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Margo-物語と糸- #42 |『若草物語』を染める

Margoの物語の糸、新シリーズを始めました。今回は『若草物語』です。
ひとつめの糸は「ジョー」。主人公のジョーをイメージし、カラフルバージョンとセミソリッドバージョンを染めました。

「あたしゃごめんだね。いいよ、髪を結っちゃったらレディだっていうんなら、あたしは二十歳までお下げにしとくから。」
ジョーはやにわにネットをはずすと、栗色の髪をざんばらにしました。
「大人になって、ミス・マーチでございだなんて、思っただけでもぞっとするよ。ぞろりとした着もの着て、えぞ菊みたいにつんとしているだなんて。女の子に生まれただけで、もううんざり。遊ぶんだって働くんだってお行儀だって、なんでも男の子なみにやってみたいのにさ。」

『若草物語 I &II』L・Mオルコット作 谷口由美子訳(講談社)より

 4人姉妹の次女であるジョセフィーンは、豊かな栗色の髪を持ち灰色の鋭い目をした15歳の女の子。男の子のようになりたくて皆に自分のことをジョーと呼ばせて、兄貴役をかってでています。本を読むのが好きで、小説やお芝居を書き、隣りに住むローリーと兄弟のように仲良し。ジョーは作者のオルコットの分身であり、若草物語の主人公ともいえるでしょう。そんなジョーの知的で激しく、個性的なキャラクターをイメージして、毛糸を染めました。

愛おしい少女たちの成長譚
 若草物語は、マーチ家4人姉妹の物語。メグ、ジョー、ベス、エイミーの4人は、ときには喧嘩もするけれど、お互いを大事に慈しみ合いながらそれぞれに成長していきます。冒頭は、長女のメグが16歳、次女のジョーが15歳、三女のベスが13歳(末っ子のエイミーだけは記載がありません)ではじまりますが、編み物をしながら賑やかにおしゃべりする様子は、女子会そのもので何とも楽しそう。お互いに好きなことを言い合ってはいるのですが、奥底にゆるぎない姉妹の愛情や絆が感じられてとても微笑ましいのです。

 姉妹のお父様は牧師で南北戦争に従軍しており、現在家はお母様と姉妹の女所帯。家計は苦しく、もの寂しいクリスマスを迎えたところから物語は始まります。姉妹が大好きなお母様は慈善家で、困っている人たちのために働く人。クリスマスの朝もお母様の提案で、自分たちの分を諦めて貧しい家庭に朝ごはんを届けにいきます。自分たちもお腹が減っているけれど、貧しい一家にすごく喜ばれて、みんな幸せな気持ちになって帰っていくシーンがなんとも心温まるのです。英語のタイトルは『LITTLE WOMEN』(小さな婦人)ですが、これは姉妹の両親が、娘たちに対して子どもではなく「小さいけれど一人の女性」として向き合い、教育していることからついたタイトル。物語が描かれた時代もあると思いますが、お話全体にキリスト教に根ざした価値観や規範が感じられます。

 日本でも人気の物語ですから、小さい頃に読んだ方も多いのではないでしょうか。わたしもやはり同じです。読書家だった母の影響で本好きになったのもあり、母がこよなく愛したジョーというキャラクターを、自然に好きになりました。今ライターの仕事をしているのも、ジョーの影響がなかったとは言い切れません。
 大人になって改めて読み返してみると、ジョーは別に女性という性を嫌がっているのではなくて、当時の女性の立場が嫌だったんだな、とわかりました。この物語は第1部が1868年に出版されていますが、当時の女性はアメリカでさえ「家庭的でしとやかな良妻賢母」になることが求められていました。「女性はこうあるべき」という社会の圧力は今の時代に生きるわたしたちをも苦しめますが、当時は想像もつかないほどの強固な壁だったに違いありません。
 ジョーは男に生まれたかったのではなく、ただ自分らしく生きたかっただけ。「遊ぶんだって働くんだってお行儀だって、なんでも男の子なみにやってみたい」だけで、それが「男勝り」といわれてしまう時代だったのでしょう。そしてそんなジョーの思いは、作者であるオルコットの思いそのままだったはずです。わたしは『若草物語』を読みながら、ときおり「オルコットが今の時代をみたら、何ていうかな」と考えました。「女性が自由になってよかったわ」と喜ぶでしょうか、それとも「150年経ってもまだこの程度なの」とため息をつくでしょうか。ただ、女性が持たざるを得ない根源的な悩みや苛立ちを抱えながら自分を貫き通そうとするからこそ、ジョーは多くの女の子とかつて女の子だった女性たちに愛されているのだと思います。

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