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No.151 大学を目指す歩み(6)ライバル藤ノ木くんとの出会い・その2&上智大学事務局へ

No.151 大学を目指す歩み(6)ライバル藤ノ木くんとの出会い・その2&上智大学事務局へ

No.149 大学を目指す歩み(5)ライバル藤ノ木くんとの出会い・その1の続きです)

M大学を卒業後アメリカの大学留学を目指している20歳前半の藤ノ木くんと、酒屋商売を続けながら上智大学比較文化学部入学を目指している37歳の僕とのTOEFL(主にアメリカの大学・大学院留学を目指す人たちの英語能力テスト)テスト得点は、共に530点を少し越えるくらいだった。当時、書店に並んでいた「りんごの写真のTOEFL本」のサブタイトルが「600点を目指して」だったことを考えると、二人とも初めての受験とは言え高得点を取れたとは言い難かった。

現在のTOEFLテストと違い、この当時は約ひと月に一度全国各地の会場で、リスニングパート・文法パート・リーディングパート3つの分野に分かれ677点満点のテストを受験するシステムとなっていた。藤ノ木くんは他にGMATのスコア提出が必要であり、僕は一年に2、3度実施されていたSATテストで大学が要求しているスコアの得点を目指して、共に短距離、せいぜい中距離と言えるスタートラインに立ったところだった。

藤ノ木くんはTOEFL600点得点が課されている。一方で、上智大学比較文化学部入学に必要なTOEFLスコアは、入学案内書によると「550点得点が目安」であり、曖昧な印象が残った。おそらく、留学経験のない日本の高校卒業生と帰国子女との英語の経験値の違いに配慮した文言とは思われたが定かではなかった。

「えらくあやふやな表現」を明らかにしたいし、他に有効な情報が掴めるかも知れないとの思いから、四谷駅のすぐそばの、桜が散り始めていた上智大学本校校内に初めて足を踏み入れた。

四谷駅前の信号を渡り左に折れると、歩み入る人を導くように、広い道が新宿通りを右斜め手前に、左右に建物と木々を従えるようにして校舎内へと伸びている。午後の授業が始まっている時間ではあったが、校内のベンチに座りにこやかに会話を交わす少なからぬ数の若者の姿は陽光の中に眩しく、彼らに比べ20年の月日を多く過ごしている自分が、翌年に彼らに混じって話す情景の像を結ぶことはおよそできなかった。

鮮やかな色目のチェック柄シャツにニットのベストを着た、若干派手な服装の、学生ではなさそうな僕に対応してくれた事務局の女性の顔に、幾らかの訝しさの様が現れたのは、むべなるかなであった。

入手していた前年の入学案内書、比較文化学部のあやふやな文言の箇所「入学に関して、TOEFLテスト550得点が合格の目安」に対して「これって、随分と恣意的な表現ですね。550点を取っていなくても合格があり得ると判断していいのですか?」との僕の質問の答え「はあ、そう書いてありますね」との言葉の中に「やっぱりメンドくさい人だった」の匂いを嗅いでしまい、楽しくなっていくのは僕の悪い性格なのだろうか。彼女は「少々お待ちください」と言い残し、上司であろう、奥に座る男性のところに行き声をかけ、程なく二人がこちらに近づいてきた。

この男性曰く、案内書はこの年のものであり、来年度受験のものは秋に発行されるので、この時点での正式な回答は出来かねるとの成程納得の答えであった。「来年度の受験に関しては納得がいきました。では今年度の合格者に550点に満たない人はいたのですか?比較文化学部は男子生徒が少なめで合格点が低めと言うことはないのですか?」との僕の、良く言えば率直で素朴な疑問、悪く言えば不躾な問いに「それにはお答えできませんが、比較文化学部の入学に関しては、TOEFLおよびSATテストのスコアの他に英語での志望理由などが課されるのは、来年度も変わらないと思われますし、総合的な判断が下されると言うお答えでよろしいでしょうか?」

この時相手をしてくれた事務局のキシワダさんとは、僕が入学後いくつかのイベントで関わることになるが、この時の会話をよく覚えていらして、僕自身が受験するとは思っていずに「お子さんのことを熱心に考えている親御さんと思い感心しましたが、信也さんご自身が受験なさったのですねえ」との感想を述べられて、二人笑い合った。

ここまで確かめたかったのは、アメリカの美術学校に留学したナオエさんのことがあったからであり(No.108 No.109 No.110)一年も経たずに、この時の恣意的な「えらくあやふやな文言」の確認をしたことが、一人の若き友人の人生を切り拓く一助となる。もちろん、この時はそのようなことになるとは考えてもいなかった。

・・・続く

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