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05 訪問リハビリの日常【最期の迎え方】

 リハビリに伺うと、その方はベッドの上で横になっていました。ご家族の方は「さっきまで起きて、大好きなイチゴを少し食べてたんですけどね。寝ちゃいましたね。」と先ほどまでの様子を教えてくださいました。その日は、午前中は親戚と団欒して過ごし、午後からリハビリの予定でした。
 私はいつものように「こんにちは。体温や血圧を測っていきますね。」と言って、寝ているその方の体温を測りました。36度5分。そして今度は脈拍を図ろうと、そっと橈骨動脈に触れました。すると脈が触れません。おかしいと思い、何度も動脈の場所を探しましたが、やはり分かりません。少し焦って、利用者さんの口元に私の耳を持っていきましたが、息をしていませんでした。聴診器で胸の音や心臓の音を確認しようと思いましたが、やはり音は聞こえませんでした。
 私の様子を見ていた家族の方も事態を察して、「さっきまで起きてたんですよ。」と言い、その方の体を強くゆすったり、大きな声で名前を呼びました。しかし返事はありません。「さっきまで起きて、大好きなイチゴを食べていたんですよ。」と何度も繰り返して言っていました。
 緊急の場合は、まず看護師に連絡するように言われていたため、私は訪問看護師に連絡し状況を説明しました。訪問看護師からは「今から行きます。私が着くまでそばにいてあげて。」と言われたため、訪問看護師が到着するまで家族のそばに付き添っていました。家族の方は、外出していた家族や親族の方に連絡をした後に、いろいろな話をしてくれました。話をしてくれる間に少し落ち着いてきたようです。私は訪問看護師が到着するまで、その方の昔話を家族の方から聞いていました。訪問看護師が着いたら、私は交代する形で退室しました。その後、対応した訪問看護師に聞いたところ、家族全員が医師や看護師に感謝をしており、納得のいく最後が迎えられたようでした。家族に見守られながら、亡くなったことがわからないほど、穏やかに旅立ったのです。その方は、幸せな最期を迎えることができたのではないかなと、私は心の中で思っています。

今日の一枚

【一言メモ】
日本では、約8割の方が病院で亡くなる一方、2017年度の厚生労働省の調査によると、約8割が人生の最期を迎えたい場所として自宅を望むという結果が出ています。
日本人は「死」と言うとマイナスのイメージが浮かぶ方の方が多います。しかし、自分の人生の最後をどのように迎えるかを考えることは、自分のためにも、家族のためにも必要だと思います。

皆さんが前向きに人生の最期と向き合えるような、「エンディングノート」を、いつか作成できる人になりたいと思っています。


個人情報に配慮し、内容は私の体験をもとに創作しています。そのため、物語はフィクションで登場人物も架空の人物です。

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