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No.240 Bob Dylan ボブ・ディランを追い続けて(2)初めて目にしたLPレコード「セルフポートレイト・自画像」

No.235の続きです)

1960年代、福島県いわき市の片隅で、小学校高学年の頃から、マジックや文学の世界に加え、周りの友人たちと同じように、音楽の世界にも足を踏み入れ始めていた。お年玉などや親からの小遣いを貯めて、一年に1枚か2枚のLPレコードやシングル盤などを買い、地元の高校を卒業するまでに、手元には数枚のレコードが宝物として残った。

映画好きなこともあって、初めて買ったLPレコードが「決定盤!マカロニウェスタンテーマのすべて」で、次に「世界映画音楽全集」を購入している。その後にPPMピーター・ポール&マリーやジョーン・バエズを通して、謎の人ボブ・ディランを知ることになる(No.235)。

日本の3人組フォークグループ・ガロが、1972年にリリースし翌年に大ヒットした「学生街の喫茶店」(当初は「美しすぎて」のB面であった)の歌詞の一節「〜片隅で聴いていたボブ・ディラン」で、ボブ・ディランの名前は多くの人に知られるところとなった。僕にとっては「あ、あの謎の人が出ている。音楽をしている人たちには評価の高い人のようだな」と、あの変な声での「風に吹かれて」以外の曲も少し聴きたい気持ちにさせられた。

福島の高校を卒業、大学受験に失敗して浪人、東京都板橋区に生活の基盤を移すも、学業には身が入らずに映画鑑賞と友人たちとの遊びに大半の時間を割いていた。楽器演奏にも手を出さず、生来の音痴ではあるが「聞く音楽」に関しては、洋楽ポップスに限らず、クラシックでもジャズでも歌謡曲でもジャンルを問わずに聴いていきたい好奇心に溢れていた。

大学浪人一年目(次の年も浪人することとなる)最寄りの「中板橋駅」近くにあったレコード店「梶田レコード」の前を通るたびに、壁に飾られているLPレコードのジャケット写真は「カッコいい美術作品」の横顔で、僕を誘ってくる。「店内にはあなたが知らない宝石が溢れていますよ」と蠱惑の囁きが聞こえてくる。

池袋の名画座「文芸座」で、サム・ペキンパー監督の2本立て「わらの犬」「ジュニアボナー/ 華麗なる挑戦」を観て満足した冬の帰り道「梶田レコード」の店内を見ると、壁に掛けられたLPレコードのジャケット写真の一枚に目を奪われた。それは一人の男性の顔が、油絵だろうか、ジャケットいっぱいに太い線で目や鼻を初め、顔のパーツが乱雑に描かれた絵で「下手くそ」か「上手い」のか判断しかねるも妙に惹かれて、その絵から目を離さずに店内にそろりと足を運び入れた。

壁のLPレコードの上部、細めの帯紙を見ると小さく「セルフポートレイト」と書かれており、その隣に「ボブ・ディラン」の文字がさらに小さく書かれていた。「あっ、あの人だ!」僕が初めて目にしたボブ・ディランのLPレコードは1970年にリリース、1973年にCBSソニーから再リリースされた「セルフポートレイト・自画像」だった。

この時は、ボブ・ディラン自身の手による自画像とは知る術もなかったが、妙に惹かれた目の前のLPジャケットの絵と、変な声の「風に吹かれて」の印象がピッタリと合い、おそらくこの絵はボブ・ディランが描いたのだろうと、勝手な確信に辿り着いた。

彼の素顔を、何歳くらいの人なのか確かめるべく「梶田レコード」の小さな店内の「ボブ・ディラン」のコーナーで、LPレコードを括り始めた。

・・・続く

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