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No.236 僕の本棚より(12)「ミケランジェロのヴァチカン壁画 / 岡村 崔写真展」図録

No.236 僕の本棚より(12)「ミケランジェロのヴァチカン壁画 / 岡村 崔写真展」図録

1980年8月15日から9月15日までの一ヶ月間、東京池袋西武百貨店内にあった「西武美術館」で興味深い二つの展覧会が同時に開催された。一つは「ミケランジェロのヴァチカン壁画 」で、もう一つは「ブールデルのレダ展」と銘打たれたものだ。ここでは「ミケランジェロのヴァチカン壁画」について記していく。

ルネサンス期の巨人ミケランジェロがローマ市内ヴァチカン市国システィーナ礼拝堂天井に描いた壁画「天地創造」は幅13メートル長さ40メートルに及び、正面壁画「最後の審判」は百畳敷の大広間よりも大きいそうである。

ミケランジェロが40数年に亘り描いた人類の遺産の一つと言える「ヴァチカン壁画」を、巨匠が筆をとった場所まで櫓を組んで登り、カメラのシャッターをきった写真家が岡村 崔(おかむらたかし)であった。

登山に親しんでいた岡村は、山岳風景写真を撮るようになり、その後美術や建築に興味を持ちローマに移住、登山の経験を活かし高所の写真撮影などを手掛けるようになる。そしてヴァチカン壁画修復の際にもシャッターをきり続け、新たな美の発見の大きな助力となったのである。

写真家岡村 崔の功績の一部を展示したのが、西武美術館で開催された「ミケランジェロのヴァチカン壁画 / 岡村 崔写真展」だった。神とアダムが互いの指を伸ばした構図の「アダムの創造」をはじめとして、壁画の原寸に近い写真の数々は、否応なくミケランジェロの偉大さを突きつけてきて、圧倒されっぱなしだった。

1966年公開の映画「華麗なる激情」は、まさしく「ヴァチカン壁画」を描いた人間ドラマで、キャロル・リード監督、チャールトン・ヘストン(ミケランジェロ役)、レックス・ハリソン(ユリウス2世役)主演で、小学校高学年の僕に、ヨーロッパの歴史と美術世界の一面を照らしてくれた。

そして1980年に触れた岡村 崔写真展で、ミケランジェロ「ヴァチカン壁画」は、生涯で一度は目にしたい憧れの美術作品となった。

1990年(平成2年)連れ合いの由理くんと初めてのイタリアへの旅で「ヴァチカン壁画」に対峙した。正面「天地創造」の修復はほとんど終了し、天井画は修復が半分ほどなされていた状態であった。「ミケランジェロのヴァチカン壁画 / 岡村 崔写真展」で形成された心の眼は「アダムと神の指先」を「デルフォイの巫女」の瞳を、鮮やかに僕の網膜に写してくれた。


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