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Re-posting No.069 佐藤喜義さん・マジック界アンダーグラウンドの怪物(2)衝撃の日

Re-posting No.069 佐藤喜義さん・マジック界アンダーグラウンドの怪物(2)衝撃の日

(No.069 を少し書き直して再掲載します)

ダーウィン・オーティスDarwin Ortizの名作カードマジック「バックオフ Back Off」を原案に忠実に演じた。ちょっと得意げの僕に、きよしさんは言った「オレのバックオフ『黄昏バックオフ』見せようか」衝撃の幕開けだった。


1991年、マジックランドさんで、初めて佐藤喜義さんこと「きよしさん」とお会いしてからのち、特に親しくすることはなかった。先日きよしさんに電話をして確認をしたところ、僕の記憶とほぼ一緒だった。出会いから17年後の2008年11月2日までに、マジックランドさんで何度かお会いしていた。平木さんと佐伯さん、二人のアンダーグラウンドのマニアとご一緒だったこともあった。他に何度か、マジックのイベントで顔を合わせ、形ばかりの挨拶を交わすだけであった。

1991年と1992年前半、大学受験を控えた僕は、意識的にマジックから離れた。そして無事に上智大学比較文化学部に合格、この時38歳、20歳くらい年下の同窓生たちとの交友を通じてマジック熱が少しずつ再燃してゆく。こちらの話は別の記事で触れていくつもりである。

大学卒業後、ひょんなことから学習塾を開校する。マジックへの情熱がさらに燃えるきっかけとなるTV番組を観る。とんでもなくマジックが上手い高校生、ホーくんが出演していた。ずっと後で知ることになるが、ホーくんはきよしさんのお弟子さんだった。ここでも、アンダーグラウンドの人として、僕の見えないところに、きよしさんは立っていたのだった。

ホーくんをTVで見てから、JCMA日本クロースアップマジシャンズ協会、マジックスウィッチの集いなどに参加して、マジック友人を増やしていった。若いマジシャンが多かった。その流れで、こちら中板橋で研究会を開催するようになっていた。

一方、きよしさんは最初の出会いから、益々マジックの世界に魅せられていく。二川滋夫先生の研究会などで、後にプロマジシャンとして活躍するゆうきともさん、ふじいあきらさん、庄司敬仁さん、和田祐治さんたちの若き才能と共に、遅咲きのマジックの花を咲かせていく。

また、Alex Elmsleyアレック・エルムズレイの洋書や、マジックの技法のひとつTownsent Countタウンゼントカウントなどと出会い、マジックの考案の世界へと足を踏み入れていく。マジックに興味を持った若者たちには、お金をとることなく、あまり知られていないマジックなども教える。その中の一人に前述のホーくんもいた。

カードマジックと言えば、カード当てと思っていたホーくんは、きよしさんのマニアックなマジックに魅了され、猛練習に励む。また、きよしさんからマジックを習いたい人も多くなり「アメージングサリーの会」を作り、活動していった。

きよしさんの評判が、何処からともなく、僕の耳にも届くようになってきた。曰く「見たこともない独特のマジック」「名作マジックのバリエーションが凄い」出会いの時の、無骨とも言える独特のカードの扱いが蘇ってくる。

マジックランドの「ママさん」に仲介してもらい、きよしさんへ連絡を入れる段取りをする。きよしさんに電話を入れる。「佐藤です」電話の向こうからの声にも独特のリズムを感じる。手短かに要件を伝える。「こちら中板橋の会のゲストとして、佐藤さんのマジックをいくつか見せて頂けませんか?」「ああ、いいよ。いくつくらいマジックすればいいのかな?」「30分くらいお願いできますか?」

2008年11月2日(日)きよしさんがやってきた。挨拶がわりに一人ひとつか二つのマジックを披露していく。プロ顔負けの技量を持つマジシャン揃いだ。僕をのぞき、一通り皆のマジックが済んだ。「みんな、うまいなあ」きよしさんが感想をもらす。

最後に僕が、数枚のカードを出した。4枚の両面青裏のちょっと変わったカードを見せる。その青い4枚のカードの一面に、一つずつエースAが現れてくる。ダーウィン・オーティスDarwin Ortizの名作トリック「バックオフ Back Off」を原案に忠実に演じた。

ちょっと得意げの僕に、きよしさんは言った「オレのバックオフ『黄昏バックオフ』見せようか」。オレの「黄昏バックオフ」?僕が演じたのと同じように、4枚の両面青のカードを見せる。その青い4枚のカードの一面に、一つずつエースAが現れた。カードのハンドリングは、実にゆっくりで、鮮やかな動きはまるで追求せず、マジックには似合わない形容詞「誠実な」雰囲気を残した。

はい「バックオフ Back Off」ですね。原案と一緒ですね、と、思った後に、きよしさんがゆっくりとカードをひっくり返した。そこに見たのは、青のカードではなく赤のカードだった。ゲッ!ええ!?はっ?きよしさんは、他の3枚も全て赤のカードに変化したのを示す。ええ!?4枚とも赤裏のエース!マジカルな現象はさらに続く。再び赤裏のエース4枚が青裏のエースに戻る。はあ〜!?ラストに最初の状態、4枚の両面青のカードに戻っている。凄腕マジシャン全員が悲鳴に近い歓声を上げていた。名作「オールバック」どころではない。衝撃の幕開けだった。

4枚の青裏のクイーンが、これ以上は無理だと思われるほど、ゆっくりと示される。すると次に、不思議にも、一枚のクイーンの裏の色が青から緑に変わった。次々と裏の色が変わる、青から黄色に、そして赤に、橙色に。木の葉が秋に紅葉するように、机の上には赤、黄、緑、橙、4色の彩り鮮やかな模様が残る。きよしさんの名作「オータムティンツ・秋の彩り」には身震いした。きよしさんは、特殊な怪しげなカードなど使わない。どうなっているんだ?

名作マジックのクライマックスに、もう一つのクライマックスが付け加えられる。次々と奇跡が奏でられていく。約束の30分がとうに過ぎていた。演技を始めて2時間近く経っていた。「いやー、ずいぶんやっちゃったなあ」疲れた様子も見せず、きよしさんはにっこり笑った。まだまだ驚愕のマジックを続けられそうだった。

「凄い!こんな世界が、まだ残っていたんだ!」小学3年生でマジックを始めてから、最大の衝撃だった。幸せだった。

1991年、最初に出会ってから17年の歳月、僕の身辺も大きく変化した。きよしさんもマジックの世界で「大化け」していた。

次の月から毎月一度、通称「佐藤道場」をここ中板橋で開催することとなる。今年で12年めを迎えた。これまでで500を超えるマジックを教習していただいた。ほとんどがカードマジックで、きよしさんのオリジナル、あるいは過去のマジックの名作にさらに輝きを加えたバリエーションなどである。実は、コインマジックでも凄い作品をきよしさんはお持ちだし、今も日々新しい作品が、カードマジックを中心に産まれている。

きよしさんの膨大な作品群の中から「The Amazing Sally」として、3冊発行された。編集者の佐藤大輔さん(名字がたまたま一緒です)のきよしさんに対する傾慕の気持ちが溢れるハードカバーの立派な装丁の本である。

また、きよしさんのマジックを敬愛するマジシャンが世界中に現れ始め、きよしさんのマジックを演じ、youtubeなどで動画をアップしている。もはや、「アンダーグラウンド」を外すべきかもしれない。

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