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ようなもの

「お魚、何にしますか」
「何ができるんだ」
「できますものはつゆはしらたらこぶあんこうのようなもの、ぶりにおいもにすだこでございます エーイ」
「おっそろしく早いな、しまいのエーイだけ分かった。真ん中の方はさっぱり分からねえ。ゆっくりもう一度やってみろ」
「今申したものは何でもできます。何にいたしますか」
「今言ったものは何でもできるのか。じゃあすまないが、ようなものを一人前持って来い」
「そんなものできません。」
「今、言ったじゃねえか。もう一ぺんやってみろ」
「できますものはつゆはしらたらこぶあんこうのようなもの・・ へへえ、これは口癖ですよ」
「口癖でもいいから一人前持って来い。」

先代の金馬を全国的に有名にしたのはラジオから流れる「居酒屋」だったんだろうと思う。
佃の叔父が噺好きで、よく寄席に連れてってもらったけど、先代金馬さんを聞いたのは、東宝の名人会だったような記憶が有る。良く憶えてない。でも前に見台を置いてたことは覚えている。もう足が悪かったころだったんだろうな。
話は。憶えてない。藪入りだったか、花見の仇打ちだったか、この居酒屋だったか・・定かでない。
でも。金馬さん、好きだったからね。聞きに行ったことは良く憶えているんだ。

あ~なんで、こんなことを言いだしたかというと、お休みなもんですから奥さまの下命を賜りまして、東京駅まで買い物へ随行したのでございます。まあ最近閉じこもりっぱなしだったからね、良い散歩だと思って付いてった。
東京駅って、丸の内の地下商店街が大変貌を遂げてるんだね、びっくりした。オッサレな店がいっぱい建ち並んでいるんだ。いかにも有りそなオッサレな店ね。 
ンで。そのあとは構内中央地下道を抜けて、八重洲口側の地下街へ出た。ハセガワさんに寄ろうと思ったんだ。ハセガワは僕が都内で愛用してる酒屋のひとつで、なかなかカルトなものをマメに揃えている秀逸店なのです。
ンで。びっくりしたんです。八重洲側の地下街だけど、丸の内に出来上がったモノと比べて凋落ぶりが酷い。商店街として旧くなったために、夫々の店のコンセプトが陳腐化してきてる・・ということも有るんだけど。あとから出てきてる飲食店が目に余るのだ。まるで判を押したように、わざと安い作りにした「大衆食堂」系「簡易居酒屋」系ばかりなのだ。天下の東京駅の地下だよ。東京の陸の玄関だよ。そこに並んでる飲食が、安さだけを強調した、わさわざチープな外内装にした店ばかり・・というのは、どうなのよ?これが今の日本の象徴なのかいな?そう思ってしまった。

そンで、何処の店も名前をチープ感満載のものにしてるのが小聡明い(あざとい)。
○○屋○○ェ門とかね。
思わず、その店の前で「川で ぷかぷかぁ♪ ぼく ドザエモン♪♪」って口ずさんじゃった。「しっ!」嫁さんに叱咤された。
実はさ。このテの店って、入ったこと有るんですよ。出てきた肴は、いかにも調理なんかしたことないアンちゃんが本部から回ってきてる半調理もんを、ちょいと加工しただけのものばかりだった。飲み物も、本部が提携してる大手酒屋の大量生産もンだけだった。んんん、まさに「ようなもん」な。いまじゃ「つゆはしらたらこぶあんこう」「ぶりにおいもにすだこ」に良く似た「ようなもの」ばかりが外飯しの主流になってきてるってぇことなんだな。
国の/文化の/凋落・・その象徴が大東京、陸の玄関に無数に並ぶ、このファストフード・ショップの姿なのかもしれないなぁ~帰り道、つらつらそう思ってしまった。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました