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かぜっぴきの日記。


どうしようもない寒気。ああ、ついに来たか。
へろへろの体で電車に乗り込む。
立っていられず手すりのそばに座り込むと、向かいの優先席に座るサラリーマンに怪訝な顔をされた。こちとら、いまそれどころじゃない。
リュックとマフラーに顔をうずめて耐えていると、しばらくして肩を叩かれた。私より年上の、ショートカットの女性。「あそこ、席あいてますよ」と言われる。正直動くのもしんどかったが、わざわざ声をかけてくれた女性の親切心を無下にしたくない気持ちの方が勝って、よろめきながら立ち上がる。「ありがとうございます」とほとんど音になっていない声でお礼を告げ、席に座った。最寄り駅のひとつ手前の駅名を告げるアナウンスで目が覚める。あと少しの辛抱。


家のちかくにコンビニはない。
買い物をするなら駅の周辺でだ。
ポカリだけはなんとしても手に入れなければ。
冷凍うどんと卵があったはずだから、食べ物はなんとかなる。とここまで考えたときに、「風邪のときくらい楽すれば?」ともうひとりのじぶんの声が聞こえた。
正気に戻り、セブンイレブンで出来合いのうどんを買う。一番野菜が入ってそうな、レンジでチンするだけで食べられるやつ。ついでにプリンも買う。
駅前でタクシーを拾い、家のちかくまで運んでもらう。タクシーのある世界線に生まれてよかった。風邪のときはいちいちいろんなことに感動してしまう気がする。


家に着く。そそくさと着替え、コンタクトを外し、洗顔、保湿。
いよいよ体温をはかる。38.4度。思っていたよりちゃんと発熱していて失笑してしまった。
さっき買ったうどんをレンジで温めている間に、かぜ薬を探す。あった、プレコール。
あつあつのうどんを半分ぼーっとしながら食べ、プレコールを2錠飲んだ。この錠剤型の薬を飲みこむときの、のどをぐっと圧迫してくる感じがいつまでたってもすきになれない。たぶん死ぬまですきになれない。
枕もとに体温計と1.5Lサイズのポカリを置いて、ばふっとふとんを被る。
しばらくして歯磨きをしていないことに気づき、ひとしきりうだうだしてから洗面所へ向かう。
しゃこしゃこと気のぬけた歯磨きをし終え、もう一度布団をかぶりなおし、目をとじる。


朝起きると37.9度。すこしさがったことに安堵し、思い切りのびをするも、からだの節々が痛い。痛風のひとって常にこんな感じなのかな、といらない心配をしだす。
昨日買ったプリンを食べて、薬をのんで(やっぱりのどにひっかかる)、またねむる。
昼過ぎに起きて体温をはかると、38.5度。なんだかじぶんの身体のなかの細胞たちがフルに闘っている感じがする。どうか今日で決着をつけてくれと願う。


19時過ぎに目覚める。すこし呼吸がしやすくなっている。
ポカリがもう底をつきそうで、仕方なしに一番近いコンビニまで歩いて向かう。
途中、一部分だけキラキラとひかっている道路があり、テンションがあがった。風邪だろうとなんだろうと、テンションがあがるときはあがる。
コンビニの明るさにくらくらしながら、ポカリとレトルトのカレーを購入して帰宅。
裏面の500Wで2分30秒という指示に従ってボタンを押し、カレーをチンする。熱で味覚が狂っているのか、正直おいしさはよくわからない。そもそも風邪のときにカレーって実際のところどうなのだろうって思ったけれど、力がつきそうだからよしとする。


22時頃、熱っぽさが消え、頭が冴えてきた。37.3度。微熱程度までさがったのだ。
からだの痛みもひいてきた。布団のなかで深く呼吸をする。
繰り返し呼吸をしていると、いま、ひとつ怖いことがあるのを思い出した。怖がる必要なんてないのになと頭では理解しているじぶんと、それでも怖いと感じているじぶんがいる。
わたしのなかに認められていないじぶんがいるから怖いのだ。じぶんさえそれを認めていたら、どこに行ったって、誰の前に立ったって、怖くないはずなんだ。
そう、「頭では理解している」という言葉に飽きている。だったら動けよと思う。一瞬一瞬を真摯に生きたいのだったら。じぶんのことを知り、認める。どんなじぶんだろうと祝福する。


朝起きる。5:00前。熱をはかると35.8度。平熱だ。
友人からラインが来ている。返信する。ささいなやりとりが幸せだなと思う。
おなかがめちゃくちゃに減っていることに気づいて、冷凍うどんをゆがいて卵を落として食べた。あんまりおいしくないのは、わたしの腕前か、味覚がまだおかしいからか。後者を信じたい。
思い切り伸びをする。縮こまっていた筋肉が伸びて、正しい場所に戻っていく。熱いシャワーを浴びよう。さっぱりした頭に、明日の台本をたたきこむのだ。


#日記 #エッセイ #雑記

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