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青木玉著「小石川の家」を二十数年ぶりに読み返した/本の受け取り方って年齢や時代によってこんなに変わるのね

青木玉は作家の幸田露伴の孫で、幸田文の娘だ。この青木玉のエッセイを20数年ぶりに読み返した。滞在した温泉宿に置いてあったのよ。最初に読んだのはもう随分前だ。一時期気に入って蔵書として身近に置いていた事がある。30代半ばの頃だった?かなぁ。もう記憶が定かでない。内容もほぼ忘れていた。

青木玉は1929年(昭和4年)生まれ。存命ではあるが90代。私の亡くなった母より少し年かさである。その青木玉が書いたこの本は、1994年に芸術選奨の文部大臣賞を受賞している。

気に入って読んでいた頃は、書かれている幼少期に住んでいた家や当時の風物、季節の移り変わりと共にある日々の生活、人との関わりが何とも言えず穏やかで風情があり、それを美しいと感じ私は気に入っていたのだろう。確かにこれは戦前に生まれ育った人でないと書けない文章だと思う。今のように何もかも便利になった暮らしとは遠く隔たった、丁寧な暮らしや全てに人の手がかかっていた時代。そんな日常が一つひとつ、子どもだった青木玉の目を通して描かれている。確かにここに描かれている何気ない日常は美しいのだ。

しかし、とワタシは思う。今一家の主婦として家庭のアレコレを切り回して(いい加減で適当ながら)料理や掃除や家計のやりくりや子どもの教育💦やらをやって来た身として思うのは……

この時代に生きてなくて良かった❣️

そればっかりである。(爆)

まず、洗濯機も電子レンジも給湯器もガスコンロもストーブも掃除機もない生活よ?家事全般、ほぼ全てを人手でこなさねばならない。洗濯はタライを使って手で洗濯したのだろう。給湯器なんか無いから冬場の水仕事はさぞかし辛かったと想像する。寒いったって炭をおこして火鉢で温まるくらい。その他、当時は和服が衣料の中心で季節ごとの衣替えやら手縫いでの着物の準備。洗濯は洗い張り。晴れ着は呉服屋に誂えてもらったのだろうけれど、普段着や浴衣などのお裁縫は家の主婦が担っていたはず。その他、毎日三度の食事の支度もほぼ全てが主婦やお手伝いの女性や子どもの手伝いなどでなされていた。外食なんて滅多にしないだろうし、来客も多い幸田家ではもてなしや料理も大変な手間だ。もう想像するだけで膨大な量の作業じゃないか。

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また、情報を得るのは精々新聞くらいか。家庭にTVなどないし娯楽と言えば映画やお芝居をごくたまに観に行く程度?

毎日の生活はこの通りだし、一番気になったのは描かれている当時10歳程度だった玉のしつけや教育のこと。

当時の最高の教養の持ち主であったけれど、厳格で恐ろしいまでの気難しさで頑固ジジイ(笑)である祖父の露伴。もう言うまでもなく男尊女卑の時代💦

出来の悪い子ども(青木玉の子供時代)に教育やシツケの名の下に平気で暴力が振るわれる。「お前を叩いた私の手も痛い❗️」と。子どもの気持ちに理解の無い親や祖父からお説教を食らうのは毎日の事。それが当時は一般的だったのだろうけれど、読んでいて本当にツラくなってしまったわ。現在の目で見れば虐待とパワハラの嵐よね(T . T)

それでも何とか言いつけ通りに物事をこなそうと必死になって、でもその通りに出来ないと母親である幸田文から横っ面を張られたり、後ろから蹴飛ばされたり。(そんなにしょっちゅうではなかったのだろうけど、お習字の稽古で後ろから蹴飛ばされて墨はこぼれるし大変なことになった、と書かれてある(T . T))そんなの今の時代にあり得ないよねぇ。いくら教育やシツケとは言え、親は子どもにイライラをぶつけているだけじゃない。これ一番やっちゃダメな事よ。

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↑読んでいると「しつけや教育のため、子供のため」なのだろうけれど、実際はこんな感じ💦

それでもこれは昭和初期の家庭での出来事だ。時代的な背景を考えると、これが当時一般的で考え方なんだとは思う。子供に対して要求されるレベルが多少高くても時代背景もあるし、仕方がない部分もあるかとは思う。

そしてここに描かれている日常は、この時代としては比較的裕福な良い家庭のことだ。だからもっと貧しい家庭ではどんなに暗く貧しく酷い日常だったのかと暗澹たる気持ちになる。

それにしても自分も蔵書として気に入って読んでいた頃から25年ほど経って、子どもを育てての経験も加わったのはあるけれど、モノの見方や感じ方って本当に変わるんだ、と思ったわ。

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文化勲章を賜った立派な人格者で深い教養のある祖父と、その父の文学者としての血を受け継ぎ家庭の切り盛りや料理の腕も素晴らしい母の元に生まれ育った事。特別な選ばれた立場ではあったろうけれど、些細な事で叱責を受け理詰めで追い詰められ、泣いても許してもらえない。これでは子どもの行き場がないわ。こういう風に常に叱られて育って、自己肯定感なんて育ちようがないよね。この方、長じてから生き辛さに苦しんだりはしなかったかしら?

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この本が文学としてダメだとか、そう言う事ではない。だけど今から7.80年前は子供って人権なんかほぼ省みられてなかったってことだね。こう言う教育やシツケを受けて育った人は、きっと立派な大人になったろう。厳しいしつけは受けても、大人になってその事を感謝したかも知れない。そんな時代だったのだろうし。

それに比べて今現在の子供の育ち方は非常に生ぬるい。それでもここまで子どもに厳しく当たったり、こう言うキツイ状態が容認されるのならば「生ぬるくてグダグタでも他人を思いやれる、人に対して優しい人の方がよっぽど良い」とか思っちゃうわ。いや、だけどダメな事はダメよ。自分に甘くて犯罪方面に行くとかは絶対NGだけどね。

読んだ年齢や時代によって本の受け取り方もこんなに変化するものなのね。自分も紆余曲折を経て、昔よりは多少はマシな人間になっているのかな? なんて少し思ったわ。



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