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Margo-物語と糸- #27 |『秘密の花園』を染める 3

今回の物語はバーネットの『秘密の花園』。用意した糸すべてに発注が入り、予約受付は終了しましたが(ありがとうございました!)、引き続き糸紹介を続けようと思います。
今回ご紹介する糸は「秋の庭」。
先月は発売しましたが今月は作らなかったレアな糸です。


クレーブン氏はこの百合がはじめて植えられたときのことをよく覚えていました。そして秋の花としてはおそい、この花の美しさは、今の時期が一番だということも知っていました。おそ咲きのバラのつるも上にのび、あるいは下にたれ、群がり咲いていました。日光が紅葉しはじめた木の葉の色を深め、まるで黄金でつくられた神殿のなかに立っているような感じでした。
(『秘密の花園』より)

 物語の終盤、メアリの叔父でコリンの父親でもあるクレーブン氏が屋敷に戻り、息子との感動の再会を果たします。そのときの秘密の庭は、まさに秋の盛り。この季節ならではの透明さを増した日射しのなかで、花園が1年で最後の美しさを輝かせています。物語と庭のクライマックスがシンクロする、美しいシーンをイメージして糸にしました。


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冬にはじまり、秋に終わる1年間の物語
 冬に始まった物語は、秋にフィナーレを迎えます。春の庭で立ち上がることができたコリンは、すっかり健康になって食欲があるのを隠すのに苦労するほど。そしてついに父親のクレーブン氏と元気いっぱいの姿で再会を果たします。
 秋に写真を撮ったり木々を見ているといつも実感するのですが、この時期の植物は他の季節にはない黄味がかった色合いを帯びたり、陽を受けると金色のライトを浴びて輝いているように見えたりします。陽の傾くのが早くて植物や木々を低い場所から照らすせいでしょうか。空気が澄んでいるのも関係あるのかもしれません。
 バーネットが表現する秋の庭の輝きも、まさにそんな光を思い起こさせます。こっくりとした秋色の花々や紅葉に染まる庭園は、午後の陽射しに包まれて金色に輝いていたのでしょう。

『秘密の花園』のラスト問題
 今回毛糸を製作するにあたり、秘密の花園を精読しました。ノートに時系列で出来事をまとめ、本には登場人物や庭、ムーアやコマドリが出てくる場所に色を変えて付箋をつけました。するとよく分かるのですが、春の庭で自力で立ち上がって以後は、コリンがお話の主役になっているのです。付箋も主役であるメアリの色が中心だったのに、終盤はコリンの色ばかりになりました。こうした主人公のスライドを、物語の構造の疵ととらえる評論家もいます。

確かにメアリのフェードアウトは「あれ?」となりますが、『秘密の花園』 は「自然(庭)が人々を再生させる」物語だと思うので、コリンがフィナーレを担当するのはまあ理解しましょう。
むしろわたしがひっかかるのはコリンより、コリンのお父さんであるクレーブン氏のふるまいです。
 息子が自力で心身を回復し、その過程の話を聞かせてもらって一緒に笑ってるクレープンさんを、どうにも読み流すことができません。「ちょっと呑気すぎひん?」と、つい心のなかで突っ込みをいれたくなるのです。

コリンにたくさんの本やおもちゃを与え、メアリに好きなところを自分の庭にしていいと言ってあげる優しい人なのはわかります。奥さんが急死して本人も辛かったんでしょう。メアリの両親も育児放棄状態でしたから、20世紀初頭のイギリスセレブの子育てはこんなものなのかもしれません。
しかし、やはり現代人のわたしにとってはモヤモヤ案件。
メアリが屋敷に来ずコリンが自力で復活できない子だったら一体どうなっていたでしょうか、考えただけで恐ろしい。父親としてもっとしっかりして欲しいものです。そして作者に対しても「少しでいいのでクレーブン氏が反省する様子を書いて欲しかった……」と思ってしまうのでした。

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