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困っている老人を見ても助けられないのが辛い、とイギリス人は言った。【 #DMM英会話日記】

今回の新型コロナウイルスの世界的パンデミックで、こと欧米がひどい状況になっている理由のひとつに、彼らのボディタッチ文化があるとも言われている。

ハグや握手は当たり前で、エリアによっては頬に軽くキスをする「チークキス」の文化もある。それをしないと失礼とさえ思われる社会で、接触感染が基本のウイルスが広がったのも、まぁ無理はなかったのかもしれない。

「日本にはそういうボディタッチ文化がないから、実際ソーシャルディスタンスってそれほど難しくないと思うんだよね」と私が言うと、ロンドン郊外に住むイギリス人の先生は「僕たちにはやっぱり難しいね」と笑う。
「この間も外でばったり幼馴染に会ったんだけど、彼女はちょっと離れたところから、悲しそうな顔をして、”ああ、ハグしたい!でもできない”と言っていたよ」

日本人にとってはハグもキスも握手もない毎日はごく普通であり辛くもないだろうが、いま世界の多くの地域ではそれまで当たり前だった日常が崩れているのだ。それはどんなに辛いことだろう?
日本人に喩えて言えば、もしこんにちはと言うときに頭を下げてはならず、別れ際にバイバイと手をふることも許されないとしたら?  小さいかもしれないけれど頻度の高い行動の制限は、静かに積もって徐々に心を蝕んでいくかもしれない。

「最近はソーシャルディスタンスはニューノーマルとも言われているし、僕らがもう昔には戻れないのかもしれないね。」と寂しそうに彼は言う。

「そういえばこの間、スーパーマーケットに彼女と買い物に行って、僕は駐車場で待っていたんだ。そしたら一人のおばあさんが、スーパーの入口で、ショッピングカートをうまく引き出せなくて往生していた。前のカートに車輪がひっかかっているようだった。
僕はそれを見て、いつもの癖で、反射的に車を降りて助けようとしたんだ。そのときハッと、"あ、今はできないんだ”と気づいた。
それでずっと車の中から彼女がカートと格闘するさまをじっと見ているしかなかった。こういうのはすごく辛い」

欧米を旅行している時、ちょっと重いものを持っていたり、両手がふさがってドアが開けにくいときなど、どこからともなくサッと現れて手伝ってくれた多くの人の顔が浮かぶ。困っている人を見たら助けるのも、おそらく彼らの血となり肉となっている文化なのだ。

ニュースで目にするまるで戦場のように混乱した病院の光景よりも、彼の小さな困惑のほうが、この歴史的なパンデミックの悲しみをリアルに伝えているように思った。

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