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運命の赤い毛糸②

〜嫌なものは嫌〜

1時間目は図工の授業で彫刻刀を持って図工室に移動した。自分の顔を木彫りで作るという授業で、今月中に完成させる予定になっている。

豪太とキチリにかなり頭がきていたので、無意識のうちに彫刻刀を持つ手に力が入った。

「鈴木さんちょっと掘り過ぎかな。少しずつ掘って調整していってみて」

図工のトイちゃん先生は優しくてイケメンだ。確か30歳でおじさんって年齢だけど、肌がつやつやしていて大学生とかに見える。女子児童はトイちゃんが大好きで、休み時間に図工室に遊びに行ったりする。

トイちゃん先生の言葉で内心朗らかになった気がする。2時間続きの授業で良かった。

りっちゃんとみっちゃんに囲まれながら教室に戻ると、教室の前に人だかりが出来ていた。

「どうしたのー?」

みっちゃんが人並みかき分けていくと、掲示板に浮き上がっていたのは赤い毛糸のパンツだった。S.Hのイニシャルが見えるように画鋲が刺してある。

「イェーイ!!」

出っ張った腹を撫でながらのしのしと教室から出てくる豪太と知能派キチリの高らかな声が揃うと、視線はまた私に集まる。

「梅干しちゃん、大丈夫かい?」

キチリの言う梅干しちゃんとは私のことだ。口を真一文字にすぼめた顎が梅干しのように皺が寄っているからだ。

毛糸のパンツを引きちぎるように取って、教室に入ってランドセルを手に取る。

「あっ!はるちゃん!」

りっちゃんとみっちゃんが走っても追いつかないくらい、ダッシュした。廊下はとっても長くて、どこに向かって走っているかも分からなかったけれど、ただただ続く廊下に沿って足が勝手に逃げて行った。

辿り着いた家の玄関前に、パパのソリオが停まっていた。

ーーあれ、パパ帰ってきたのかな…

ママの肩を抱いたパパが玄関から出てきた。

「春香!どうした!?学校は?上履きで帰ってきたのか?」
「パパだって…会社は…」

ママは何も言わなかった。ただじっとお互いの瞳だけがかち合っていた。逃げ場を失ったと感じた私は、泥だらけの上履きに視線を落とした。

#短編 #小説

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