太陽や雨、雪などの魔法の恵みを地図になき王国から受けとっていた。不死鳥はエバーダークと呼ばれる場所から世界を見守り、500年ごとに灰のなかから復活した。この物語は、ある復活の夜に始まる。

 地図になき王国のひとつ「夜明けの国」の海岸では、最高賢者と呼ばれる精霊たちが不死鳥の復活を待ちかまえていた。ところがいつものような不死鳥のシルエットは現れず、不気味な叫び声とともに黒い鳥がかなたへ飛び去った。11歳の少女、スマッジもその叫び声を聞き、黒い鳥の姿を見ていた。スマッジがそのまま様子をうかがっていると、空から黒い何かが降ってきた。触れた者を黒い影にする「ナイトダガー」だ。ナイトダガーは島じゅうにふりそそぎ、最高賢者たちも影に変わっていった。難を逃れたスマッジは、動揺しながらも、岩場に住むゴブリンたちに背中を押され、黒い鳥を追うことを決意する。近くにあった帆船を借りるが、これは伝説の冒険者ネファリアス・フラッドの「未知ゆく冒険号」だった。誰も生きて帰ったことのない北の荒海へ向かったあと、船だけが帰ってきたのだ。
 そこへ思いがけない仲間が現れた。太陽のかけらを集めるサンレイダーの訓練が始まったときに最高賢者から贈られた、鼻の頭が白い猿だ。なんと、猿はしゃべった。いままで言葉を話したことはない。猿はバーソロミューと名乗り、最高賢者から声と忠誠心を授かったと話した。バーソロミューは安全な場所に行けると思って出てきたのだが、行き先が危険な場所だと聞き難色を示す。スマッジは冒険が終わったら安全な場所に行くからと説得し、船を出した。
 目的地は、黒い鳥が飛んでいった孤独岩だ。魔法の羽根ペンで帆に行き先を書くと、船は勝手にその場に向かう。岩に近づくと、妖鳥ハーピーが海獣に魔力を借りる礼を言い、不死鳥の頭がい骨をかぶるところだった。スマッジたちは隠れているのがバレて襲われる。学校で落ちこぼれのスマッジはうまく魔法を使えず、必死に船内に逃げこんだ。ハーピーはモーグと名乗り、すべての魔法を手に入れてエバーダークに呪いをかけると宣言して飛びたった。エバーダークは北の荒海の先にある。スマッジは次の目的地を北の荒海に設定した。すると、自動的に帆がドラゴンのうろこに覆われ、舳先のランタンに火がともった。船自身が、危険な海域に向けて備えはじめたのだ。
 船内は思いのほか広く、地図が広げられたままのマホガニーの机や安楽椅子があり、棚には色とりどりの砂やメッセージの入ったビンが並んでいた。キッチンと寝室もある。地図を確認すると、北の荒海の先はなにも書かれていなかった。救命ブイがあったので、スマッジは「シードラゴンの息」と書かれた瓶の液体を注いだ。

 北の荒海に近づくと嵐に襲われた。スマッジは救命ブイをマストにくくりつけて船内に逃げこんだが、波をかぶると船はどんどん沈んでいった。いままでの自分の選択が間違っていたのかとスマッジは凹むが、バーソロミューは勇敢だったと励ました。そして、大事なことを思い出した。シードラゴンの息は、使った者が自分を信じ、魔法を信じないと効かないのだ。スマッジは希望をこめて、自分を強く信じた。すると、船は海面へと浮かびあがった。嵐は去っていた。北の荒海を越えたのだ。
 行き先を書く羽根ペンは嵐で紛失していたが、地図の空白だったところに文字が浮かびあがっていた。次に向かうべき場所が詩の形で示されている。船全体の魔法の防御も一段階強まっていた。水中でも呼吸ができるウォーターガムの瓶も現れた。
 その晩、海の魔女が船を襲い、スマッジだけをさらっていった。スマッジは沈没船内の墓地に運ばれ、空いていた柩に閉じこめられた。海の魔女たちがスマッジの柩を離れると、となりの柩から男の人の声がした。20年もここに閉じこめられているという。海の魔女の声には体をマヒさせる力があり、隣の男の人は左足の指先しか動かせずにいたが、スマッジはバーソロミューのいびき対策で耳栓をしていたため、もう少し体を動かせた。スマッジは、海の魔女の声の甲高さが魔法の源ではないかと考え、それに対抗する超低音を出す「銀のクジラ」を呼び出すことにした。そのための口笛を吹くと、応えるように低い音が響いた。クジラが近づくにつれ、スマッジの体の自由が効くようになった。スマッジが柩からとびだすと、隣の柩の人も出てきた。消息を絶っていた冒険家、ネファリアス・フラッドだ。スマッジの憧れの冒険家でありサンレイダーだった。

 銀のクジラはふたりを乗せ、水面へと逃げた。スマッジを探していたバーソロミューと無事に再会すると、ふたりはネファリアスにいままでのいきさつを話し、ネファリアスは自分の冒険を語った。船は防御レベルをさらに上げ、ネファリアスは武器を準備した。
 やがて、ギザギザの岩場と洞窟が見えてきた。巨大な海の怪物オグルイールに襲われるが、スマッジとバーソロミューは岩場に飛びうつり、ネファリアスは海に投げだされながらもオグルイールを撃退した。そのとき、もう1そうの大型船が近づいてきた。ナイトダガーにおそわれたドラゴンクロー号と、最高賢者のひとりクランペットだ。スマッジが夜明けの国を救うために旅立ったことを、ゴブリンたちがクランペットの耳元で根気よくささやき、希望の力が悪の魔法を解いたのだ。ほかの最高賢者たちはまだ目覚めていない。スマッジとバーソロミューはエバーダークに向かい、ネファリアスはクランペットとともに魔法を解く方法を調べることにした。

 洞窟を進むと、途中から森に変わった。生き物の気配はなく、どの木も死にかけている。奥の空き地に、モーグの巣がある木と、幹に3つの扉がある木があった。スマッジが弓矢で巣を狙うが、この巣はおとりだった。モーグが現れてスマッジに襲いかかり、翼で締めつけた。その隣でバーソロミューは「希望を失うな」と懸命に叫んだ。みんながスマッジに希望を託しているのだ。スマッジは体の奥から力がみなぎるのを感じ、モーグをはね返した。そしてモーグにつかみかかると、モーグが空に飛びあがっても絶対に離さなかった。翼がはずれ、モーグが地面に落ちた。スマッジも落ちたが、バーソロミューが魔法の網で受けとめた。スマッジは翼を「最後の最後へ」と書かれた扉に投げ入れた。モーグはわめきながら森へ消えた。モーグの魔法の源である翼を奪ったいま、最高賢者たちや夜明けの国の住民も目覚めたはずだった。
 次は自分たちの行く先を選ぶ番だ。バーソロミューは「平和と安全へ」の扉に未練を感じたが、「もどる」の扉を開けるつもりもない。スマッジとバーソロミューは「進む」の扉を開いた。

 現実の世界を〈はるかなる世界〉とし、それと均衡を保つ魔法の世界〈地図になき王国〉を舞台にした冒険ファンタジーだ。作者が創りだした世界や魔法の道具も魅力的だが、とにかく「希望」がテーマである。新型コロナでロックダウンを被った子どもたちに向けてイギリスの児童文学作家・画家100人以上が参加した『THE BOOK OF HOPES』で、アビ・エルフィンストーンが本書からの抜粋を選んだのもうなずける。
〈夜明けの国〉の住民の重要な任務のひとつは、サンレイダーになって太陽のかけらを集めることだ。スマッジはサンレイダーの学校では落ちこぼれで、スペルミスもひどいし、呪文も覚えられない。その一方で、人一倍好奇心が強く、冒険心も持ちあわせていた。良くも悪くも「とんでもないやつ」で、つねに「もしかして」と「ひょっとしたら」を考え、大胆な発想で前を向いて果敢に挑みつづける。また、冒険そのものよりも、困難にぶつかったときにいかに立ち向かうかを描くことにフォーカスが置かれていて、船の帆に行き先を書けば自動的にたどりついたり、最後は扉を通ってゴールするなど、だいぶシンプルな設定もある。沈没船の墓場は「完全に死んでいる」「腹立たしいほど生きている」に区分けされているなど、ユーモアもちりばめられている。
 相棒となるバーソロミューもいいキャラクターだ。最初はスマッジを過小評価していたが、勇気ある姿にだんだん惹き込まれていく。ふだんは冷静なのに、感動してときに饒舌になり、熱い想いをさらけ出すのもいい。また、のどかな島でのゴルフ三昧の生活を夢見たり、大叔母にもらったティーセットを持参したり、おしゃれなフェルト帽を手放さないという面もある。
 本編である「Unmapped Chronicles」シリーズ第1巻『Rumblestar』は、『Everdark』の2000年後が舞台だ。モーグは徐々に力を取りもどし、〈地図になき王国〉と〈はるかなる世界〉の境界が薄れ始める。思いがけない場所でスマッジとバーソロミューにも再会できる。ぜひとも想像力豊かで冒険いっぱいの世界を日本の子どもたちにも紹介したい。



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