あとちょっとで捕まえられそうな

例えば難しいコードチェンジの曲があったとして、それをどう演奏するか?あるいはそのためにどう攻略するか。これはプロアマを問わず、多くのサックスプレーヤーが頭を悩ませ、日々取り組んでいるトピックの一つだろう。

コードを分析し、それに適合するスケールを先ず割り出す。それを自在に操れるようにそのスケール上に各種のインターバルで作ったパターンを練習する。いわゆる基礎練習、これを気が遠くなるくらいの時間をかける。
しかし今度はそのスケールを移り行くコードチェンジに沿ってうまく連結できなければならない。その連結も一つ上手く行くやり方を覚えてしまったら、そこばかり通るようになってしまうので、可能な限りいろいろな順列組み合わせを駆使して考える。そしてこれもやはり長い時間を必要とする。

と、まぁこんな練習ばかりしていてもいわゆる「リックプレーヤー」としてのメカニカルな精度が上がるだけだろう、と思うのだけど、実際はそうやって轍というかガイドを細かく身に付けることによって、その瞬間に現れては消えていく「あとちょっとで捕まえられそうな」メロディーを呼び込むことに成功する機会がほんの少しずつ増えていく。つまりそのメロディーを捕捉するための網の目が細かくなっていく感じ。
と言っても一直線に上手く行くわけではない。大抵の場合、上手くつながらないのはその個別スケールが音感的にも運指的にも身体に入っていないことによるので、結局またメカニカルで基礎的な練習に戻る、というのが何年も続く。
またアプローチノートなどを駆使した連結ばかり上手くなると、英会話における、”Oh yeah, but… well, you know?”みたいなに回りくどい割に何を言いたいのかわからないようなことにも。流暢さには憧れるけど、それ以上に大切なものを見失いたくない。

しかしそういった試みを何度も繰り返して、ふと特に練習したことのない、でもシンプルで美しいラインが聴こえできて、その運指がパッと見えてきた時はゾクゾクとするような快感を背中に感じる。

もちろん才能に恵まれた人はこのプロセスを10年程度で身に付けるのだろう。僕は40年以上やってきて、ようやくその入り口に立てたような気がする。

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