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大学ラグビーをより『深く』知ろう(最終回) 〜大学選手権決勝レビュー〜

1月11日 国立競技場

第57回全国大学ラグビーフットボール選手権大会 決勝

幾多の困難を乗り越え、大学ラグビーは遂にこの日を迎えました。既に東京では緊急事態宣言が発出されていましたが、観客数を制限し、感染防止対策に万全を期した体制で無事開催されました。

連覇を狙う早稲田大学。

初優勝、そして、故平尾誠二さん率いる同志社大学以来、36大会ぶりの関西勢優勝を目指す天理大学。

準決勝では、早稲田は強力FWの帝京に、天理は昨年準優勝の明治に快勝。好ゲームが期待されました。

クボタスピアーズ所属岸岡智樹選手主宰のラグビーサークル『岸岡智樹のラグビーラボ(通称 #トモラボ )』では、『大学ラグビー応援企画』として、関東大学ラグビー開幕から継続して所属会員有志による座談会を行ってきました。

本企画の最終回として、大学ラグビー選手権大会を振り返り。今回は大学ラグビー選手権大会決勝戦 天理 - 早稲田のレビューです。

天理大学 55 - 28 早稲田大学

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トークメンバー

《トヨノボリ》
50代男性3児の父。
中学時代よりラグビーを観戦、現在は早稲田大学のファンだが、最初は同志社大学ファンであったことは内緒。
プレー経験は大学の授業のみ、文句だけは一人前な典型的親父ラグビーファン。
自慢は息子が小学校時代に参加していたルーパスJrの交流フェスタで、大野均選手にラインアウトリフトしてもらったこと。
今年はコロナで聖地巡礼ができなかった熱狂的カープファンでもあり、小学校時代のあこがれはマルチプレイヤー木下富雄(現焼き鳥店店主)。

《しんさん》
50歳男性独身(×1)。大学在学時に観戦したワセダのラグビーにハマってラグビー観戦を続けること約30年。ワセダのみならずラグビーの「ラ」のつくこと全てと旅行とグルメをこよなく愛する。国際問題、政治を除く社会問題全般、サブカルチャーに薄く広く興味あり。有名人・他人のスキャンダル、ゴシップネタには全く興味なしの会社員。

《いのこ》
#大学ラグビー応援企画 トークの発起人兼参加者。
学生時代に大学ラグビーに親しむ。子育てが一息ついたのを機に観戦再開。

《てん》
大学ラグビーは、3年程前に「飲み目的で」ご主人と一緒に行ったことで観戦デビュー。ご主人の母校である早稲田大学ファン。ルールは覚えられないからこそ、清々しくミーハー観戦に徹する。座談会もご主人と一緒に参加。

《ふくだ》
20代。
ラグビーにハマったきっかけは畠山健介選手。ラグビー経験はなく観戦歴も浅い、にわかファン。かっこいい選手を見つけるのが楽しいがだいたいみんなかっこいいのでキリがない。若い層のファンがどんどん増えて欲しいなと思っている。

《まりえ》
W杯2019でラグビーにハマる。YouTubeで早稲田大学(現・クボタスピアーズ)岸岡くんの試合や好きなラグビー選手の大学時代の試合をいくつか見て存分に感情移入する。ルールはほとんど分からず、最近の楽しみはボールではなくお気に入りの選手を目で追いかけること。大学ラグビーのリアルタイム観戦は初めて。

《みきしの》
本記事のライター、編集者兼参加者。
20年位前に社会人ラグビー(現:トップリーグ)からラグビーにはまり、W杯2019は19試合を生観戦。大学ラグビー観戦デビューは2018年で、まだまだ #にわか 。好きなチームは決めかねているが、あえて言えば早稲田大学。

⑴ 大学選手権決勝(天理-早稲田) レビュー

《トヨノボリ》

衝撃的な結果でした。
ここまで差がつくことは想定外で、しばらく振り返りができませんでした。
天理のアタックは凄かったです。錐のように穴をあけ、湧き出るようにサポートが付く。
藤原君、松永君の巧みな差配を受け、フィフィタ君やモアラ君が豪快にゲインし、市川君が仕留める。
ディフェンスもタックルが芯を外さず、二人目の寄りが早いので接点で上回る。
完全に飲まれた早稲田は前半でほぼ勝負をつけられてしまいました。
後半はほぼ互角だったので点差ほど戦力差はなかったはずです。
ノーサイド後のいろいろな反応を見ると世論も天理に味方していたような気がします。

《しんさん》
皆さんがおっしゃっているように、とても素晴らしい内容だったと思います。連携してブレークダウンを制圧して藤原、フィフィタを起点に多彩な攻撃を見せるラグビーはとっても魅力的でした。完全にゾーンに入って無双モードに入ってましたね。

天理は過去2回決勝に進出していてその度に凄く素晴らしい試合をしていたので、早稲田のファンながら正直、天理の三度目の正直を見てみたい・・・とも思ってました。ですから半分悔しくて、半分驚き感動したという気持ちです。勝利インタビューでのキャプテン松岡君の実直で周りに感謝して気遣う優しいたたずまいに接して「優勝できて本当によかったなぁ」と思いました。器の大きいリーダーであることは間違いないですね。
早稲田も個々のプレーは決して悪くない。小林のランニングスキルなど度肝を抜かれましたし、全員が最後まで手を抜かずバトルしてました。後半拮抗したのはそのおかげです。
今年の決勝の結果を踏まえて、昨年の準決勝で早稲田が天理を突き放した試合を改めて見直しました。去年と比べて、フィフィタ君の覚醒など天理の実力は間違いなく今年上がっていました。ただ、昨年の天理も今年に劣らず間違いなく強かったです。市川君は今年同様に去年も力強いアタック、トライを決めています。今年のように早稲田に圧勝してそのまま優勝しても不思議はなかった。他方で早稲田。斎藤君、岸岡君、中野君が卒業しても小西君、吉村君、平井君、伊藤君という新たな才能が成長を見せてくれて戦力が去年と比べて落ちたとも言えないと思います。ではなぜ去年は早稲田圧勝で、今年は天理圧勝という対照的な結果になったか。考えてみれば不思議だと思いませんか。

私は心理戦の面が大きく影響していると考えます。心理戦の演出者は去年は早稲田の岸岡君。今年は天理本来の強さが現されたといも言えますが。しいて言えばそれを組み立ててきた天理の小松監督と藤原君、フィフィタ君、精神的に支柱となった松岡君でしょうか。
去年の天理は、早稲田の司令塔岸岡君の天理をゾーンに入らせない老獪な「精神的揺さぶり」を受けていたようにも思えます。これは昨年の決勝の明治戦も含めてですが、具体的には・・・
試合序盤に、観察力が高い天理の選手たちの特性を逆手にとるように攻撃のポジションを微妙に変えたり、積極的にキックパスやグラバーキックを狙ったり、キックディフェンスの弱点がある選手を集中的に狙ってキックを蹴って、古賀君をチェイスさせたり、タッチキックを狙う前に一瞬タップアンドゴーを行うような仕草を見せたり、天理のラインアウトに崩壊の兆しが見えたら、タッチキックは全てスタンドに蹴りこんでクィックスローへの逃げ道を封じたり・・・などなどよくよく見たら言い切れないないくらい、天理からすればかなりいやらしい動きの乱れ打ちを行っていたように思えます。私の勘違いもあるでしょうし、当たっている面があるとしても、たぶん氷山の一角でしょう。私は岸岡君はジャパンのスクラムハーフ田中選手かそれ以上の策士だと思っています。
これは個人的偏見です。同世代のハーフ団に明治の山沢君、早稲田の吉村君、伊藤君、去年の斎藤君、天理の藤原君、松永君などなど・・・将来のジャパンや日本ラグビーを担うべき「天才」がいます。ただ・・・
岸岡君は「怪物」なのです。
それが効いて去年の天理は心理的に動揺。本来の実力の半分も出せなかったのではなかったのではないか・・・と思いました。ここぞというときにミスを連発してラインアウトは崩壊してます。以前、野球の野村克也さんやエディージョーンズさんが、「強者を倒すためには、相手に考えさなければならない。」とおっしゃっていました。相手が「アレ?」と思う仕掛けを連続的に行って精神的に揺さぶって、無双集中モードに入る余地を与えない。そういう重要性を学ぶには去年と今年の早稲田V天理戦を見返してみるのはお勧めです。

早稲田の河瀬君、吉村君、伊藤君には絶好のフィードバックの材料を得たかな・・・と思います。来年以降の成長が楽しみです。今後のラグビー界を背負っていくべき逸材なので、来年に向けて決勝の経験を味わい尽くして今後に生かしてほしいです。来期以降の早稲田の覇権奪還だけではなく、今後の日本ラグビーの進化を担うため・・・という意味で。
今年、丸尾君を中心に早稲田が意識していた「仕掛ける」の意味、対象をさらに深堀り・具体化・言語化をすればきっと面白い景色が見えてくるように思えます。何に対して何を目的に、何時、何を「仕掛ける」のか。
日本ラグビーが世界を制するために求められるいい意味の「ずる賢さ」という意味で。それがスポーツ、ビジネス全般で重要と言われる「Enjoy」に繋がるかな・・・と。

今年の天理はスクラムハーフの藤原君を中心に従来の積極性に加えて、観察力やクレバーさ、落ち着きが格段に上がっていたように思えます。強気で負けず嫌いな反面、相手選手が怪我したときも審判にプレーのストップをアピールするなどフェアプレーの精神溢れるナイスガイ。去年の学習を踏まえて心理的に揺さぶって早稲田のペースを崩したようにも思えます。藤原君はフィフィタ君と共に大好きな選手で今後も応援してます。ジャパンにも絡んで欲しい。岸岡君はじめ多くの方がおっしゃっているように、関西勢の復活、さらには早稲田並みか最近はそれ以上に高校代表や花園活躍組が少なくても、研鑽によって選手権でも十分に活躍できるという可能性を示してくれた意義はとてもとても大きい。

早稲田は丸尾キャプテンのやり切ったすがすがしい顔も印象的でした。古賀君も表彰式での勝者をたたえる笑顔もよかった。ぜひジャパンのウィングに食い込んでほしい。天理の選手、関係者、天理市民はじめファンの皆さんおめでとうございます!!
両校の選手、コーチ、関係者に感謝しつつ褒めたたえたいです。

《いのこ》
天理がここまで完成されたプレーを展開するとは!前半終了時点で『呆然』の一言でした。『横に速く、縦に強く』展開する天理を早稲田は止められませんでした。フィフィタ君が走れば1人では止められない、その分他の防御は手薄に。まさにそこを突かれ市川君の連続トライにつながりました。その勢いに呑まれるかのように早稲田はミスが出ました。ラインアウトでの『ノットストレート』は致命的でした。後半はこの天理のリズムを早稲田も掴んだのでしょうか。河瀬くんのトライは力強く美しかったです。しかし反撃が遅すぎました。いわゆる『留学生の個人技頼み』ではないレベルの高いラグビーを見せてくれた天理のラグビーを心から讃えたい気持ちです。

《てん》
とにかく完敗!
力強さ・速さ・連携の精度の全てで天理が上回ってましたね。
特にFWでの二人目三人目のフォローの早さには、早稲田は全く太刀打ち出来ず…。
正直、前半10分までの2トライでこれは力の差があるなと感じました。
早稲田はミスが目立ちましたが、これもプレッシャー勝ちということで天理をほめるべきですね。
(天理の衝撃的な強さで小学生並みの感想しか出ない…すみません…)
早稲田の良かった点は、コバケンのフィールドプレー! 規格外のプロップとして成長して欲しい!

《ふくだ》
天理の強さにびっくりしました!お互いの体格などにはあまり差がないようにみえたので、何が違うんだろうと不思議な気分でした。負けている早稲田には頑張ってほしいと思いつつ、気持ちいいくらいにトライをとる天理のプレーをみていると自然と笑えてきました。
後半の最後の方になると、早稲田のディフェンスが良くなってタックルに気迫が感じられました。試合の勝ち負けではなく目の前の勝負に真剣に向き合ってるんだなと感じてつい泣いてしまいました。

《みきしの》
天理大学は強かった!につきます。
天理大学のオセアニア系留学生を除けば、体格差もフィットネスの差もあまり感じませんでしたが、スピード・パワーで早稲田大学を圧倒していました。点を問ていく様子がすがすがしい一方で、早稲田ファンとしてはドキドキハラハラ。早稲田大学場ボールを持つと、つい応援に熱が入りました。
選手では、天理大学SH藤原選手・SO松永選手のハーフ団が良かったです。天理の大型FWを前に出しつつ、いいところでボールを回す。二人の司令塔が全体をうまくコントロールしているように見えました。
早稲田大学は天理のような一体となって・・・というよりは個人技のすばらしさが光りました。特に後半50分の早稲田の攻撃でSH→SOから展開されたボールをFB河瀬選手がトライ、WTB槇選手のダミーもよかったです。河瀬選手は3年生、槇選手は2年生。まだまだ楽しみです。

試合終了後は、天理大学キャプテン松岡選手の「めちゃくちゃ嬉しいです」の一言に、本当に出し切ったんだなぁとぐっときました。一方で、早稲田大学は4年生のすっきりした顔の反面、人目をはばからずに赤間を抱えて涙する河瀬選手にもらい泣きしました。負けたチームは下級生が泣くんだ…と4年で引退していく大学ラグビーだからこそのチームワークと熱量を感じました。

編集後記

天理大学、本当におめでとうございました。関西勢としては、故・平尾誠二さんが現役だったころの同志社大学以来36年ぶりの優勝です。大学ラグビーは、長く「東高西低」と言われてきましたが、来年は関東のチームが『打倒・天理』を目指します。


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両校とも素晴らしい試合をありがとうございました。



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