ユーザビリティの高いUIはどっち?
いきなりですが下記の2つの写真、どちらのユーザインターフェースがユーザビリティが高いか、つまり良いユーザインターフェースか考えてみてください。ひとつめはトヨタ プリウスの運転席、ふたつめはルノーのF1カーの運転席の様子です。
( https://toyota.jp/prius/interior/top/ から引用)
( https://jp.motorsport.com/f1/photos/cockpit-of-the-renault/7400024/ から引用)
プリウスの運転席は非常にスッキリしています。大きなハンドルが運転席の目の前にあり、ハンドルはシンプルで運転に集中しやすくなっています。エアコンやカーナビ等は左手側に集中しており、それぞれのボタンにはアイコンや文字でどのような機能のためのボタンか推測しやすいようになっています。おそらくレンタカーなどでこの車を借りて運転する事になっても、多くの人はほとんど戸惑わずに運転することができるのではないでしょうか。
一方でF1カーの場合、ハンドルに多くのボタンやダイヤルが取り付けられていて、どのボタンにどんな機能が割り当てられているのか、ぱっと見てもわかりません。おそらくそういう機会は殆どないので心配不要かとは思いますが、何の知識もなくF1のハンドルを握ってしまうと、ちゃんと運転できるのか不安になりますよね。
よって、プリウスのほうがユーザビリティが高い。つまり、優れたユーザーインターフェースである。と考えるのは正しいのでしょうか?
この記事を読んでくださっている方であれば察しが付いていることかと思いますが、プリウスのほうがユーザビリティが高くて、F1はユーザビリティが低いとか、もちろんそんな簡単な話ではありません。
なぜなら、これら2つのユーザーインターフェースは、車を運転するためのものではあるけれども、想定しているユーザーも、目的も大きく異なり、そもそも比べる事が適切ではありません。(ならクイズにするなよって話ですよね。ごめんなさい。)
先日書いた下記の記事でユーザビリティ評価における「タスク設計」や「ユーザのリクルーティング&スクリーニング」について触れましたが適切なUIというものはユーザーやタスクによって大きく異なる可能性があります。
具体的にはユーザーの年齢や職業、性別、家族構成や普段どのような生活をしているか。その人がなぜそのプロダクトに興味を持ったのか、あるいは接触した理由、あるいはそのプロダクトに期待する効果なのでしょうか。
例えば、企業のWebサイトには様々な訪問者が想定されますが、製品の購入を検討している人と、求職活動中の人、あるいは明日のアポイントのために会社住所を確認しようとしている人とでは、必要としている情報が異なります。製品の見込み購入者はおそらく製品の機能や、価格、販売店などの情報を求めているでしょうし、休職中の人はおそらく求人情報であったり、この会社はどんな会社なのかな?と言った情報を求めている可能性が高いでしょう。来週訪問予定の人は会社の住所や道順を確認したいはずです。この場合、見込み顧客にとっては使いやすいWebサイトであったとしても、求職活動中の人、あるいは取引先の人にとっては使いやすいWebサイトであるとは限らないわけです。
このように同じWebサイトであってもユーザーの置かれた状況によってユーザビリティに関する評価が異なる場合があります。そのため、複数の属性の人が利用するようなプロダクトにおいて、それぞれの属性のユーザーに取って、プロダクトが使いやすいかどうかを評価する必要があるでしょう。
これは逆にいうと「必ずしも万人にとって使いやすいユーザーインターフェースを提供する必要はない」とも言えますし、プロダクトを利用するユーザーを絞り込む事によって、よりタスク達成に最適なユーザーインターフェースを提供できるという事でもあります。
冒頭で挙げたふたつのUIは、その典型的な例でしょう。
プリウスは、すべての人にとって運転しやすいユーザーインターフェースを提供している一方で、F1のユーザーインターフェースは、必ずしもすべての人にとって運転しやすいユーザーインターフェースではありません。しかし、熟練したドライバーが0.01秒でも早く走るという目的の中では適切なユーザーインターフェースであると言うことができるでしょう。
ところで、ユーザーの属性やコンテクスト、タスクごとにユーザビリティを評価する必要性についてはこの記事で説明した通りですが、これを利用すると、ユーザーごとに異なるユーザビリティレベルを提供するということもできそうです。つまり、メインの顧客に取っては使いやすいユーザインターフェースであるが、悪意を持ったユーザー、サービス運用にあたり好ましくないユーザーには使いにくいユーザーインターフェースを提供すると言うことです。
例えば昨今、様々な種類の婚活サイトや恋愛マッチングアプリが登場していますが、これらのアプリに登録しているユーザーの中には、既婚者であったり、異性との出会いだけを目的に不純な気持ちで利用しているユーザーも相当数居るそうです。これらのユーザーの存在は、プロダクトの信頼性や評判を落とす結果に繋がりかねませんから運用者としてはなるべく、不適切なユーザーを排除したいと考えているのではないかと思います。
であれば、そういった不適切なユーザーの行動や思考を分析することによって、そしてそれをユーザーインターフェースに反映させることで、本来想定しているユーザーには使いやすく、不純な動機でサービスを利用している人には使いにくいプロダクトをデザインし提供することもできるかもしれません。
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