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「瓶の中のメッセージ」山川健一/深夜のコンビニで出会った本。仕事やめてどっかに放浪したくなってしまった

The POLICE Message in a bottle

その頃流行っていた洋楽ロックのヒット曲にインスパイアされた小説集、って感じの本だった。山川健一って小説家をその時初めて知った。深夜にフラフラ入ったコンビニの雑誌コーナーに置いてあった文庫本。出会いからして今思い出すと青春ドラマだなぁ、と思う。

ポリスは好きだった。話題になった「白いレガッタ」はアルバムを買ったよ。確か輸入盤だったと思う。歌詞カードも当然ついていない。アルバムジャケットも紙質が粗末で薄かった気がする。

ポリスの日本でのデビューアルバム(だったのかな?記憶不確か)は当時の洋楽ロックファンには大評判であり、かなりヒットした。冒頭のMessage in a bottle(邦題「孤独のメッセージ」)はヴォーカルのスティングのちょっとハイトーンで緊張感のある声が歌詞を引き立てて聞かせる。アルバム名の「白いレガッタ」ってホワイトレゲエ(白人のレゲエ)って意味なんだそうだ。知らなかったよ〜。

確かにニューウェーブであるが、リズムの刻み方やギターの乗り方にレゲエの影響が色濃い。当時はものすごく斬新な曲作りだった。このアルバムを熱心に聴いていたのは高校の終わり頃だったんじゃないか。

今もこの曲を聞き直すと、繰り返される

I send an SOS to the World
I send an SOS to the World
I hope that someone gets my
I hope that someone gets my
I hope that someone gets my
message in a bottle, yeah
message in a bottle, yeah
message in a bottle, oh
message in a bottle, yeah

の部分で、自然にこのフレーズを自分の口が歌い出す。足がリズムを刻む。白髪のBBAだけどね、高校生の時に浴びるように聴いたこの曲の、心の底からの叫び。繰り返すフレーズが体に染み込んでいるようだ。最初に聴いた時からすでに40数年経っているのに。それだけの力のある曲なのだ。

こっちの動画は対訳がついていて、より聴くものの心をつかむ。

コンビニで出会って一気に読んだ記憶がある、山川健一著「瓶の中のメッセージ」は、連作小説のようになっていて当時の時代の空気が小説全体に色濃く漂っている。ロックにどっぷり浸かっていた当時のことをありありと思い出す。

卒業したら結婚が決まっている、良家の子女である大学の音楽サークルの後輩女子から誘惑される。店の客から受けたリクエストカードに書いてあった自殺予告に翻弄され、予告の場所に何度も行く。雑誌に音楽評論を書くが、雑誌が廃刊になる。アーティストを目指す女子学生と、廃刊になった雑誌の編集者と3人での共同生活。一緒にニューヨークに行くはずが、女子学生がパトロン的立場の教授の怒りをかってしまい、女子学生は貯めたお金を全て持ち逃げしてしまう。……そんな話の連作小説が1冊の文庫本にまとまっていたのではなかったか。

小説の終わり、主人公の彼はニューヨーク行きを目指す。狭く暗い一人暮らしの安アパートで、地下鉄工事の深夜アルバイトをしながら……。

小説の内容の細かい部分はほとんど覚えていない。だけど、この小説集全体に漂う心の中の衝動のような、自分を体の奥底から突き動かす何か。それをこの本から鮮烈に思い出す。ポリスのこの曲からもだ。この小説集を皮切りに、山川健一の小説は「パークアベニューの孤独」「星とレゲエの島」をこの後続けて読んだ。

ここでないどこか、今、自分の居る場所でない別の場所。

なんだかその頃の自分は、そんな場所を探していたような気がする。そして、この小説に出会った多分少し後に、自分は当時勤めていた音楽プロモートの会社を辞めてしまう。仕事のハードさと人間関係の煩雑さに傷つき、疲れ果ててしまったのだ。多分23歳頃のことだ。この歳になって思い出すと、その頃の自分を取り巻く人間関係の煩雑さなど

「なんぼのもんじゃい!」

って思うような大した事ない現実だったと思うよ。だけど、その頃の若かった自分にはキャパギリギリの目一杯だったし、鬱気質だったこともあってその後は1年近く職にも就けず、一人暮らしでフラフラと過ごした。しかし、あの頃の自分にはきっと必要な時間だったのだと思う。誰とも会いたくなかったし、話をしたくもなかった。孤独と不安感と。だけどその孤独が自分を守る強固な砦のような気もした。

当時、一人暮らしの部屋には電話さえ引いてなくて、実家からの緊急の連絡が電報で来たこともあった。そんな暮らしをしていた頃の自分を懐かしくも愛おしく思い出すのだ。若かったんだよねぇ。

思わずAmazonで発注しちゃったよ、この本。単行本や文庫本も何種類かの表紙デザインがあるようだが、自分が最初に手に取ったこの表紙の文庫本を選んで購入してした。届くのが楽しみだ。

山川氏はこの後も多数の著作を著しており、この「3部作」だけを読んで終わりにしてしまうのは勿体なかったかもしれない。ま、今からでも読めるから。年取ってから読むこの人の著作ってどんな感じかなぁ。



↓ボトルじゃなくてボウルだけど、切り子模様の涼やかなガラスボウルには色鮮やかな野菜を盛って。





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