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エイサー

あなたの沖縄コラムプロジェクトに寄稿しました。

https://note.com/your_okinawa/n/n69179699716f

この記事の初稿があり、こちらも好きなので、ここに載せてみます。


6年生のころ、学年でモテる男トップ3にはいるYくんが同じクラスだった。彼は勉強はからきしで、走るのも特に速いわけではなかった。大きな黒い瞳と、すこし天然パーマのかかった髪、おもしろい話をするわけじゃないが、話すといつも笑いがおこる。活発なチームにいるのに、声が大きいわけではない。背は低いがミステリアスな雰囲気があった。

授業はいつも不真面目で、ふざけていた。先生に隠れてカセットテープを持ち込んだり、たまに授業を、さぼったりしていた。先生は彼を叱るが、彼のことを憎めないとおもっているのは、誰の目にも明らかだった。クラスの中の愛される小さな不良Yくんの外斜視の入った眼差しは、愉快なのにいつもすこし寂しげであった。

そんな彼が、地域のエイサー祭りにでるらしい、という話を、Nが聞きつけた。どうやら毎日19時から、あの公民館で練習しているらしい。エイサー祭りといっても規模はとても小さいもので、出店もなければ、花火もない。校庭の4分の1ほどの公民館の前のスペースで行われる祭りだ。

その公民館は、家から歩いて20分のところにあった。祭りのその日は、溢れんばかりの人が狭いスペースでひしめきあっていた。オレンジの、提灯ではない、大きめのキャンプ用の外灯がそこかしこに置かれ、真ん中では大人のたくさんの男たちが旗頭を支えている。その後、エイサー隊が出てきた。不良っぽい顔つきの眉毛の細い中学生や高校生に混じって、Yくんは真剣な顔で、バチを握り、額やこめかみから汗を流しながら、大太鼓を叩いていた。こんなに真剣な彼を、わたしははじめて見た。Nが言う。「にぃにーとか、先輩がこのエイサーやるから、Yもやってるってよ」

ありがとう、にぃに、ありがとう、先輩。彼のこの姿を見せてくれて。そういえば、彼は方言が、めちゃくちゃ喋れる。おばぁと住んでいるからもあるけれど、ヤンキーやギャルたちは、なぜかみんなこぞって方言を話す。おじぃおばぁと離れて暮らすわたしは、彼ら彼女らの言ってる方言の半分もわからない。沖縄の文化と呼ばれるもの、それはきっとこれからも、彼ら彼女らが担うのだろう。わたしはその輪の中には入れないのかもしれないという、諦めと、羨望と、すこしの恋心を持って、エイサー隊が退場するまでずっと、彼の汗を見ていた。

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