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【完クリネタバレあり】サイバーパンク2077:仮初めの自由 の思想を紐解く

こんにちは、おがくずにゃんこです。

今回は珍しくゲームのレビュー。イチオシの神ゲー、サイバーパンク2077の紹介兼DLCの考察です。

なんとかすべてのエンディングを解禁するところまでプレイできたので、印象的だったシーンの画像を紹介しながら掘り下げていきたいと思います(画像多めです)。

ありがとう、ナイトシティ!

Cyberpunk 2077ってどんなゲーム?

このゲームを一言で説明すると、「資本主義が究極的に行き着いた近未来都市ナイトシティで生きる人々の生き様を、複雑なストーリーと圧倒的ボリュームで作り込まれた街の上で駆け抜ける」群像劇です。

群像劇と表現したのは比喩でも何でもなく、個人的にはゲームというジャンルに留めておくのは勿体ないと思っています。TRPGが原作ということもあり、人物像もストーリーも作り込まれています。何よりナイトシティという架空の近未来「都市」が、現実以上に現実的、Surrealな実感を持っています。

このレベルの美しい街並みがどこまでも続く

ゲームを買うのはハードルが高いという方は、アニメも超おすすめです。Netflixオリジナルですが、30分×10話と短いにも関わらず満足感の高い王道ストーリーの作品です。


また、ゲームの方で最近発売されたDLC「仮初の自由」は、体感として本編の2/5くらいのボリュームはあり、ほぼ全てのストーリーがボイス有りで進みます。ゲームのバージョン2.00以降でプレイを始めるのであれば、正直DLCありきといっても良い仕上がりになっています。

サイバーパンク2077:仮初めの自由
Cyberpunk 2077 Phantom Liberty

開発元:CD PROJECT RED
リリース日:2023念9月26日
※DLCのプレイには、別途本編の購入が必須です

ちなみに本作については過去記事でも触れています。こちらは現実世界の未来予測が中心の記事ですので、ついでに見ていただけると嬉しいです。


狂気なまでにハイクオリティの街並み

何から語ろうかと悩みましたが、この作品は何より都市から語るべきだと思います。複雑怪奇な建造物や、細かいところまで描写された街並み。他ゲームの追随を許さない精緻な街がそこにはあります。

ハンドパンというマイナー楽器の奏者までもがリアルに溶け込む街並み

プレイヤーが自由に動き回れる、いわゆるオープンワールド型のゲームは当たり前になってきました。ただ、言ってしまうとただ動き回れるゲームなら個人でも作れてしまいます。しかし何十分も無機質な立方体の上を歩くだけの作品に、全く魅力はありません。

それに比べサイバーパンクは、現実空間並みに飽きることがありません。ちょっと歩けば見知らぬ落書きがあり、不思議な格好のNPCが近づいてくる。狂気と言っていい作り込みです。制作背景については、げーむさんぽで開発者が語る回が非常に面白かったです。

しかし都市景観そのものは、ゲームとしては二の次の要素でしょう。RPGがもたらす感動というのは、ストーリーであったり、ワクワクするバトル体験から生まれます。そこに関しても申し分ないことが、サイバーパンクが評価される所以でしょう。正直都市景観はストーリーを追う中で周辺視野で見える残像かもしれません。探索をプレイヤーに強いるのは野暮というものです。しかし残像レベルで受け取る情報量、無意識レベルの情報量の差が、神ゲーとそれ以外を分かつのではないでしょうか。


平穏に過ごすか、派手に死ぬか

ストーリーについても触れていきましょう。数多くのセリフの中で、ナイトシティを体現しているのはデクスターのこのセリフだと思います。

凡人としてなんの面白みもないしみったれた平穏な生涯を過ごすか、
名を上げて華々しく早死にするか。
お前ならどっちの生き方を選ぶ?

デクスター。最初に出会った頃はマジで怖かった

まさに究極の二択ではないでしょうか。アニメで登場したデイヴィッドは後者を選択し続けてしまったように見えますし、ナイトシティで生きていくにはそれくらいのタフネスさがどうしても必要でしょう。一方でゲームの主人公Vは、選択肢次第でプレイヤーの心情が反映されます。

メインストーリーでは何やかんやあり、軍事産業を牛耳る大企業「アラサカ」の試作品チップRelicを頭の中に埋め込んでしまった主人公は、伝説のテロリストであるジョニー・シルヴァーハンドと脳をシェアすることになります。主人公の人格は徐々に浸食され、何もしなければ死んでしまう中、なんとかして生き延びる術を模索することになります。

最初はウザいおっさんだが、徐々に面白い相棒に


(ここからネタバレ)DLCで登場する個性的なキャラクター陣

特大級のネタバレになりますが、DLC発売前はどのエンディングへ突き進んだとしても、Vは短い生涯を終えることになります。悲しい結末ですが、Vはナイトシティで名を上げたのだと自分を納得し、讃えたところでこのゲームを終えたのが昨年でした。

そして満を持しての、DLC発売です。新たなエンディングはどうなるのか。期待に胸を膨らませて始めて見れば、新合衆国の大統領を救うというとんでもないミッションが発生します。

突如連絡してきた大統領護衛のソングバード。彼女は天使なのかそれとも…?

優秀なエージェントのソングバード(以降ソミ)に導かれ、なんとか大統領を救出できたV。しかし彼女との連絡は突如として断ち切られてしまい、新たな協力者として新エリアのドッグタウンに潜伏中の元軍人、リードにコンタクトを図ります。

大統領の逃走幇助とソミの救出という2つの目的を果たすため、リードともう一人協力者を求めます。アレックスというリードの元同僚ですが、ソミ・大統領・リード・アレックスの四角関係が何とも言えず複雑です。アレックスはリードに裏切られた過去があります。そしてソミはリードにスカウトされたことがきっかけで軍人となりましたが、ソミは自分が助かるためにリードをドッグタウンに捨て置き、今の地位を手に入れたという過去があります。そして大統領は強かな政治家であり、仲間の死を厭わない「冷血漢」という言葉が似あうオバサンです。

アレックス(左)とリード(右)。作戦遂行においては頼りになる仲間

メタ的な視点の考察ですが、メインストーリーでは三角関係以上の視点はあまりなかったこともあり、DLCでは重厚なストーリーを設定したのではないかと思います。アラサカ以外の軍事企業について深掘りされたことも良かったです。新エリアのドッグタウン自体はそこまで広く無いので、物理的にも心理的にも密度高い設定にすることで盛り込みたいコンテンツをすべて詰め込んだ印象です。その効果は絶大で、少なくとも個人的にはメインストーリーと同じくらいボリューミーな体験でした。

新エリア「ドッグタウン」を一望


ソングバードを助けたくても、助けるのは間違い

ストーリーに話を戻すと、お互い疑心暗鬼になりながらも時に協力し、時に裏切りながら進んでいきます。終盤ではVの選択によるストーリー分岐もありますが、非常に悩みました。様々なセリフに選択肢があるので反応の違いも多岐に渡ります。「人生は選択の連続である」と言いますが、ゲームでは一つしか選べないはずの人生について様々に選ぶことができるというのは醍醐味の一つです。特に終盤の結末は、自らの選択による「葛藤」や「後悔」をとてもリアルに体験できました。

特に私はソミについて、幸せになってほしいと最後まで思ってしまいました。けっこうな人を裏切っていて、Vのこともハナから助ける気なんて無かったんじゃないかという風にも受け取れますが、ソミの行動原理はとにかく生き延びる術を諦めずに探すということです。それ以外に過去の過ちを未だ後悔し続けているという設定もVと共通していますし、私自身の人生とも重ねて見てしまう部分が多い、魅力的なキャラクターです。

そんな顔しないでくれ…(ロマンスはありません)

今回のストーリーで憎いところは、ソミのためを思った選択肢は大体ハズレなことです。協力した先ではほぼ必ず戦闘になり大勢を殺す羽目になります。さらに最後の方では新合衆国にソミの身柄を引き渡すことがVが助かる条件になってきますが、それが彼女にとって幸せな結末とは到底思えません。詳細は明らかになっていませんがおそらくは危険な目に逢いまくり、ネットウォッチとして自由のない生活を死ぬまで強いられることでしょう。だからこそ最後の選択肢で、今ここで死ぬという彼女の意思を尊重してあげたかったです。日本のラノベではあり得ない展開ですが、「全員を幸せにすることはできない」というのがナイトシティでの鉄則なのでしょう。

またソミの結末については別の観点で、企業と同じく政府も理不尽という面が描かれているように思います。Cyberpunkのメインストーリーではタケムラというアラサカ社の護衛が登場しますが、彼は社長を守れなかったことで護衛の地位を一時失脚します。企業と同じように政府も自らに利する相手は利用し、そうでなければ切り捨てる、という面がソミを通して描かれました。…Cyberpunkの世界に優しい人は居ないのでしょうか。

タケムラ。無骨だが実は面白い武人

DLC登場のキャラクターで思い入れが強いのはソミですが、同じく主要キャラのリードはずっと謎キャラでした。とにかく本音を言わないことを徹底していて、何が本心か全然わかりません。ただソミを助けたい動機はわかります。ざっくりまとめると「7年前俺を裏切らせたのも含めて俺の責任だ」→「ソミは罪悪感を持っているかもしれないが俺は祖国のために殉じたまでだ」→「だからソミを助ける」という感じでしょうか。しかし助ける方法がVとは相容れず、あくまで軍に引き戻すことに拘ります。それは狂気といえるほどの忠誠心が行動原理にあるためで、軍で待遇処置を善処することに拘ります。もちろんリードの意向だけでソミの処遇をどうにかすることはできないことは、ストーリー展開でわかってしまいます。

追記:ストーリーの分岐点で、ソミを助けてもリードを助けてもVの新エンディングへ向かうことができます。どちらも新要素満載なので、両方プレイしてみてください。


V自身が望むエンディングとは

長くなりましたが、不服ながら個人的にはまったく共感できないリードの願いを叶え、大統領に恩を売ることでVのストーリーも新たなエンディングを選択することができます。

そして結論からいうと、Vは生き延びることができます。しかし、ついにやった!成し遂げた!と、手放しに喜べる気がなぜかしません。以前の力を失ってしまったこと、ジョニーが居なくなってしまったこと、そうした喪失感や虚しさが襲います。

さすがにエンディングの画像は自重します。続きはラーメン屋で話でもしましょう

その原因はストーリー紹介の冒頭で紹介した、デクスターのセリフにある気がします。

凡人としてなんの面白みもないしみったれた平穏な生涯を過ごすか、
名を上げて華々しく早死にするか。
お前ならどっちの生き方を選ぶ?

これまでのエンディングは、確実に「死」が迫っている中で出来るだけ「華々しく」活躍することを目的としていました。しかし今回の選択肢は生き延びてしまったがために、「平穏な生涯」を約束されてしまったのです。

V自身の気分としては、まるで巨人の力が消えた後の進撃の巨人の世界や、グールの力が無くなった後の東京喰種の世界のようです。しかし治安は最悪で、相変わらず企業の支配が続くナイトシティでは陰謀が渦巻いています。

エンドロールで、ローグはVにこのようなことを言います。

お前が生きていてよかった。アフターライフでいつでも歓迎する。ただお前がアフターライフに来ると、かつての「伝説」がどんどん薄れてしまう。それはあまり望まないことだ

かつてアラサカに喧嘩を吹っ掛けた奴がいる。ジョニーとVだ――そんな華々しい伝説が、生き永らえたことで陳腐化してしまうというようなニュアンスでしょう。確かに「華々しく散る」や「立つ鳥跡を濁さず」のように、人は去り際にこそ美しさを求めてしまいます。個人的には隠しエンディングの、単身アラサカに乗り込むルートを選択し、太陽を象るルートがベストでした。

まとめると、待望の生き永らえるエンディングが実現しましたが、それはそれで何だか空しいという、どこまでいっても完全に腑に落ちることはない、「ナイトシティ」らしいストーリーを楽しめました。

最後に個人的ベスト写真と、印象に残ったセリフで締めくくります。

美しい空とナイトシティ

突飛な考えに聞こえるかもしれないけど、人生は変化がすべてよ。喜べないものも含めてね

ミスティ

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