見出し画像

避難行動要支援者支援制度について

令和3年5月に災害対策基本法が改正されたことに伴い、「避難行動要支援者の避難行動に関する取組指針(内閣府 防災担当)」(以下、「取組指針」という)も同時期に改正されました。

避難行動要支援者支援について考えることは、防災を自分ごと(家族ごと)として考えることにつながります。ここでは、以下の目次の通り、4つの視点から一緒に考えていきましょう。

目次
1.「取組指針」の改定
2.要支援者名簿と個別避難計画の違い
3.個人情報の取扱い
4.ご近所の共助を育む絶好のチャンス

1.「取組指針」の改定

(1)言葉の定義
・「避難行動要支援者」とは、
主に独居の高齢者、要支援要介護者、障がい者等が対象。市区町村ごとに独自に定義できるので、対象先が異なる場合がある。
・「避難支援等」とは、
避難の支援、安否確認、その他の生命又は身体を災害から保護すること。
・「避難支援等関係者」とは、
自主防災組織、自治会長、民生委員、消防機関、地域包括支援センターなどの、個人や団体のこと。

(2)改定の背景
近年の災害においても高齢者や障がい者が犠牲となっており、災害における全体の死者のうち65歳以上の高齢者の割合は、令和元年台風第19号では約65%、令和2年7月豪雨では約79%。災害時の避難支援等を一層実効性のあるものにするため、個別避難計画の作成促進が重要と判断され、今回の改定で、市区町村に対し個別避難計画の作成を努力義務化。主な改定点のもう一つは災害警報レベルの改定です。

(3)改定の留意点(個別避難計画)
① おおむね5年程度で作成
② 福祉専門職の参画が極めて重要
③ 避難を支援する者の負担感の軽減(複数での役割分担、支援者の輪を広げる)
④ 計画の作成で終わりではなく、避難訓練を行う、更新するなどの運用が大切
⑤ 社会福祉施設等から在宅に移る場合など、避難支援に切れ目を生じさせない

2.要支援者名簿と個別避難計画の違い

下図の通り、個別避難計画の方が、身体や認知の情報、同行避難する際の留意事項など、情報の内容が多岐にわたっています。

3.個人情報の取扱い

(1)個人情報共有の3つの同意
地域社会でも個人情報・プライバシー情報の話が出ると思考停止する状態がよくあります。個人情報を活用する上での考え方が浸透していないからです。個人情報を共有し活用するには、上記の表(要支援者名簿と個別避難計画の違い)の通り、「目的」「情報の内容」「開示範囲・運用」の3つに同意をとることが求められています。逆に言えば、3つの同意をとれば、個人情報は共有し活用できるのです。共有する個人情報の内容を決めるとき、個人情報にもレベル感があることを知ることになります。

(2)個人情報保護法との関係
「取組指針」によれば、個人情報保護法が一般法であるのに対し、避難行動要支援者名簿と個別避難計画の個人情報保護に関する災害対策基本法が特別法であることから、個人情報についての災害対策基本法の規定は、個人情報保護法より優先されます。

具体的には、避難支援等関係者など、情報提供を受けた者は、個人情報の取扱いについて、主に以下の義務を負います。
・施錠保管、必要以上の複製禁止、取扱い状況の報告など。
・災害時に名簿情報等を住民に提供する場合は、使用後に廃棄・返却等を求める。

大切な点は、守秘義務を果たす必要はありますが、罰則は無いことです。違和感を持つ方も多いと思いますが、仕事とボランティアの違いを考えてみてください。罰則をつけたら、担い手がいなくなってしまいます。もちろん、悪意をもった漏洩により被害が発生すれば、損害賠償の対象になります。

4.ご近所の共助を育む絶好のチャンス

(1)行政の限界と住民主体の線引きについて考える視点
「取組指針」によると、今後、おおむね5年程度で、優先度を踏まえた個別避難計画の作成が、市区町村からのトップダウンと、本人・世帯や地域からのボトムアップと、住み分けして進むことが想定されています。

ここで、現時点での避難行動要支援者支援制度の限界は、以下の3点と言われています。
① 制度対象者の約50%が本制度に同意していない。
② ご近所の支援者の記載欄が埋まらない。(向こう三軒両隣で頼める人がいない)
③ 要配慮者(一時的なケガ人、妊婦、幼児、日本語が苦手な外国人住民など)は対象外である。

(2)ご近所の共助を育む絶好の機会を逃すな
上述の避難行動要支援者支援制度の限界など、行政制度の限界を正しく理解することがスタートライン。何から何まで行政の仕事と考えること自体が、想像力の欠如であり、思考停止の罠にハマっています。

つまり、行政制度の限界は、住民主体でカバーしていく必要があります。もちろん、行政と住民の2項対立で捉えることはせず、共創が前提です。別の言い方をすると、行政制度の限界こそが、難問であり、宝の山であり、社会を変えるイノベーションのヒント満載なのです。

個別避難計画の一部作成と未作成を合わせると約90%(令和2年10月時点)であり、全国の大半の市区町村が本腰を入れることで、今後一気に、私たちの身の回り(ご近所)の議論に上がってくることが容易に想像できます。

個別避難計画の作成と運用の過程(プロセス)は、ご近所の共助を育む絶好のチャンスです。そのために、効果的な個別避難計画の作成と運用について、まさしく総力戦でデザインしていくことが求められているのです。

「まわりがなんとかしてくれるだろう」「ご近所づきあいは煩わしい」「忙しくて日々の生活で手一杯」「大切なことだけど今の自分には関係ない」「うちは賃貸だから」など、私たちの思い込み・先入観・偏見などが最大の壁です。

防災は他人ごとですか?

SDGsの理念「誰一人取り残さない」をご近所の共助なしにどう達成しますか?

本noteが、防災3部作(令和3年度版)の最後です。ぜひ、他の2つ「防災の全体像」「自主防災組織に光を当てる」と合わせて、ご確認ください。皆さまとご家族にとって、防災の視野が広がり、防災を自分ごと(家族ごと)として考える一助となれば幸いです。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?