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藤島大『ラグビーって、いいもんだね。』

早稲田大学ラグビー部に所属。その後、スポーツライターとして活躍しつつ、早稲田大学ラグビー蹴球部でコーチも務めた藤島大さんの著書。ラグビーへの愛にあふれたエッセイです。

本の内容 ~ 出版社のページ、BOOKデータベースより

「ラグビー、人生の学校」。かつてフランスの協会の標語のひとつであったらしい。校則でなく連帯で営まれる学校。(「ラグビーであること」より)――
『闘争の倫理』、「レフリー寺子屋」、さらにはいつもの酒場の片隅で。そして4年に一度の「記憶の祭典」ワールドカップで。2015年の南アフリカ戦勝利から2019年W杯ベスト8の快挙まで、その間にも営まれた一人ひとりの物語を見つめ、つづった67篇。なぜラグビーをするのか、なぜラグビーを観るのか、なぜ魅了されるのか……ヒントがここにあります。

本の構成(骨格)

表紙の絵は、アイルランドのグリーンのジャージを着た男性とジャパンらしき赤白のボーダーのジャージを着た少年。親子、いや祖父と孫か?初めて連れてこられた東京スタジアムほどの大きな競技場に立つ家族のやさしさが描かれた表紙。どちらからともなく「ラグビーって、いいもんだね。」と言う声が伝わってきそうです。 

藤島さんらしい、小説のような随筆のような、しかし事実に立脚したラグビーの解説もあります。宝石のようなストーリーが詰まった宝石箱。ワールドカップ2019日本大会前の静かなうねりから、ワールドカップ開始後のジャパン(日本代表)の快進撃と、それに沸く日本全体を、藤島さんが見たもの聞いたもので描かれています。

目次は4章構成、読んだ印象では、以下のように前半・後半で構成されています。

前半:ラグビーワールドカップ2019までの軌跡と奇跡
1【ラグビーW杯第9回大会2019】記憶の祭典。
2【ジャパンの軌跡2016-2019】「エディー後」のジャパン。

後半:選手のいる風景、その背景と思い出

3【楕円球人生の彩り】キャプテンに特等席を
4【ラグビー、人生の学校】割り切れぬから本当

感想(前半) ジャパンの勝利の裏にあったもの

前半には、ワールドカップ2015イングランド大会以降の歩みだけでなく、これまで藤島さんが長く取材されてきた話もたくさん登場します。その中で、私が心に残った1つを紹介します。

平尾誠二が夢見たラグビーの「理想型」がいまの日本代表にある

平尾さんが日本代表ヘッドコーチに就任したのは、今から20年以上前の1997年。外国籍選手の導入をし「洋魂和才」を掲げ、海外の強豪の勝つ魂に日本の繊細なプレーを組み合わせつ戦術を目指しました。現在の日本代表ヘッドコーチであるジェイミー・ジョセフ氏もは、平尾さんによって日本代表に招聘された選手でした。ヘッドコーチ当時に藤島さんがインタビューをして得た、平尾さんの問題認識は

「もっと個がたくましく。もっと個が判断できるように」

でした。個人の差を詰めなければ戦術があっても通用しないのだ。それから20年。ジャパンは個人の強さを手に入れました。ラグビーワールドカップ2019のジャパンの快進撃は「個人の差を詰める」をやったうえで「日本の形」を突き詰めた勝利だったのです。

感想(後半) 割り切れぬから本物

後半は、選手や監督またはチームここに個別を当てたストーリー。藤島さんのぼやきのような、独り言のような… それでいて、考えが伝わるストーリーの数々です。

どの話も一度は立ち止まるストーリーですが、その中で私個人が印象的だった話は、ラグビー日本代表HO堀江選手の髪型に言及した「その人だけの髪」。ラグビーワールドカップ2019では堀江選手のドレッドヘア(コーンロウ)はメディアでも話題になったので、ご存知の方も多いかと思います。その髪型に「品位を欠く」として選手の髪型や服装までも規則を決めるような騒ぎになった話です。

高校や大学のラグビー部のようにチーム内のローカルルールならまだしも、エリートである日本代表で決めることなのか?藤島さんは、本件についての意見が求められたとき、こう発言しました。

「代表選手には『位高き者務め多し』の精神は必要だ。しかし髪型はそこに含まれない」

ラグビー日本代表は、日本中のラグビープレーヤーの憧れです。模範であるべし、と言う意見はわかります。が、その「模範」に何を含むのか?その峻別にも、私たちファンを含めてラグビーに関わる者の「品位」が問われていいることを、このコラムを通じて考えさせられました。

ちなみに私個人は、堀江さんのコーンロウに賛成です。そして、よくお似合いです。

「ラグビーって、いいもんだね」

【終章】ラグビーって、いいもんだね。 だけは書き下ろし。ここに、タイトルの背景が描かれています。

大会期間中、忘れがたい声を聞いた。
「ラグビーって、いいもんだね」
一もの酒場の片隅で、ジャパン躍進でにわかに関心を抱いた男性が言った。
こちらはずっと「いいもんだ」と信じてきたのに、いざ素直に言葉にされて、まさにハッとした。「おもしろい」でなく「いい」。その人の見て知ったラグビーのストーリーがそう思わせたのだ。

TBS日曜劇場を見て、ラグビーのゲームのおもしろさだけでなく、ラグビー選手の練習や生活、仲間との関わりに触れて、興味を持った人が多くいました。ラグビーワールドカップ2019でのジャパンの大躍進に興奮し、試合後に挨拶をする世界中の選手に感動しました。

それは「おもしろい」ではなく「いい」でした。

ラグビーと、ラグビーに関わる全ての人に感謝。そして、素晴らしい文章を書いてくださった藤島大さん、ありがとうございました。

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