THE RUNAWAY PRINCESS(グラフィックノベル)

水の都のお祭りにいきたくて、こっそりとお城を抜け出したロビン王女。森の中で4人の子どもたちと出会い、夢のような冒険が始まる!読者参加型のページもある、かわいくて楽しい作品。3話収録。

フランス語原題:Rouge
作・画:Johan Troïanowski(ジョアン・トロイアノフスキー)
英訳:Anna and Owen Smith
出版年:2020年(フランス語版は2015年)
出版社:RH GRAPHIC(Penguin Random Houseのインプリント)
ページ数:272ページ
ジャンル・キーワード:ファンタジー、冒険、グラフィックノベル


作者について

リヨン出身のグラフィックノベル作家。1985年生まれ。子ども向けの詩やイラストも手がけ、全国でワークショップを開催している。フランス語の作品を描いて15年ほどになるが、英訳されるのは本作が初めて。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

第1話 お城から消えたプリンセス(そして友だちができるの巻)

 レノア王国のロビン王女は、ヌーア町の水祭りにいきたくて、ひとりでお城を抜け出した。ところが森で迷子になり、4人の子どもたちと出会う。ポール、マット、リー、オマールという名前の4人はきょうだいで、家が貧しいため捨てられた。巨大なオルグの足音がして逃げると、背丈ほどもある花が咲く庭にたどりついた。植物を育てているのは、赤いとんがり帽をかぶった子どもたち。みんな孤児だが、オルグが畑仕事を教えてくれて、自分たちで生活しているという。子どもたちはおみやげに、さまざまな植物の種をくれた。
 ヌーアは水の都で、町中に水路がはりめぐらされていた。祭りのため町は活気にあふれていて、ふしぎな生き物たちが各地から集まっていた。そして、色とりどりの魚が空を舞い、大きな泡につつまれた人魚も浮かんでいた。ロビンたちは離ればなれになるが、それぞれに水祭りを満喫する。やっと合流し、楽しい思い出にひたりながら帰ろうとしたところで、ロビンがさらわれた。
 ロビンをさらったのは4人組で、そのうち1人は身長20センチほどのこびとだった。ロビンは町はずれの森にある、オークの大木をくりぬいた家に連れていかれる。誘拐犯たちは身代金を要求する脅迫状を書こうとしたが、字が書けない。ロビンが代筆して何十枚も書くと、みんなで紙飛行機にしてオークのてっぺんから飛ばした。
 ロビンの母は、娘がいなくなったことにきづくと、空をふわふわと飛びながら探しにでかけた。そしてヌークの上空で、身代金の脅迫状を手に入れる。脅迫状にはめずらしく、「ひとりでは来るな」と書いてある。ポールたちも含め、拾った人たちはみなオークの大木めざして集まった。
 みんなが集まると、なんと誘拐犯たちは楽器を手に演奏をはじめた。客集めのためにロビンを誘拐したのだ。はじめは難しい顔をしていた観客たちは、すばらしい音楽に笑顔になる。演奏会が終わると、誘拐犯たちは身代金(ひとりひとりが持ってきた金貨)をもって、次の標的を探して逃げていった。ロビンはポールや母たちと帰路についた。家に帰った4人きょうだいは、おみやげにもらった種をまいた。魔法の植物はすぐに育ち、家族は食べ物に困らなくなった。

第2話 ふたたびお城から消えたプリンセス(今度は偶然の巻)

 ポールたち4人きょうだいは、ロビン王女のお城によく遊びにいくようになっていた。ある日、ロビンの部屋でお泊まり会をしたときのこと。みんなが寝静まった夜中に、ロビンは音楽に誘われるように目をさまし、そのまま外へと出ていった。見張りの妖精がポールを起こし、ポールはロビンがいないことに気づいて弟たちを起こす。ロビンを追うと、庭の奥の井戸がある場所にたどりついた。ポールたちは潜水服を着て井戸をおり、水にもぐった。
 ロビンは地下の洞窟のようなところを進んでいた。巨大なかぼちゃの家があり、プラムという名前の女性に迎え入れられる。たくさんのクッションがある、居心地のいい部屋だ。友だちがいないとプラムがいうので、ロビンはいっしょに遊ぶことにした。なわとびやかくれんぼなどをして楽しいときをすごすが、ロビンが帰ろうとするたびにプラムはひきとめた。
 ポールたちは、優しい海獣クラーケンの案内で洞窟にたどりついた。巨大なクモの巣にかかったり、おかしの家に誘惑されたりしながら、ロビンを探して奥へと進む。実は、クモの巣もおかしの家もプラムがしかけたもので、プラムは魔法の水がめでポールたちのようすを見ていた。プラムは眠り薬のはいったお茶でロビンを眠らせようとしたが、プラムを怪しみ始めていたロビンはお茶を捨て、寝たふりをした。そしてプラムが家を出たすきに逃げ出した。
 さまよっていたポールたちは、モグラとアナグマに出会う。ロビンのことを話すと、ふたりはロビンのことを知っていた。そして、もしかしたらロビンの命があぶないと教えてくれる。ここは暗黒王国といい、残酷な〈秋の魔女〉が封じ込められていた。秋の魔女こそプラムの正体で、秋の魔女は王女を食べることで魔力をとりもどせるのだった。
 ロビンとポールたちは無事に再会するが、ロビンがいなくなったことに気づいたプラムとの激しい追跡劇がはじまる。ロビンたちは、クラーケンやモグラ、黄金の巨人像たちに助けられ、ぶじに城の庭へと逃げ切るのだった。

第3話 飛ばされないようにするプリンセス(天気のせいでそうもいかずの巻)

 ロビン王女とポールたちが海賊ごっこをしていると、はげしい嵐がやってきた。ロビンたちは船に避難したが、船ごと舞い上げられ、見知らぬ島へと飛ばされる。船は巨大な木の上にひっかかって止まった。
 嵐が去ると、ロビンたちは木からおりて島を探検した。海岸では、人が何人も乗れるような巨大ガニや、何かシンボルのようなものが描かれた岩を見かけた。船にもどり、木にはしごをかけたり、竹のようなもので滝から水をひいたりしていると、食料集めにいっていたマットとリーが怪物を見たといって逃げ帰ってきた。みんなで調べにいくと、池に機械仕掛けのシギのような鳥がいて、あとをつけると古代遺跡のような建物があらわれた。中は実験室になっていて、タンポポ博士という人が住んでいた。博士は黄金の国で暮らしていたが、王様が黄金に執着し、黄金を作れない科学者たちを死刑にしていったので、この島に逃げてきたという。いまは自由に研究していて、土をチョコレートに変える石や、水をジュースに変えるクリスタルを作っていた。機械の鳥や昆虫も博士が発明したもので、島でおきたことを博士に報告する役割を果たしていた。
 博士は島を案内した。マッシュルームの森を抜け、島の中心にあるヒゲ山のてっぺんにのぼると、島全体が一望できた。岬にあるチオの村では、毛むくじゃらのラクガキ族という生き物に出会う。髪の長さで体の大きさが変わる生き物で、短いときは身長が数センチ、長いときは数メートルにもなる。ラクガキ族は画家でもあり、ロビンたちが海岸で見かけたシンボルのようなものもラクガキ族が描いたものだった。花や実などからつくった絵の具を象のような長い鼻で吸いこみ、岩に吹きかける。描きあがった作品は島のあちこちに置かれ、侵入者を威嚇していた。
 ある日、海賊船が上陸し、5人の海賊が宝を探してチオの村へ向かった。ロビンたちとタンポポ教授は、わなをしかけたり、さまざまな発明品を武器にして追い返そうとしたが、海賊たちはあきらめない。ロビンたちはラクガキ族を全員つれて船に逃げた。そしてラクガキ族の髪を切り、小さくして船に乗せた。船はタンポポ教授が改造して、気球がついていた。船は浮かびあがり、無事に追っ手を振り切ることができた。
 途中で嵐にまきこまれ、気球ははずれたが、船は無事に海に着水した。そしてなんと、ロビンの父である王様に助けられる。王様は家臣の巨大クジラに乗り、未知の土地を探して航海中だった。王様はラクガキ族たちに新しい家を探すことを約束すると、レノア王国へと向かった。タンポポ教授もお城に招かれ、研究をつづけることになった。

 黄色い表紙に真っ赤な髪の少女が目をひく、とにかくかわいいグラフィックノベルだ。中身もカラフルでかわいらしく、ロビン王女の大冒険そのまま、ファンタジスティックな世界が描かれている。ところどころ遊び心がもりこまれていて、「オオカミから逃げるために本を振って!」と書いてあったり、迷路のようなページや、コマの中に書かれている数字をたどって読み進めるページなどもある。ロビンと一緒に冒険をしている気分が味わえる1冊だ。

 ふしぎの世界の住人たちは、想像力豊かに描かれ、目を見張るものばかりだが、登場人物も個性豊かだ。好奇心旺盛で型にはまらないロビン王女はもちろん、空を飛べる女王や、船乗りの格好で大海原を旅する王様もファンキーでかっこいい。お城のおじいちゃん執事イライアスは発明家でもあり、体を巨人化するポーションや、潜水服を作ったりもする。また、「オーグは子どもを食べる」「クラーケンは恐ろしい怪物」という先入観をうちやぶり、畑仕事を指導する心優しいオーグや、地下の水中で人助けをするクラーケンが登場する。見かけやうわさで判断してはいけないことを、さりげなく伝えている。

 そのなかでとりたてて特徴がないのが、ポールたち4人きょうだいだが、この4人はいちばん読者に近い存在だといえるだろう。読者は4人きょうだいに自分を投影し、ロビンに引っぱられるように、不思議の世界をめぐる。クラシックな森の世界から、ファンタジーの町、地下の暗黒王国、カラフルな島と舞台もさまざまなうえに、読者参加型のページもあるという、楽しさ満載の作品だ。

『THE RUNAWAY PRINCESS』は作者にとっては初の英訳作品で、フランス語版原書『Rouge』シリーズの3冊分が収められている。これからロビンたちがどんな冒険につれていってくれるのか、非常に楽しみだ。

●作者のインタビュー

https://www.comicsbeat.com/interview-johan-troianowski-reveals-the-classic-characters-that-inspired-the-runaway-princess/


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