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day11ーマインドフルネス治療はなぜ効くのか


杉浦義典. (2008). マインドフルネスにみる情動制御と心理的治療の研究の新しい方向性. 感情心理学研究, 16(2), 167-177.

マインドフルネスの心理学的知見のまとめ。

#100daysOfAbstract

マインドフルネスとは

・第3世代の認知行動療法(Hayes, Folette & Linehan, 2004)
 第1世代…行動療法、第2世代…認知療法

・特定の介入技法と、それによって達成される心理状態という2つの意味

・介入技法としてはマインドフルネス瞑想をさす。→マインドフルネスストレス低減法

・心理状態…今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく能動的な注意を向けること(Kabat-Zinn, 1994)

特徴

・他の認知行動療法のようにネガティブな認知を同定して修正することを試みない。

・ネガティブな思考を無理に抑えることなく、そこから距離をおく。

新しいアイディア

・心理的治療は通常、病理を発生させる素因を特定し、それを変化させる。
 しかし、治療を行っても素因がなくならない。

・認知行動療法の効果は、ネガティブな認知傾向を低減させることではなく、
 そのような思考が生じたときにも上手く対処するスキル(二次的思考)を涵養することによっている(Barber & DeRubeis, 1989)

・マインドフルネス治療では、ネガティブな思考から距離をおくことが重要

距離をおくことを支える注意機能

・否定的な思考から距離を置くスキル←注意集中能力、注意分割能力(Sugiura 2006)

・他にも宗教的な雰囲気、身体への気付きなど、多様な要素を含んでいる。
 注意機能の役割を明確にしたWells(1990)の実験では、中性的な音刺激(日常の生活音)に能動的な注意を向ける練習を行うことで各種の不安障害やうつ病に効果がみられた。

・しかし、身体への注意に付加的な治療的効果があるかも

 ◯心拍フィードバック
 ・心拍に注意を向けることで不安を強めやすい

治療の今後

・マインドフルネスに基づく治療では、ネガティブ情動をなくすという目標にこだわらない。

・エビデンスに基づくことが重視されるが、むしろ治療がなぜ効くのかというメカニズムを探り、様々な治療法を統合することが重要

所感

認知科学的研究では、パートナーの心拍が分かる状態で電話すると通常の電話より親密感が上昇するという知見があったから、自分の心拍に注意を向けて不安が強まるというのが逆で不思議。
個人的な仮説として、自分の心拍が常に確認できる状態というのは、常に時計を気にしている状態と同じなのではないかと思う。つまり、気にしなくてもいいことに気を遣っている状態になっていると考えられる。マインドフルネスはあくまで「今ここでの」自分の身体感覚に注意を向けることで注意の能力を向上させるのだから、単純なモニタリング状態とは異なるといえる。
さらに踏み込めば、この「今ここでの」状態に注意を向けるとか、「評価や判断を加える」ことない状態というのを実現するのが困難であるから、宗教とも結びつきやすかったのではないでしょうか。つまり、そのような状態に「悟り」という名前をつけることで至上の目的としたり、「語り難きを語る」というような崇高性を描きやすいのでは。

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