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No.036 英語・挫折の歴史・その5・山下さん

英語・挫折の歴史・その5・山下さん


「初級英会話」自分がクラスの中で一番出来ないのは、先生をはじめ同級生の女性たちにも宣言したようなものだった。初回のクラスでは、一人だけ置いてけぼりをくらった自己紹介の後に、テキストを使い授業が進められた。ページ両側に、場面別・場合別にスキットが書かれている。振り返ってみると、典型的な語学会話教本であったが、自分にとって生まれて初めての、日本語のない英語のテキストでもあった。

日本語NG英語のみの授業が続く。隣の人と組んでの会話では、Ms. Yamashita 山下さんとペアであった。優しい方で胸を撫で下ろした。こちらの下手くそな英語に、辛抱強くにこやかに対応していただいた。二回目の授業の後、奥様方のお楽しみのお茶会に誘ってくれたのも山下さんだった。クラスの他の方たちと親しくなれたことで、楽しく通うこともできた。山下さんが、こちらのことを「あなた」と穏やかに呼ぶお声は、品格に溢れていた。ずっとお付き合いしていただくが、本当にお人柄の素晴らしい方であった。

山下さんとお会いしてから、十数年後38歳のときに上智大学比較文化学部に入学する。口の悪い友人は「20年浪人してそんなもんか〜」この言葉も嬉しかった。そう、そんなもんだ。一方、山下さんのお言葉も素直に嬉しかった。「えらいわねえ、主人も喜んでいるわ。合格お祝いにご馳走させてね」えらくもなんともないが、こちらの初めの英語の酷さを目の当たりにしていた方だ。実感のこもった提案に、苦笑いしてしまった。山下さんご夫妻・由理くんとしんやで席を共にして食したウナギは美味しかったなあ。今は、ご主人と共に天国で楽しく過ごされている。由理くんとも会っただろう。山下さん、本当にいろいろありがとうございました。

英語の学習で挫折を繰り返してきた。今も続いている。週に一度「初級英会話」に通っただけで、英語が上達するわけがない。毎日毎日学習の「量」をこなさなければダメだ。教室に通うのは刺激になるからだ。動機の継続のためだ。「「量」をこなしてから初めて「質」の話をしようよ」、確信を持って、今、生徒たちに偉そうに言っている。

繰り返すことのできたのは、山下さんを始め、良き人たちとの出会いがあったからだ。これも生徒たちに、達観を装い話す言葉だ。進路に迷っている生徒によく使うかな。「どこに行っても同じだよ。自分が前向きに明るく過ごせば、背中を押してくれる人は必ず現れる。自分が後ろを向いて嫌だなと過ごせば、足を引っ張るヤツが現れる」

朝日カルチャーセンター「初級英会話」最初の三ヶ月が過ぎた。次の三ヶ月も受講申し込みをする。山下さんとも、引き続きお隣さんだ。クラスの皆さんに大いに刺激をいただき、自宅での「TV英会話1」の視聴にも身が入っていた。英会話ハウツー本や語学心得のような書籍にも目を通すようになった。英語学習継続の筋道は見えつつあったが、まだまだ挫折の道は続く。

「初級英会話」いわゆるクール2。教室に入ると、メガネをかけた一人の男性が座っていた。クラスにもう一人のミスターが加わった。茫洋とした風貌は、自分の中で、英会話とは結びつかなかった。男性は自己紹介で、Sakamotoと名乗り英語で続けた。流暢とは言い難い英語が、妙に似合っていた。今に続く坂本さんとの友情の始まりだった。

・・・続く

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