見出し画像

北の大地から日本企業をDX Salesforceで急成長「キットアライブ」 札証新規上場、貫いた北海道愛

コロナ禍の逆風が続く2022年の北海道経済界に、明るいニュースを届けてくれた企業があります。札証アンビシャスに今秋上場したITベンチャー「キットアライブ」(札幌市北区)です。

世界の約15万社以上が利用しているビジネスクラウド「Salesforce」の導入支援事業で飛躍を遂げ、年率2桁成長を続けています。札証への新規上場は約3年ぶりで、道内外で大きく報じられました。

キットアライブ社ホームページより

創業者である嘉屋雄大社長がSalesforceに出会ったのは、時を遡ること15年前。今や世界を席巻する多種多様なクラウドサービスが、世の中に生まれたばかりの頃でした。システムエンジニアだった前職時代、新規事業の開発を模索するなかで偶然その存在を知り、優れた機能に惚れこんだと言います。

「北海道から日本のクラウドビジネスを支えたい」という嘉屋社長。ハローワークで職探しをしたという大学時代の苦労、Salesforceに出会った時の衝撃、起業独立から札証上場に至るまでの歩みをうかがいました。

ハローワークで見つけた「天職」

ーーさまざまなインタビューで北海道が大好き、と仰られています。まず、北海道との関わりを聞かせてくださいますか。

「私自身は大阪府箕面市の生まれで、両親は北海道生まれです。父親が転勤族だったのですが、小学1年のときに札幌市に引っ越してきました。それ以来、ずっと札幌住まいです」

ーーほぼ道産子ですね(笑)。札幌東高校から北海道大学理学部に進学され、そのまま札幌で就職されています。

「はい。本当は生物科学の分野で大学院に進学する予定だったのですが、大学4年の冬に父親が体調を崩して仕事を辞めてしまったんです。急きょお金を稼がなければならなくなったのですが、就職活動もしておらず、急ぎ公務員試験の勉強をしたものの落ちてしまいました。大学を卒業してから暫くは就職先が見つからない状況で、若年層向けのハローワークに行ったんです。そこで前職のIT企業ウイン・コンサル(札幌市)を見つけました

ーー北大生がハローワークで就職活動をする…。大変な思いをされたんですね。

「確か求人票をアイウエオ順にあ、い、う…と探していて、ウイン・コンサル社を見つけた記憶があります(笑)。当初は翌年春の入社予定だったのですが、家庭の事情で少しでも早くお金を稼ぎたいと会社側に説明して、入社時期を12月に前倒しして貰いました」

嘉屋雄大社長

「札幌に会社を作らねば」芽生えた志

ーーその当時、札幌に残って就職する北大生って結構いらっしゃったのでしょうか。

「全然いないです。友達もみんな東京に行ってしまって。キットアライブを起業する原体験になったのもその時でした。僕はもともと、東京の会社で何かをしたいという気持ちがあまりなくて、北海道に残りたいという気持ちのほうが強かった。自分のような学生の受け皿をつくるためにも、『札幌にいい会社を作るしかない』と思いました

ーーなぜ北海道がいいと思われたのでしょうか。

「外に出て楽しむことが好きなんです。冬は雪が降ってスキーが出来て、夏の自然もきれいで、温泉だって沢山ある。子供を育てる土地としても最適です。こんな素晴らしい土地は北海道以外にあるのだろうかと感じていますし、学生時代も今もその思いは変わりません」

偶然見つけたSalesforce 惚れ込んだ

ーー大学時代には生物科学を専攻されながら、就職したのはIT業界。ウイン・コンサル社ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

「最初はシステムエンジニアです。大学時代はプログラミングをほとんどやっていませんでしたね。入社してゼロからHTMLやJava、JavaScriptを勉強して、Web系の業務システム等を作っていました」

ーーSalesforceの導入支援事業は、もともとウイン・コンサル社の新規事業としてスタートされたそうですね。

「はい。あの当時、僕は30歳に差し掛かるころでした。今後のキャリアを考えるなか、周囲には絶対に勝てないスーパーエンジニアがいて、じゃあ自分には何の武器があるんだろうと悩みました。そのタイミングで、社内でちょうど新規事業のアイデア募集がありました。『新規事業にチャレンジすれば何か見えるかもしれない』と思って手を挙げたんです」

キットアライブ社ホームページより

ーーどのような新規事業を考えられたのでしょう。

「具体的なお話はちょっと恥ずかしいのですが、企業向けのITビジネスを考えていました。この時、ソフトウェアを動かすためのレンタルサーバーを探していて見つけたのがSalesforceです。仕組みとしてはiPhoneに似ています。さまざまな業務アプリが動かせるiOSのようなシステム基盤があり、アプリを売り買いするAppStoreのようなマーケットもある。高額なレンタルサーバーを使うのをやめて、Salesforce上で動くソフトをつくることにしました」

「ただ、Salesforceを知れば知るほど考えが変わったんですね。アプリマーケットにとどまらず、CRM(顧客情報管理)やSFA(営業支援)といったビジネスを支える基幹システムが本当に素晴らしく、惚れこみました。これ、すべての北海道企業が導入したらいいのに、と思ったぐらいです。まったく偶然の出会いでしたが、当初考えていたアイデアをピボットし、Salesforceそのものを道内企業に広げるビジネスを始めました

顧客とともに成長するプロダクト

ーーSalesforceの導入支援事業は最初から軌道に乗ったのでしょうか。

「事業を始めた2007年が一番大変でした。今や『クラウドファースト』が当たり前の時代ですが、先程も申し上げたように、当時はサーバーを買うかどうかといった時代です。事業環境が今と大きく違います。新規事業なので、最初は1人で始めました。作業量の限界もあるなかで、三歩進んで二歩下がるような毎日。うまくいかない時は本当にふさぎ込みました」

ーー何が心の支えになってきたのでしょうか。

「応援して下さる方の支えです。コツコツやるなかで、少しずつお客さんが増えてきました。東日本大震災で被害を受けたお客さまが、自分の会社を維持するのも大変なのに、お金をかき集めて仕事を発注してくれたこともありました。ウイン・コンサル社も、なかなか売上が上がらない中で事業を続けさせていただきましたし。私たちとしても、そうした北海道のお客さんとの関係性を切らさず大切に守ろうと思ってきました」

キットアライブ社ホームページより

ーー長い時間軸のなかでお客さまとの関係性を維持発展してきたのですね。

「Salesforceというプロダクト自体が、そうできているんです。例えばATMのシステムであれば一回作れば基本的にそれを使い続けることになりますが、私たちが作るSalesforceのシステムはそうなっていません。スマートフォンが登場したり、会社の規模が大きくなったりと、顧客のビジネス環境は常に変わっており、そうした環境変化に合わせてアップデートするのがSalesforceというプロダクトになります」

ーー顧客とともに成長するシステムだと。拡張性が高いというか。

「はい。導入のファーストステップとして、例えば営業部門でSalesforceを小さく導入してみる。顧客管理と営業案件の管理がうまく回ってくると、今度は見積書を含めた帳票を簡単に出せるよう拡張してみる。さらに受注情報や品質管理、顧客の問い合わせ情報なども段階的に紐づけていき、全社に導入を広げる。といった具合に、デジタルの世界で拡張できるのがSalesforceの強みだと思います」

札証上場で知名度UP 人材採用を加速

ーーウイン・コンサル社からSalesforce部門の事業譲渡を受け、2016年にキットアライブ社として独立されました。国内のクラウドサービス市場も急拡大するなか、今年9月には札証アンビシャス上場も果たしました。追い風が吹いていますね。

「おかげさまで私たちのビジネスに対する需要は二次曲線的に伸びています。ただ、この急激に伸びる需要曲線に私たちが追いつくには、どうしても人材が必要です。多くの能力ある人材を集めるため、この北海道で会社の知名度を上げたい。そうした狙いから札証アンビシャスに上場させていただきました

ーー人材採用は道内IT企業共通の課題です。キットアライブ社の採用戦略をうかがえますか。

「現在力を入れているのは新卒の採用と育成です。道内の産業規模ではエンジニアの数自体が少なく、中途採用は非常にハードルが高い。ですので新卒や第2新卒となる若い世代へのアプローチを強化しています。今春は6人採用しました。UIターンを考えている転職希望者にも今後はアクセスしていきます」


キットアライブ社ホームページより

残業時間で技術学んで 若手が喜ぶ独自制度

ーー若い人材を増やし育てる。骨太なビジョンですね。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

「代表的なものでは『もっとアライブ』という制度がございます」

ーーもっとアライブ!ユニークな制度名です。

「はい。私たちの会社には、社名をもじった制度が幾つかあります。この『もっとアライブ』は、資格や専門技術を勉強するために残業時間を使っていいという制度です。資格を取ったら一時金を支給するという企業は多いと思いますが、私たちは勉強するという努力に報います」

ーーいつから始まったのでしょうか。

「2018年です。入社2、3年目ぐらいの若い社員から新しい技術のインプットに時間を使いたいという声が寄せられたため、じゃあ業務時間でやっていいよ、と。当初は年間30時間を上限としていましたが、制度をもっと使いたいとの声が多かったことから、現在は年間60時間に増やしました。Salesforceにはベンダー認定資格が多いのですが、受験料も負担しています」

ーー〇〇アライブ制度は他にもございますか?

「『キッズアライブ』制度です。弊社社員の平均年齢は32歳(2022年7月現在)なのですが、結婚して家を買って、車を買って…というライフイベントがちょうど重なる時期にあります。『キッズアライブ』制度では、子育て中の社員に子供1人につき月1万円を支給しています。それだけでなく、教育や育児に関する社会貢献活動を応援するため、社員の子供1人につき1万円、四半期ごとに寄付を行っています。今年は札幌市の『さぽーとほっと基金』に51万円(2022年12月現在)を寄付しました」



嘉屋雄大社長のTwitterより(@YudaiKaya)

ーー内定者を交えての焚き火会もされているとか。ユニークですね。

「札幌市内にある紅桜公園でやっています。マシュマロを焼いて皆で食べます。」

危機感が企業を変える DXへアクションを

ーー最後の質問です。道内ではDXがうまくいかない、進まないといった課題を抱える企業が数多くいらっしゃいます。成長を続けるクラウドの力を道内企業が取り込むには、何がポイントになると思われますか。

「一つは危機感です。東京の企業は新型コロナ禍が収束した後、世の中は以前のような状態には戻らないと考えています。だから、まさに今何かを変えなければならないと必死です。北海道でも、コロナが終われば元の世界に戻ると考えるのではなく、DXによって変わるきっかけだと捉える必要があると思っています」

ーーDXを進めるエネルギーが生まれていかないと。

「北海道は独自の経済圏があり、道内でビジネスを回し続けられる強さがあります。でも、これからは北海道の内外でどのような広がりを作るかも重要です。例えば人手不足という問題に当たった時、お給料を上げれば人が来ると考えている企業があるとします。でも問題の本質は人手不足ではなく、ビジネスモデルにあるのかもしれません。新たなアクションを起こす必要があります」

(構成・写真 ヤマモトテツ)

この記事は、2022年12月26日に北海道のIT情報発見!発掘!マガジンのmikketa!!に掲載されたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?