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【不定期更新パンクロック小説】リンダクレイジー(仮)

パンクとギターを愛する、ちょっとおバカな「俺」が暴れる、はちゃめちゃな物語。

「投げ銭」方式にしました。面白かったと思ったら、100円をチャリンと投げ入れてください。

5、名前のない女


ぱっちりと目を開ける。

いつの間に寝ていたんだ、俺は。頭がぼんやりする。イケてない。

(ここはどこだ)

なんか、変な感じがする。いつもの布団じゃない。俺の部屋じゃない。空気がよどんでいる感じがするし、とにかく暗い。それに、知らない匂いがした。

(っつうか、寒っ!)

気が付いたら、俺は、すっぽんぽんだった。しかも、眠るにあたって、布団らしいものをかけていなかった。だから、寒くて目が覚めたんだ。俺みたいなセクシーな細マッチョは最低限の皮下脂肪しか蓄えてない。風邪ひいたらどうしてくれんだよ。


俺はまず、パンツを探すことにした。でも、こう暗くちゃ見つかりっこない。そう思って、いろんなところを探ったら、「カチ」と、何かのスイッチが入った。

と思ったら、いきなり、あたり一面に、パァッと星を散りばめたようになった。

(え??何これ何これ)

さらに、星の大群が、一斉にふわぁっと横に流れ始めた。そのまま、ぐるぐると回転し続けた。なな、なんじゃこりゃ。見上げると、天井でミラーボールが回っていた。

(だから、ここはどこなんだよ)

俺の頭の中も、なんだかミラーボールがぐーるぐる。どうしてここにいるのか。思い出そうとしても何も浮かんでこない。

ミラーボールのペカペカした光が、とぎれとぎれに部屋の中を照らしていく。

俺の体の上にも流れていく。それはそれで面白かった。下を見ると、俺のかわいい僕ちゃんと目が合った。相変わらず元気なやつだった。

「う……ん……」と、すぐ側から声がした。

ミラーボールのペカペカした光の中に、動く影がある。その影が細くニュッと伸びたと思ったら、「カチ」と何かのスイッチを押した。パッ……というには、ぼんやりと無駄にムーディーな明かりがついた。

その明かりの中に、髪の長い女がいた。

(誰かしら)と俺が問う。

(分かりません)と、俺が答える。

「あれ?起きてたの?」
鼻にかかった女の声がした。いやに馴れ馴れしい喋り方だけど、どちら様?

とりあえず、その女が、布団を独り占めにしていたことは分かった。そう思ったら、また、くしゃみが出た。

女は、髪をかき上げると、くすっと笑った。女ってよく分からない生き物だから、俺のくしゃみが面白かったのだろう。俺は急にパンツが穿きたくなった。しかし、すぐ近くには無かった。俺のパンツはどこだ。パンツ!勝負パンツ!

「ねぇ、なに探してるの?」と、女がエラそうに言った。

「あ?」

だから誰なんだよ。なんで、ここにいるんだよ。ここはどこなんだよ。なんかもう、いろいろが面倒くさくなってきた。

「別に。関係ねぇだろ」

ない。パンツがない。俺のかわいい僕ちゃんが風邪をひく。

女は、うふふと笑っている。ほんと、何が面白いんだか、ちっとも分からない。くそ、こっちは真っ裸なんだよ。さっきまで元気だった俺の僕ちゃんも、さすがにうなだれていた。

「いま何時よ」俺は聞いた。

「えー?……今ぁ?」女が起き上がって、もそもそとベッドから降りた。女も裸だった。薄暗がりの中に、女の白い体がぼんやりと見える。その体の上を、ミラーボールのペカペカした光が、いくつも滑っていく。ふいに、女が屈みこんで、尻がこっちを向いた。ミラーボールの光が、かわるがわる尻の上を撫でていく。

俺はぼーっとした。

女が何か喋っているみたいだけど、よく聞き取れなかった。裸の女がこっちに近づいてくる。ミラーボールがぐるぐる。ペカペカした光がノンストップで世界を撫でていく。

その時だった。

ぷるるるるるるる。

世界の果てから音が鳴る。

ぷるるるるるるるる。ぷるるるるるるるる。

裸の女が舌打ちをした。ガチャリと音。「もしもしぃ?」と、女。「え?はい。あ、ちょっと待ってもらえますか?」

声のする方を振り返ると、女は受話器に手を当てていた。で、俺にこう言った。

「ねぇ、どうする?延長する?」

「延長?なんのこと?」

「は?もう、しっかりしてよ」女が大きなため息をついて、受話器を耳に当てた。「もしもしぃ?延長なしで大丈夫です。はーい」

がちゃり。

女は受話器を置くと、手際よく部屋の明かりをつけた。ミラーボールのペカペカが薄くなって、部屋全体があやしい明るさに包まれた。それで、ようやく、部屋のすみに、俺の服らしいものがちらばっているのが見えた。

「いっしょにシャワーあびる?」女が機嫌よく言った。「背中、流してあげるぅ!」

俺は、あびるともあびないとも言わなかったけど、女に背中を押されて、気が付いたらヘンテコなバスルームにいた。

じょわー……と、シャワーを浴びながら、俺は女に聞いた。

「つうか……ここ、どこ……なんすか?」

「は?」女が声を上げた。そんなリアクションがデカいと思っていなかったので、こっちが驚く。「何いってんの?マジで?わかんないの?」女のテンションが高くてついていけない。

「なんか……あんま、よく覚えてねぇんだわ」

じょわー……と、流れるシャワーのお湯が、俺のあごを伝わっていく。女がシャワーの向きを変えると、今度は女のおっぱいの上をシャワーが流れていった。

「マジで?もー……。ここ。宇宙船じゃん。宇宙船のぉ、ディスコルームでしょ?」

「あー……」

女がシャワーを止めた。モワッと湯気が立ち込めるバスルームで、そこはかとなく状況が分かってきた。


ここは、昨夜のライブハウスから徒歩5分の好立地にある、宇宙船という名のラブホテルだった。

女が親切に、昨日の出来事を喋ってくれた。

昨夜、人様のバンドの出番のとき、俺は最前列で、情熱のおもむくままに暴れちゃったのだった。そんとき、隣に女が来て、「ね、一緒に飲もうよ」って言ったらしい。ライブが終わると、女が俺に酒を奢ってくれた。割と強いやつだったらしい。俺はちょうど喉が渇きまくっていたから、中身を確認しないで、男らしい一気飲みをした。女がおもしろがって、また、俺に奢った。俺はそれも飲んだ。

その結果、今ここにいる。

俺の服は部屋の入口のそばに固まりになって落ちていた。ギターやなんかも、そこに転がっていた。

ということは、つまり、部屋に入るや否や、それらを脱いだということだった。なんて、おめでたいんだ。セックスのことで、頭がお花畑になっちゃっていたんだろう。

すぐそばで、女が生地の少ないパンツをはき、派手なブラジャーをつけている。

すると、俺の視線に気が付いた女が「エッチ」と、嬉しそうに言った。俺は急に恥ずかしくなって目をそらした。女がまた、うふふと笑った。俺はつまらない気持ちになった。

「ね、ね、連絡先おしえて?」

女の声がするので振り返ると、もう服を着終わっていた。どこかのバンドTシャツみたいな黒いTシャツを着ている。ショートパンツから太ももが全部はみ出していた。

「なんで」俺はジーンズのファスナーを上げながら、何かもう面倒くさくって仕方がなかった。

「えー?なんでって……。また、会いたくない?」女が甘えたような、すねた声を出した。

「別に」頭をボリボリ。

「もぉ~。つめたい~」女が俺の首に腕をまわして、キスしてきた。女のおっぱいが「あたしはここよ」と俺に言ってる。俺は無意識に女の体を抱きしめそうになって、やめた。女がまた、うふふと笑った。

俺の首にからみついていた女の手が、いやらしい蛇みたいに下がってきた。肩から背中、背中から、腰へと。

そうかと思ったら、俺のイカしたジーンズの尻のポケットからスマホを抜き取った。くのいちみたいな女だ。

「ちょ、勝手にさわんなよ」女の手からスマホをもぎ取ろうとする。

「ちょ、ねぇ。待って」女は、俺の手を払いのけると、俺のロック設定の甘いスマホを勝手に操作し始めた。

「待ってじゃねぇよ。勝手なことすんなって」

「はい、友達登録、でーきた」

「勝手なことすんなよ」

「そんなことより、時間だよ?時間、時間。ほらほら。出ないと」女が急に仕切りだす。

俺はなにがなんだか、訳が分からないまま、荷物をかかえて部屋を出た。そういや、昨夜はライブだった。そして俺はギタリストだった。なんだってエレキギターってやつは重いんだろう。

怪しげな照明のついた廊下を俺たちは歩いた。エレベーターの扉も、怪しげな毒々しい色で塗られていた。

「つーか、俺そんな金持ってないんだけど」エレベーターの上の階数表示を見ながら、俺は正直に言った。

「うわ、出た」女が、なぜか嬉しそうに声をあげた。俺たちはエレベーターに乗り込んだ。「あたしが払うからいいよ」

「そりゃ、どーも」

エレベーターを降りると、女はフロントに支払いに行った。無駄に広いロビーには、どぎついピンク色に塗りたくられたスポーツカーの置物が置いてあった。ドアを開けてみたら、普通に開いた。この中でセックスしたことのあるやつは、いるんだろうか。

ホテルを出ると、女がしきりに「いっしょに朝ご飯を食べよう」と言ってきたのだが、俺はそんな気分にならなかった。俺は黙って駅に向かい、女も何も言わないで付いてきた。俺が改札を通ると、女は「じゃ、またね」と言った。

何も答えないのは、人としてイケナイ気がしたので、俺は右手を軽く上げた。そのあとは、振り返らないでホームに降りた。

朝の電車はガラガラに空いていた。派手な化粧の女がひとり、くたびれたような顔をして乗り込んできた。女は俺のことを見て、つまらなそうな顔をした。俺が将来有望なギタリストだって知らないんだから仕方がない。残念な女だ。

電車が走りだすと、俺のスマホがバイブした。見ると、ライ〇にメッセージが届いていた。知らない女の名前だった。

「また会ってくれる?」

俺は名前も知らない女と、また会ういわれはないと思ったから、ほったらかしにしておいた。その後も、何回かバイブが鳴ったけど、もう何もかも面倒くさい気持ちになっていたし、日本の電車の揺れというやつは、どうしようもなく眠気を誘ってくるもんだから、俺は落ちるように眠った。

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