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自主防災組織に光を当てる理由

現在、自主防災組織と指定避難所運営委員会の双方に身を置きながら、試行錯誤している、私の体験から、今なぜ自主防災組織の実態に光を当てる必要があるのか、3つの視点から考えてみたいと思います。

目次
1.自主防災組織とは
2.自主防災組織の課題
(1)活動の形骸化
(2)新しい役割への対応
3.他の制度や仕組みへの波及効果

1.自主防災組織とは

自主防災組織とは、災害発生時はもちろん、日頃から地域(自治会エリア*)の住民たちが一緒になって防災・減災活動に取り組むための組織です。地域防災力向上のため、特に事前の災害警報レベルがない大地震の場合は、自主防災組織の活動がより重要であるにもかかわらず、私たち地域住民の意識は低いまま。一方、防災・減災文脈での共助の話は「自分ごと化」しやすいのです。
*ここでの「自治会」は、その他の名称(町内会など)、マンションの管理組合などを含みます。

自主防災組織の役割としては、安否確認・避難行動要支援者支援・避難誘導・初期消火・救護救出などがあります。自助・共助・公助と関連づけたイメージ図は以下の通りです。

2.自主防災組織の課題
(1)活動の形骸化
自主防災組織がないエリアがある。あってもその活動が形骸化しているケースが多く、今のままでは、特に大地震本番では全く機能しません。

自主防災組織の新設がなかなか進まない要因は、住民主体の活動のため、行政が一歩引いた位置からの支援にとどまることと、新設時に必要な人数(担い手)が集まらないこと。

自主防災組織の活動が形骸化する要因は、1年任期による引継ぎ力の無さと、活動は実施していても、共感・参加する住民が少なく、いつも同じ顔ぶれであることがあげられます。下図をご参照ください。

さらに、自主防災組織のメンバー頼みの現状にも問題があります。大地震直後、そのメンバーが活動できないこと(けが、仕事、家庭の事情など)による初動の混乱が容易に想像できます。

(2)新しい役割への対応
指定避難所との連携の観点から、新しい(強化すべき)役割は、以下の通り大きく5つあります。
① 体育館で宿泊避難できる人数がコロナ禍で減少しており(私の最寄りの指定避難所のケースでは人口対比約2.5%)、誰が宿泊避難できるかの1次スクリーニングを行うこと。大地震の場合は自主防災組織というワンクッション無しに、エリア住民が指定避難所に一斉に避難しても、グランド(校庭)で待たされるだけです。訓練通りにはいかないと断言できます。早急にスクリーニング基準をつくり、住民に周知する必要があります。

② 各自治会エリアでの分散避難状況を指定避難所へ報告すること。市区町村行政が被災直後に関わるのは指定避難所までです。

③ 各自治会エリアで、必要な物資の有無、数量を把握して、指定避難所へ報告すること。指定避難所がまとめて市区町村の防災本部に要請します。

④ 日頃から避難行動訓練(避難行動要支援者支援を含む)を実施すること。従来の防災訓練は、消防主導による講話や消火器の使い方、救護の体験などが中心で、実際に避難行動訓練を実施しているのはごく少数派です。

⑤ 避難行動要支援者支援制度(令和3年5月改正)に対応すること。避難支援等関係者として、個別避難計画に沿った避難行動要支援者支援を行い、かつ本制度の対象外となる非同意要支援者や要配慮者への支援を行う必要があります。

さらに、自主防災組織がない場合は、すぐに新設するか、代替案を検討する必要があります。簡単です。有志のチームがすべてを代替できます。自治会エリア全体を前提とすると時間がかかると判断したら、ぜひ、同じ班、同じ棟など、狭いエリアで、住民主体での立ち上げを検討してください。

3.他の制度や仕組みへの波及効果

自主防災組織の活動は、いい意味でも悪い意味でも、その他の制度や仕組みに波及・連鎖していきます。具体的には、下図の5つとなります。

① 自主防災組織は基本的には自治会エリアにあり、組織構造は、上述の通り、自治会と同組織、自治会の活動部の一つ(防災部など)、自治会とは別組織の3通り。つまり、自治会と別組織にしないと、自治会活動の活性化・弱体化の影響をそのまま受ける構造になっています。

② 日常の困りごとを解決する生活支援、移動支援及び居場所づくりなどの生活支援体制整備は、避難行動要支援者支援など、共助の見える化の点で自主防災と重なります。

③ 指定避難所運営の中では、自主防災組織との連携の重要性がより増しています。

④ 避難行動要支援者支援において、自主防災組織、自治会長、民生委員は避難支援等関係者である場合が多い。

⑤ 独居の高齢者支援については、民生委員との連携が必須となります。

つまり、自主防災組織に光を当て、ありたい姿に近づくように改善を繰り返すことで、一石五鳥を狙えるということ。

では、上記5つの波及先を含む、市区町村の担当部門についてみてみましょう。名称や業務区分はさまざまですが、以下は私の市での担当部門です。
・自治会は市民協働課
・指定避難所運営と自主防災組織は危機管理課
・生活支援体制整備事業は介護保険課(地域包括ケアシステム担当課)
・避難行動要支援者支援制度と民生委員は社会福祉課
つまり、縦割りに横串を通す、部門横断的なチームによる企画、運用、改善がより効果的なのです。

ここで、留意点があります。各市区町村は避難行動要支援者支援計画を作成して避難行動要支援者支援制度に向き合っています。その計画の中に推進体制として、関連部門横断的な「連絡会議」を定めています。何が言いたいかというと、主担当の社会福祉課が、企画、運用、改善の進捗を連絡会議で報告・共有するのではなく、部門横断的なチームが最初から(これから)企画、運用、改善を行う必要があるのです。

最後に、令和2年版防災白書によると、自主防災組織の世帯カバー率の全国平均は84.1%です。(ちなみに我が千葉県は68.9%)加えて世帯カバー率自体はここ10数年で全国的に大幅に上昇して今に至ります。それでも、この数字自体はあまり意味がないというのが、現場の実態を踏まえた私の見解です。制度や仕組みがあっても形骸化して機能不全を起こしています。再度、目的通りに機能しているかの有効性調査をするべきです。

令和3年5月に改正された「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(内閣府 防災担当)の参考資料の中に、被災を経験した自治体トップの提言として以下が紹介されています。

「災害の様態は千差万別であり、実態に合わない制度や運用に山ほどぶつかる。・・・強い意志で制度・運用の変更や新制度の創設を促すこと。」
つまり、制度の不備や現状の困難は、乗り越えるものということ。

本noteは、防災3部作の1つです。ぜひ「防災の全体像」「避難行動要支援者支援制度について」も合わせてチェックしてみてください。

 

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