123天文台通りの下町翁 雑記帳~ラナ・ゴゴベリゼ監督 映画「金の糸」(2019年)
1968年に開館し、今年7月末には54年の幕を下ろし閉館となる神田神保町・岩波ホールでジョージアの女性映画監督の劇映画作品を鑑賞。ウクライナへのロシア軍侵攻、戦争をきっかけに、にわかに旧ソ連を構成していた国々の民族、歴史、文化に目が向き、カザフスタンが舞台の「スターリンへの贈り物」を江古田のギャラリー古藤で見た後、この作品を鑑賞。舞台はアジア、中近東、ヨーロッパをつなぎ交わる地域、ジョージアの首都トビリシ。町自体が、舞台劇のセットそのものと見紛うほどの重厚さだ。その町で暮らす知的な老女エレネ(ナナ・ジョルゼ)は作家で、彼女を主人公に彼女の家族、隣人たち、かつての恋人との人間模様を味わい深く、淡々と丹念に描く。エレネはゴゴベリゼ監督の分身と言って良いだろう。監督自身、ソ連時代にジョージア生まれのスターリンの大粛清時代(1930年代)に共産党高官だった父が処刑され、映画監督だった母は流刑の憂き目に遭っており、その背景が静かさが基調の映像背景に漂う。
映画の題名が、製作中に元々考えていたものから、日本の"金継ぎ"という欠けてしまった壺や陶磁器をつなぎ合わせる伝統的修復技術に出会ったことから「金の糸」とされた。人生の過ぎ去った出来事の欠片をつなぎ合わせていることが重ね合わされる場面が流れていく。エレネという同じ名前の愛らしい曾孫とのやりとりも、未来への欠け継ぎを意味していると思える。
驚いたことにジョージア語の文字の形そのものが、まるで"金継ぎ"の線とみえるのも偶然だ。
岩波ホールでかつて見た「家族の肖像」(ルキノ・ヴィスコンティ監督、バート・ランカスター主演)と共通しているが、若い頃に見てもピンとこないが、人生後半になったぐらいにジワジワ染み入る、そんな映画だ。
【金の糸サイト】
http://moviola.jp/kinnoito/
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