花町横丁2

花町横丁2

確かにサキちゃんのいう通りなのだ。

ママが言ったからって、今この時期に1ヶ月も家を離れるのはどうかと私も思っている。
本当に寝耳に水だった。

ママがガンだなんて今も信じたくない。

この前の、毎年区でやってくれる健康診断でママが引っかかっていろいろ調べているうちにガンが見つかった。ステージ4。本人の意思で治療はしない。まだ症状がないらしく、今は元気にしているが、お医者さんによると、いつ急に症状が出て入院になるかわからないらしい。

サキちゃんは、花町横丁の風俗店「ライフ」で働くお姉さん。私が中学の時からいるから本当の年齢はわからないけども、毎朝サキちゃんのお店から5軒先のうちまでほうきではいてくれて終わるとモーニングを食べる。

彼女の他にも、蕎麦屋の鶴田さんや、最近できたスペインバルのミツルくん、この辺りの地主の坂本さん、葬儀屋さんのいっくんが喫茶「ファミ」の朝の顔だ。

いつもは開店してからくるサキちゃんが、わざわざ朝の仕込み時間に来て、体操を一緒にしようだなんて言ったのは、私がママを置いて座禅しに1ヶ月山にこもるという噂を聞いたからだ。本当ははじめっから知ってたのだ。

「サキちゃん、ママが1ヶ月も外出許可出したの初めてなんだよ。だから実は私もすごく不安。それは初めてこの商店街から離れるっていうのと、ママと会えなくなるんじゃないかって両方」

「じゃあ、行かなきゃいいのに」

「でもさ、なんでだろう、、、もしね、私がいない間にママが死んだら、ママも私も悲しくてきっとやりきれないけども、ママが本当に死ぬ瞬間に私が一人で頑張っている姿を思いながら死ねるのかなとも思うの」

「そんな馬鹿げたこと、一生後悔するぞ!」

「私も抵抗したよ。行かないって。そしたら、ママが言ったんだよ。私はお前を、パパの代わりや自分の生活の安定のコマに使ってたかもしれないって」

「それは違う」

「もう本当に頑固。全力で抵抗したよ。そんなこと思ったことないし、座禅なんていつだって行けるって。でもママが本気で今はそれを信じてるから、ママの懺悔に付き合うのと、私の親離れの儀式なんだよ」

サキちゃんがいつもの席について朝のワイドショーを観はじめた。
泣いてた。

ママの病気が発覚してから、私は今まで以上にファミを手伝った。メニューも増やした。

それはサキちゃんも知っている。

座禅にハマってからというもの休みのたびにママの反対をおしきって寺に通っていたけど、もうそんなことどうでもよくなっていた。とにかく治療をしないというママのそばでできることがしたかったのだ。

続く

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