見出し画像

08 訪問リハビリの日常【最期のときの過ごし方】

 その日は雨が降っていました。リハビリに伺うと、利用者様はベッドに腰掛けて、しとしと雨が降る庭を眺めて待っていました。挨拶をしてバイタル測定をすると、いつ通りその日も熱がありました。利用者様は「今日もちょっとえらくて、、、。マッサージを中心に行ってくれるかしら。」と私に伝えました。
 肺の病気で入院し、入院している間に体力が落ちてしまい、退院後から訪問リハビリを開始しました。退院直後は体調も良く、どんどん良くなっていきましたが、最近はずっと熱が続いており、リハビリも運動などはやれない事も増え、少しでも倦怠感が良くなるようにと、無理の無い範囲でリハビリを行っていました。

 私が「じゃあ、今日もマッサージを中心に行いましょうか。」と伝え、マッサージをしていると、利用者様は「そろそろリハビリを休憩しようかしら。もう目標だった料理もできるようになったし、庭の散歩もできるようになったし。それに、、、最近は調子が良くないことも多いし、リハビリを一旦お休みにしてみようかと思うの。」と私に伝えました。私はいろいろ考えました。なんと伝えたら良いか悩んだ後に、「最近は調子が悪いことも多いですけど、また調子が良くなるかもしれませんし、もう少し続けてみませんか。」と利用者様に伝えてみました。しかし、その利用者様は「もうここまで良くなれただけで充分なの。本当はもっと早くお別れが来ると思っていたんだけど、、、。ここまでできるようになって満足しているの。後はのんびり過ごすわ。」そう仰りました。はっきりとは医師から伝えられていないようですが、自分の残された時間が長くないことを分かっているようでした。
 その利用者様の気持ちを理解し、訪問リハビリを休憩(終了)することになりました。週1回だった医師の訪問診療も、2週に1回と利用者様が希望し頻度を減らしたそうです。医師にどんなに薬を調整しても、体調が良くならない、体力の限界が近いと利用者様は考えたのでしょう。

 訪問リハビリを終了する日、利用者様は「また調子が良くなったらよろしくね。」と笑顔で私に伝え、私も「はい、調子が良くなったらまたお願いしますね。」と言って笑顔で訪問リハビリを終了しました。しかし、私も利用者様もそれは難しいことだと心では理解していました。

 残された時間、その方が自分らしい生活を送れるよう、祈っています。

【一言メモ】
 終末期リハビリテーションと言う言葉を知っていますか。リハビリテーションとは、ラテン語の「re」=「再び」と言う意味と、「habilitare」=「人間らしい」、「できる」と言う意味からできた言葉です。つまりリハビリテーションとは、「再びできるようになる」と言う意味とともに「再び人間らくしなる」と言う意味があります。終末期のリハビリでは「再び人間らしく」生活できることを重きをおきリハビリを行っていく必要があると考えます。
 少し前は、急性期や回復期のリハビリが一般的でしたが、少し前から終末期のリハビリにも注目が集まってきました。
終末期のリハビリでは以下の効果が期待できます。

・身体機能の維持
・痛みの緩和
・免疫力向上
・血栓予防
・肺炎予防、呼吸症状の改善
・心不全予防
・倦怠感の緩和
・褥瘡予防
・心のケア

終末期ケア専門士 公式テキストから一部抜粋

訪問リハビリの現場では、加齢や病気により、身体機能を改善することが難しい方もたくさんいらっしゃいます。その方が最後まで自分らしく生活できるよう、知識を身につけていきたいと思います。

この話は私の体験をもとに感じたことを記載しています。そのため、内容はフィクションであり、登場人物も架空の人物です。



よろしければサポートをお願いします!いただいたサポートはエンディングノート事業の活動費として使わせていただきます!