正直褒められたい

自分で言うのも何であるが、生い立ちを考えると私は実にまともな人間になったと思う。

家出をしたこともなければ、補導されたこともないし、煙草を吸ったこともない。
無断外泊もしなかったし、家庭内暴力に走ったこともない。
援助交際もしなかったし、とにかく法に触れるような悪さは何もしなかった。
唯一お酒だけは両親が未成年でも平気で飲ませる人間だったので許されたいが、外で飲酒して問題を起こしたこともない。

幼い頃から散々、片親だとか不登校だとかで、そんなことではまともな大人になれぬと圧力をかけられ続けていたので、体裁だけでもまともになろうと努めてきた。

成人してからはいっそう、少しでもましな人間になろうとしてきたように思う。

若い時分に無理を重ねてずいぶん健康を害してしまい、3年前には肺炎を患ってしまったので(医者には口をそろえて、「この歳で肺炎になるなんてよほど疲れが溜まってたんですね」と言われた)、最近では健康を第一にして風邪もそうそう引かなくなった。

毎週の通院もサボることなく続けている。

食に対する執着が薄く、気を抜くとすぐに体重が落ちてしまうので、なるべく体重に変動がないようがんばって食べているし、スポーツをする習慣はないが健康と体型を維持する程度には体を動かすようにしている。

人に会う予定がなかろうが疲れていようが風呂には毎日入るし──本当はものすごく面倒くさいが──、スキンケアもヘアケアもしている。

部屋は汚いが、ごみ屋敷にはなっていない。

猫のご飯も一日二回、きっちり計量して与えているし、薬も欠かさず飲ませている。

仕事には遅刻しないし、挨拶もするように心がけている。
(躾をされなかったせいか、未だに挨拶が不得手である)

人の悪口も陰口も言わないように努めているし、生徒やお客様の前では笑顔でいるように心がけている。

ギャンブルはしないし、たまに飲みに行っても下戸なのでせいぜいカクテルを2、3杯飲む程度で、泥酔したことなど一度もない。
(泥酔できるほど飲めないだけだが)

倹約家でもないが、衝動買いはめったにしないし、毎月の支出も安定している。

嘘をつくのも、争いごとも苦手である。人に声を荒げたり手を上げるような真似はここ十数年していないはずだ。

何もかも当たり前のことだと言えばその通りである。

しかし、一度として自殺未遂もせず、自傷もせず、今日まで生きてきただけで、正直褒められたいぐらいだと思う。

その上日々こんなにも人間らしい生活をしているのだから、満点とはいかずとも80点くらいはもらいたい。

本心としてはそうなのだが、世の中は当たり前のことには及第点すら与えてくれない。むしろ減点方式で、私などは結局マイナスなのかもしれない。

それでも、ハンディまみれでスタートした人生で、当たり前のラインに立つためにそれなりの努力をしてきたのだ。

これ以上の努力をするエネルギーはないとさじを投げたくなる瞬間がないではないが、今日も猫が膝の上で上機嫌に喉を鳴らしているので、まあいいかと妥協している次第である。

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