桃尻娘

人生ベストの1冊:桃尻娘


えっ。こんなおっさんが書いてるの!?
可愛くないわー。なかったことにしたいわー。
著者、橋本治を先程ググった私の感想だ。

「桃尻娘」。国語の授業で、枕草子を若者言葉で現代語訳した人がいるので興味がある人は読んでみてくださいね、という先生のさりげない一言で橋本治を知った。この人、小説も書いてるんだ、と手に取ったのが桃尻娘だ。
女子高生の日常を、ギャル語で書いたことが、センセーショナルな青春小説として話題になったらしい。
とはいえ、出版は1978年であり、当時(2005~6年)の私にとっては充分旧時代的な言語センス。冒頭を読んだ時に「何これ?!」と思ったことを覚えている。

※ちなみにこんな感じ。
「大きな声じゃ言えないけど、あたし、この頃お酒っておいしいなって思うの。黙っててよ、一応ヤバいんだから。夜ソーッと階段下りて自動販売機で買ったりするんだけど、それもあるのかもしれないわネ。」

ただこの小説、このオカマ言葉?が気にならないくらい面白くて、全6シリーズ一気読みしてしまった。
この小説は、章ごとにいろんな高校生の主観で物語が進んで行くのだが、高校生なので、自分の視野に映ることが全世界。日常の中の不満(高校生なので意見がほぼ不満)をどんどん吐き散らかす。強い。たくましい。
強さに圧倒されつつも、読んでいくと、小説の中に、どう考えても私が居るのだ。
なんで私が考えてたこと知ってるの??と思うことがしばしば。

当時、思春期特有の万能感に包まれて、かっこいい自分を演出することに必死だった私。
そっかー!!私の頭の中って、ベストセラー小説になるくらい一般的なことだよなー!!
友達と思ったことをぶつけ合うもの格好いいよな!!

自分の枠に収まりきっていた私が、ぐいっと引っ張り出されるような読後感を今でも覚えている。

大学受験で、第一志望に落ちてしまった時、本作の主人公も同じく本命へ落ちて早稲田へ進学。その際にも、「あの東大よりもすっっごいっていう早稲田へ行けちゃうんだから、私って天才!」というテンションで全力で自己肯定。すっごく救われた。

その後、シリーズ終盤では彼/彼女たちも大人になるのだが、こんな風に考えてこんな風に大人になるのかな、私?この大人たち、結構面白いぞ?と初めて年をとることをポジティブにとらえられた。
これまで、小説とはフィクションであり、登場人物はすべて魅力的ではあったがリアリティは薄かった。
小説の中の世界と自分の人生を地続きに感じられた、初めての小説だった。