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多圭智みき
2022年7月23日 13:55
翌朝五時。呼び鈴がなった。扉を開けると龍児が立っていた。龍児の顔を見るまで、やはりわたしは彼の顔を思い出せずにいたし、この瞬間にも忘れてしまいそうだった。彼はわざと外見をぼんやりさせて、周囲との境界を曖昧にしているように思えた。 龍児は大きなリュックを背負っており、あちこちから鍋の柄などが飛び出していた。夫もイカズゴケ苔様も、まだ眠っている時間だった。わたしは彼を台所へ案内した。龍児
2022年7月16日 07:25
朝、目覚め、窓から外を確認する。家の前には行列が出来ているが、こうした光景にすっかり慣れてしまったわたしは、特に驚くことはなく、いつも通りに朝食の準備をする。昨日、参拝者から奉納された烏骨鶏の卵をかけたご飯と味噌汁は、わたしたち夫婦用。イカズゴケ苔様にはタイ風のオムレツを用意する。イカズゴケ苔様になってしまった彼女は、それまで一度もタイ料理など食べたこともなかったのに、突如そうした料理を好むよ
2022年7月9日 13:25
イカズゴケ苔いかずごけごけ【イカズゴケ苔】 コケ科初潮を迎えた娘の脇に発生する苔。摂取すると多幸感や開放感をもたらし、幻覚・興奮を来す。初潮を迎えた娘のためにお赤飯を蒸している最中、悲鳴が聞こえてきたので慌てて駆けつけてみたならば、駒子が風呂場の鏡に両脇を映したまま、呆然と立ち尽くしていた。駒子の脇に、初々しい緑の苔が遠慮がちに生えているのを確認するやいなや、母親であるわたしは、