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史実と真実 「典獄と934人のメロス」

著者の坂本敏夫は元刑務官。

多くの犠牲者を出した大正12年9月の関東大震災。その日、帝都のみならず、36歳の椎名通蔵が典獄(現在の刑務所長)を務める横浜市根岸町(現在の磯子区)にあった横浜刑務所も大打撃を受けた。

椎名は天災事変に際し24時間に限って囚人を解放することができるという監獄法により、囚人を解放する。今日残される多くの記録には、「横浜刑務所の囚人が解放され、強盗、強姦、殺人など悪の限りをつくし、横浜のみならず、帝都・東京の治安も悪化させた」と残されているのだが、実は全く違っていた。囚人たちは被災者を助け、重労働の食糧の荷下ろしをし、一人残らず帰還した。
椎名は汚名をそそぐこともせず、終生寡黙を通し、書き物も何ひとつ残していない。


著者は元刑務官としての誇りをかけて史実に隠された真実を気の遠くなるような時間をかけて掘り起こし、その真実を明るみに出した感動の作である。 

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